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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十章 第二次“大陸洗浄”突入編

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プロローグ あれから

 少しずつ空気は熱を失い始め、景色が夕暮れに染まる時間帯ともなればこれまでの暑さは何処かへと過ぎ去ってしまう。

 街路樹には宝石のように黄昏の光を照り返す赤や緑の葉がついていて、それらが集まる枝を涼やかな風が優しく揺らした。


 秋の入り口に在る王都メティス。

 雑踏が孕む賑わいには気温の変化を語らう声がちらほらと散りばめられ、人々が纏う衣服の厚みは明確に変化している。


 その中で圭介もまた、半袖から薄手の長袖へと装いを改めていた。


(こっちの秋はあっちと比べて長いんだっけ)


 追想するのは日本で過ごしていた頃の秋。あちらでは全身に覆い被さる毛布のような蒸し暑さが長い期間続き、やがて台風が訪れて涼しさを感じるより先に冬へと移行する。つまり秋を秋として認識できる期間は非常に短い。


 ビーレフェルト大陸に来てから四ヶ月半。

 正直なところ、帰還を諦め定住を選んだ同胞達の気持ちもわからないわけではなくなってきていた。


 だからと完全に帰る意志が消え去ったわけでもない。今マゲラン通りを歩いているのも、すっかり馴染みとなった図書館から帰る途中だからだ。


(部屋戻る前に一旦ホーム寄るか。借りてた資料返さなきゃだし)


 鞄に入った客人の歴史に関する書籍数冊の重みを意識しながらプレハブ小屋を目指す。


 途中、上層階を失った都庁舎が視界に入った。


 現在では戦いの中で破壊された部分を復旧すべく工事が進められている。意外と場所さえわかっていれば日頃から見える位置にあったのだと思い知らされたものだ。

 浮遊島も空港に転移するためのハディアが破壊されてしまったため今は入れない。メティスに住まう人々の何割かは突如起こった大規模な事件により、一時的な休業を余儀なくされていた。


 戦いの余波はそれだけに留まらず、あちらこちらに散見される。


 飛来した瓦礫や魔力砲撃を受けて砕かれた地面は完全に修復しきれていない箇所もあり、毒を含む虫型ホムンクルスの死骸に汚染された場所などテープで囲われている状態だ。


(デカい戦いだったもんな)


 飛空艇の上で繰り広げられたユーとジェリーの師弟対決。

 空港の滑走路で展開されたバイロンと第六騎士団の死闘。

 市街地を穴だらけにした魔力弾と魔力砲撃の激しき応酬。


 流石に全てを隠蔽するのは不可能だったらしい。メティス都知事、マシュー・モーガンズの暴走は既に市井に広く知られてしまった。


(次の都知事選がどうなるかなんて知ったこっちゃないけど、校長先生は大丈夫なんだろか。表向きは大丈夫そうに振る舞う人だから余計に歯がゆいな)


 気高く聡いレイチェルの心中を案じながらしばらく歩いて、ホームに到着する。いつぞやエリカと一緒に作ったダンボール製の滑り台が埃を被っていた。


 引き戸を開けて中を見る。

 誰もいない。


(……ついでにちょっと勉強してくか)


 陽の光は未だ沈まずともそろそろ暗くなり始める時間帯である。電灯を点け、鞄の中身を取り出しつつ座り込む。


 排斥派との戦いが続く中であまり予習復習の時間を確保できていなかったのもあり、圭介は室内のテーブルに参考書とノートを置いて筆記用具を取り出した。

 彼は特に勤勉な方ではない。ただ、何となく一つの作業に没頭したい気分になっただけだ。


(一時期はここにもうるさい連中が押しかけてて迷惑したもんだけど、すっかり静かになったなぁ。やっぱ王族とコネ持ってるからかね)


 新聞や雑誌の記者がうんざりするくらいに殺到してきた時のことを思い出す。落ち着いた今だからこそ笑い話にもなるが、当時は本気で全員まとめて念動力で吹き飛ばそうかとさえ思っていた。


 静かな時間の中で淡々とノートに鉛筆を走らせていく。


 他の仲間達は各々用事があって不在だ。

 エリカは学生寮の買い出し当番ということでコリンとともにスーパーへ赴き、ミアは何やら事情があるらしく文化祭実行委員会に呼び出しを受けて学校に居残り。

 ユーは指名手配犯だったジェリーを討伐したため、半ば押しつけられるような形で懸賞金を受け取りにエルフの森へと帰っていた。もうそろそろメティスに帰ってくる頃合いだろう。

 セシリアはここ最近戦ってばかりいたために蓄積していた王城での仕事を片付けるべく奔走していると聞く。


 そしてレオは、メティスで世話になっていたアルバイトを辞めるため最後の仕事を終えようとしていた。


(ま、そりゃそうか。もう僕が排斥派に狙われる心配はいらないんだから)


 自分が寝泊まりしている部屋の両隣りが空き室になって久しい季節の変わり目。


 騒がしかった夏休み最後の一日は静かに、しかしどこか不穏な空気を携えながら終わろうとしていた。

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