表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十二章 三ヶ国首脳会談編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

305/416

エピローグ 敗北の味

 ビバイ迎賓館がビバイ迎賓館跡地となったその日の夜。

 三ヶ国首脳会談は催し自体が建物ごと崩壊した関係で中止となり、満身創痍の状態で騎士団を守り続けたデニスとフィオナもそれぞれ帰国した。


 国防勲章受勲者らは現地の騎士団に事情説明をしなければならない関係で、少し遅れて帰途につく運びとなる。


「はぁ……」


 あの規模の戦いでこれほどまでに被害を抑えられたのは奇跡だとセシリアから言われた。それを誇る気にはなれないが、幸運だったと思いながら生を実感するばかりだ。


 圭介は今、ホテルのロビーに一人で座っている。


 魔力切れを起こして倒れたエリカと、テレサの尽力で潰されずに済んだユーは既に復活した。今頃食堂で元気に食事している頃だろう。主にユーが。

 ミアとレオの二人は後方支援に徹していたため目立つ怪我はない。まだ余裕を持って動ける人員として、サロモンや“双酷”兄妹とともにラステンバーグ騎士団の現場検証を手伝っているという話だった。


 圭介は今、とにかく休むように言われて仕方なくここにいる状態である。

 まるで体を置くような不自然さで柔らかいソファに腰を下ろしてから、定期的に溜息を吐き出す以外に何もできていない。


「はぁ……」


 理由はいくつかある。


 負けたこと。多くの人が死んだこと。藤野が人間をやめていたこと。

 この異世界に来てから何度か修羅場をくぐった圭介をして、何もかもがショッキング過ぎた。ここからすぐに立ち直れるほど図太い神経は持ち合わせていない。


『少しは落ち着きましたか?』

「いや最初から落ち着いてはいるんだよ。地面にめり込んでんだよこっちは」

『カートゥーンアニメの演出じみていますね』

「どっからそういう知識持ってきてんだお前」


 不幸中の幸いだったのは、途中で瓦礫に埋もれたと思われていたアズマがかなり早い段階で見つかったことだった。

 ほとんど動きのない中でガタガタと揺れている部分は非常によく目立ち、他の誰が見つけるまでもなく圭介の【サイコキネシス】による索敵で感知できたのだ。


 もちろん、殺されたアブラム・ラステンバーグ四世の死体の捜索は今も続けられている。


 首を折られて放り投げられた上からあれだけの瓦礫が降り注いだ以上、もはや原型など残っていないだろう。


 加えて彼がルドラに向かって飛んでいく原因となった霊符についても調査しなければならない。

 皇国内に皇帝の命を狙うどころか[デクレアラーズ]と協力関係にある者が、それも皇帝からそう離れていない位置にいるというのはあらゆる立場の人間にとって恐怖以外の何物でもなかった。


「この国、どうなるのかね」

『順当に行けばラウリ皇太子が皇位を引き継ぐこととなるでしょう。国内にいる反皇族派の中でも有力な人物が今回の騒動で全員死んだそうなので、妨害される懸念もあまりないかと』


 自分が住んでいるわけでもない他国の未来を憂える。

 少し前までは考えもしなかったが、今回の件で認識を改める必要があると圭介は判断した。[デクレアラーズ]に関する諸問題は間違いなく大陸規模で考えなければならない。


「はぁ……」


 また溜息を吐いたところで、近づいてくる気配を二人分感じた。


「よっすケースケ。お疲れか?」

「仲間が全員生き残ったってのに辛気臭い顔してるわねぇ。気持ちはわからないでもないけど」


 ヘラルド・オリボとウーゴ・スビサレタ。

 ハイドラ王国から来たパーティに属する二人だ。


「うっす。そっちは、まぁ……」

『ローガン・ピックルズ氏の件については残念でしたね』


 アズマの言葉にヘラルドは寂しげな笑みを浮かべて頷き、ウーゴは静かに目を閉じた。


「おう、ありがとうな。正直まだ実感湧かないんだけどさ」

「そういうもんか。妹さんは?」

「エメリナなら部屋で寝てるわぁ。いっぱい泣いたから」

「そっか。やっぱ仲良かったんだろうね」

「傭兵暮らしに慣れ過ぎて世間ずれしてる人だったからな。あのガキってばよく得意げに色々吹き込んでて、年齢は親子くらい離れてるはずなのにおっちゃんのこと弟みたいに扱ってたよ」


 あの透明感ある美少女が屈強な大男相手にお姉さんぶっている姿を想像して、微笑ましい気持ちになる。

 だがその光景を肉眼で見る日は永遠に来ない。彼らとて態度だけは平然としているものの、胸中に秘めた想いは如何ほどか。


「それからテレサの方は大丈夫だとよ。気絶するくらい痛かっただけで骨も内臓も無事だったらしい。オタクんとこの獣人と客人が回復してくれたおかげさ」

「本当にありがとうね。彼女にまで何かあったらと思うと、正直ウチのパーティは解散するしかなくなってたわよ」

「そのお礼はミアとレオに言ってくれたらいいや。というか何だかんだ生き残った中で本当に危なかったのってラステンバーグのイスモさんくらいか」


 ルドラの魔力弾によって体に風穴を開けられた彼は今、緊急入院という形で病室に閉じ込められているらしい。

 命に別状はないと聞いたが同時に部屋に入ってすぐ面会謝絶が決まったとも聞いた。教会警備隊の一員という立場がある以上、外に出ない理由は治療のためだけに留まらないのだろう。


「ていうかそっちの場合パーティメンバーも大事だけどさ。君らンとこの王様どうなったの」

『勢いよく吹き飛ばされてから音沙汰ありませんでしたが』

「ルフィノ国王なら怪我こそ無かったものの、あの騒ぎで怪我した人の救助とか避難誘導をしながらこっちに近づいてたから決着までに間に合わなかったんだと。アガルタ国王陛下に向けても謝ってたぜ」

「王様が別の国の王様にそんな軽く頭下げて大丈夫なのかな……」


 あれだけ遠くの建物にあの速度で叩きつけられて、それでも他者を優先しながら再度戦場に向かえる程度には体力に満ち満ちていたらしい。

 それはそれで凄まじい話だ。しかし仮に追いついていたとして果たしてどこまで戦えたものか。


 今回の件を受けてアガルタとハイドラはラステンバーグの皇帝を死なせてしまったと非難を受けることが多くなる。ある意味デニスが最も避けたかった未来が現実になりつつあるのかもしれない。


 となればすべきことは明確だ。


「皇帝に霊符仕込んだのが誰か、ってところをハッキリさせたい、けど……」

「十中八九握り潰されるでしょうねぇ。だってそれ、皇族内にテロ組織と繋がってる誰かがいるってことでしょ? 可能性だけでとんでもないスキャンダルよぉ。下手したらそれ見てた私達だって無事じゃ済まないかもしれないわぁ」


 ウーゴの言葉は決して不穏なだけの冗談ではなく、実際にあり得る話として場の空気を重くした。


 そも[デクレアラーズ]の目的としてはアブラムを殺した時点でその場から去って良かったはずなのだ。しかし実際にはその場に残って国防勲章受勲者を殺そうとしている。


 どんなに楽観視したとしても、皇国の深い位置に圭介達の命を極めて軽いものとして見ている誰かがいると見ていい。

 敵は、単なる犯罪組織ではないのだと改めて思い知らされた。


「はぁ……」


 またも溜息が自然と出てしまう。敵などいない方がいいのに、どうしても出来てしまうものである。


「じゃ、俺らこのまま食堂行くから。オメーも腹減ったら来な」

「どんなに追い詰められてても食べなきゃダメよぉ。ここから先、いつどこで戦いが始まるかわかったもんじゃないんだからね」

「うん。少し休んだら行くわ」

『また後で』


 ヘラルドとウーゴの背中を見送り、また暫し沈黙したままじっとする。

 食欲がないわけでも腹が減っていないわけでもなかった。ただ食欲を上回る疲れを、下回るまで回復させるべく今はただ休んでいるだけだ。


「王様死なせずに済んだけど、結局僕らは僕らの身内しか守れなかったな……」

『そうですね』

「勝てるのかね、あんな化け物が当たり前にいる組織相手に」

『勝つしかないでしょう。少なくとも異世界から帰還できる可能性に最も近いのは[デクレアラーズ]です』

「…………正直、怖いな」


 気力と体力が回復したら食堂に向かう。

 そう決めていたのに、まるで敗北する未来から目を逸らすように眠気に襲われる。高級ホテルのソファは座る者を下手なベッド以上に優しく夢へと誘う。


「久々に挫けそうだ。あの人数で囲んで勝てなかったし、アイツまだ全然本気じゃなかったし、都古はいつの間にかロボットになってたらしいし」

『私と同じ状態ということでしょうか』

「いや違うと思うけど。……ふぁあ」


 こぼれるあくびは呑気さではなく、真に忙しないことの証左。


 柔らかい背もたれに意識を吸い込まれて完全に手放す直前、


「強くなりてえ」


 偽らざる本心が、寝言のように口から出てきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ