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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第七章 エルフの森帰郷編

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第一話 エルフなるものについて

 夕方十八時、宿泊施設前。

 排斥派からの襲撃に備えて派遣されたセシリアとレオに、圭介は一応の断りを入れていた。


「ってことで来週明けからエルフの森行くんで」

「へぇー、なんか正統派ファンタジーっぽくて良いじゃないっすか」

「異世界で聞く“正統派ファンタジー”って言葉の違和感ヤバいな」

「まあエルフの森なら問題あるまい。ただし連絡が途絶えるのは考え物だから、事前に無線ルーターを買っておけ。今のお前の所持金ならそれなり値の張るものでも買えるだろう」


 レオが引き留めないのは予想していたものの、セシリアがあっさり外出を許したのは意外だった。あまつさえ同行しようとすらしないのは圭介としても疑問が残る。

 正式なパーティメンバーではないものの、一緒に来るなら来てくれて構わないとユーからも事前に許可を得ていたのだが。


「一緒に来ないんですか? てっきり同行するって言ってくるものだと思ってたんですけど」

「他の場所ならそういうことも考えただろうが、エルフの森だろう? それなら寧ろここに留まって圭介の部屋を監視していた方が建設的だ」

『それはどういう意味でしょうか。エルフの森ならば襲撃の心配はないと?』

「あそこは下手するとこの王都メティスより安全性が高い。あんな場所で率先して暴れる犯罪者など、よほど世間を知らない馬鹿者くらいなものだろうよ」


 建物の支柱にもたれかかりながらセシリアは語る。


 元々彼女らは圭介の孤立を防ぐために派遣された立場に過ぎず、極論を言えば私生活の場を圭介の隣室に移しただけで役割だけは最低限全うしているのだ。

 圭介がパーティメンバーと共に旅行に行くというのであれば、そこに同行する必要性は無いと言えば無い。


 彼女は更に説明を続ける。


「元々エルフの魔力量は客人に比肩するほど多い。加えて若々しい肉体を保持しながら活動できる長命種族であることから、緊急事態への対処においては素人の集まりでさえ騎士団に及ぶほどの連携を見せるものだ」

「はへぇ、そらすげぇや」


 感心したようにレオが息を吐く。一方で圭介は疑問を抱いていた。


「でも全員が全員強いってわけじゃないんじゃ? エルフったって戦えない人もいるでしょう」

「年齢とそれまでの人生経験によってはな」

『その条件を適用させるのならば他の種族にも同じことが言えるのではないでしょうか』

「いや、エルフは先に説明したように長命でな。その分我々とは大きく異なる部分があって……まあそこは現地で直接話を聞くといい。ユーフェミア一人を見ているだけではわからなかった部分も見えてくるだろう。それではな」


 アズマの指摘に対して妙な歯切れの悪さを見せつつも、セシリアは答えるべきに答えたという顔で自室へと入る。引っかかりを覚えた圭介は頭上の猛禽に補足説明を求めることとした。


「ねえアズマ。エルフが長命だからって何か普通の種族と違うところとかあんの? さっきのセシリアさんの話を聞いた限りだと、戦える人の方が多いみたいだったけど」

『客人と接する上で必要な情報は獲得していますが、ビーレフェルト大陸の原住種族に関する情報はあまり多くありません。ただエルフの場合、平均寿命は二〇〇年ほどだと言われていますね』

「二〇〇年かあ……そら長生きだ。レオは何か他に知ってる?」

「やー、俺もこっち来てすぐダアトに引き込まれたんで実はユーさんと会うまでエルフ自体見たことなかったんすよ。んで、ユーさんと初めて会った時も耳が尖ってるくらいの印象しかなかったっすね。それ以外は普通かなあ、って感じっす」

「……だよね。僕もユーと最初に会った時は何だかんだそんなもんだったような気がする」


 客人やヒューマンとの違いは耳が尖っていることと異常な食欲以外に見受けられない。圭介達が知っているエルフという種族はそういう存在だ。

 長命だからこそ生じる特徴、そこに年齢と人生経験が絡むとするなら。


「モンスターとかいる世界だし、戦う力はどっかしらで手に入れてるもんなのかもしれないね」

「ああなるほど。加えて魔力が多いって話っすもんね。そんな種族が集まってたらそりゃあ犯罪者も迂闊に手出しできねーわ」

『犯罪に用いられる魔術の系統によっては武力による対抗も難しいかと思いますが、その上であらゆる面での対策はしていてもおかしくありません』

「まあエルフの中に犯罪者がいる可能性もあるけど、聞いた限りじゃついこないだまで村社会みたいなもんだったらしいし。そんな率先して村八分になるような奴は長生きできないっしょ多分」


 話せば話すほどセシリアの態度も飲み込めてくる。確かに生半可な犯罪者では実行にすら至れるものか怪しい。

 治安はよさそうだ、と圭介が安堵しているとレオもあくびをしながらドアノブに手をかけた。


「じゃ、俺もそろそろ。明日一日はフリーなんで良かったら一緒にいます?」

「あーそれなら一応頼んでおこうかな。あれからダグラスもずっと来ないけど、急に来る可能性もなくはないし」

「ってなると一日中一緒っすね」


 男同士で随分と気持ちの悪いやり取りをしてしまっているような気もするが、いくら強くなったとは言っても一人より二人の方が心強いのは当然だ。相手も常に一人とは限らない。

 適当に合流して午後から始められるクエストでもやろうと話をつけると、双方各々の部屋へと戻った。


『トラロックでの一件以来、周囲に変わった様子は見受けられませんね』

「良いこった。僕は常にこんな状態でいたいよ。もう何なら十年くらい頑張っても元の世界に戻れそうになければ農業とかしようかな、多分念動力魔術があれば色々できると思うし」


 冗談めかして最悪元の世界に戻れなかった場合の未来を語る。


(ああでも、その十年ってのもユーからしてみれば一瞬なのか。置いていくのは友達としてしんどそうだなぁ)


 長命種族である一人の少女に、少し思いを馳せながら。


   *     *     *     *     *     *  


 パーティメンバーと共にエルフの森に向かう前日の正午。

 電化製品店で無線ルーターを購入した帰りのマゲラン通りにて、圭介は買い物袋を手に提げたレイチェルと出くわした。


「おや、お久しぶりです」

「あ、どうもお久しぶりですー」

『初めまして。アズマと申します』

「どうも初めまして、レイチェルです。……本当に人工知能を持つ魔道具を頭に載せているんですね。最初に話だけ聞いた時には何かの冗談かと思いましたが」


 最後に会ったのは遠方訪問前にあった都知事との食事会だったので、顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。

 そんな久しぶりに見る相手が、頭にそんなものを積載した状態で街中を歩いていれば気にもなるだろう。圭介はもはやこの反応にも慣れつつあった。


「遠方訪問、及びトラロックではハプニングが続いたようですね。特にロトルアで発覚した[エイベル警備保障]と[プロージットタイム]の不祥事に関しては、こちらの確認不足もあって大変なご迷惑を……」

「ああいやいや、悪いのは悪い事した連中なので校長先生が謝るようなこっちゃないですよ。それに僕とミアを雇ったバンブラは良い人揃いだったし」

「そう言っていただけると助かります」


 学校行事で世話になる企業が白いか黒いかの判別など、学校側で判断もできまい。あの一件に関して言えばレイチェルに責任はないと圭介は認識していた。


「遠方訪問を終えてからもトラロックで排斥派との戦闘に入ったと聞きました。あれから何か身の回りで変わったことは起きていませんか?」

「特にはなかったですね」

『周囲でも不自然な魔力反応はありませんでした』

「そうですか……」


 どうやら圭介とアズマの言葉に安堵を覚えたらしいレイチェルは、買い物袋を持つ手から少しだけ力を抜く。エリカから話は聞いていただろうが、圭介本人にも安全確認をしておきたかったのかもしれない。


「もう少ししたらエリカ達と一緒に旅行に出かけるようですね。あまりこういったことはプライベートで言いたくないのですが、あまり羽目を外し過ぎないように。学生として節度ある振る舞いを心がけてください」

「ははは、わかりました。エリカにも言っておきますよ」


 他の二人、ミアとユーは立ち居振る舞いについて問題あるまい。強いて言うならユーの腹の空き具合が気になるところだ。

 と、ユーについて考えが及んだところでレイチェルに訊きたいことができた。


「あの、校長先生。ちょっと質問があるんですけど」

「何でしょう?」

「エルフという種族についてです。えーと、何か長命種族だから僕らとは違うみたいな話を昨日――」


 昨晩セシリアから少し言われた部分とそこに残る疑問点を、圭介はまとまり切っていないなりにレイチェルに伝えた。

 包括すると『エルフとは何ぞや』という話に収束する。

 全てを聞き終えたレイチェルは顎に手をやって思案すると、やがて口を開いた。


「それこそセシリアさんの言う通り、彼らの居住空間で彼らから話を聞くのが最もわかりやすいと思うのですが……そうですね」


 彼女はしばらく顎に手を当てながら思案し、やがて口を開いた。


「エルフという種族は、ある程度成長すると人が変わるんですよ」

「……? 長生きしてる内に前とは違う性格になるってことですか?」

「そう捉えていただいて問題ありません。それに以前はモンスターが生息する環境下で生きてきたこともあり、多くの高齢エルフが一生涯の内のどこかで戦闘技術を身に着けています」


 その話を聞いて圭介はいよいよ感心した。


 エルフは長命種族であり、高齢になればなるほど戦闘能力を有する人材の比率が高くなってくる。彼らが密集して生活しているような場所では、確かに排斥派も好き勝手に暴れるという真似は出来まい。

 もちろんそのエルフの中に排斥派が潜んでいる可能性もあるものの、地位の高いエルフにそういった気配はなさそうだった。あればセシリアが事前に何かしら言ってくるだろう。


「ですので大人しい性格のエルフが五十年前は暴虐の限りを尽くしていた……というケースも考えられます。加えてある程度成長すれば外見で年齢の判断をするのが困難という要素もあり、現地の人々でもなければ誰が戦闘員で誰が非戦闘員かを見分けるのは不可能に近いでしょう」

『それならば確かに迂闊な行動はできませんね』

「ああ、セシリアさんやレオが安心して送り出すわけだよ」


 ともあれ安全性の根拠は理解できた。少なくともダグラスによる襲撃の可能性はトラロックよりも低い。


 今回は純粋に羽を伸ばせそうだと安心していると、レイチェルががさりと買い物袋を揺らした。


「お役に立てましたでしょうか? では、私もこれで」

「おかげでスッキリしたような気がします。すみません、買い物の途中で」

『ありがとうございました』


 ぺこりと会釈し合ってからお互い別々の方向に向かう。国立騎士団学校で校長を務めるレイチェルの住まいはメティスの中心部にあるタワーマンションと聞いていたので、圭介は何となく彼女が向かう先に見えるベージュ色の塔を見上げた。

 嘗てはあそこにエリカも住んでいたりしたのだろうか、などと考えながら。


『ところでマスター、まだ疑問があるのですが』

「うん? どした?」

『エルフが集合している地域では、食糧事情はどうなっているのでしょうか』

「そりゃまあ、よく食べる種族なわけだしそれなりに農業とかやってんじゃ……ああだから森とかそういう場所で暮らしてきたのか? 果樹園とか牧場とかもしかしたらあるかもね」


 仮にそういったものが無かったとしてもこのインフラ整備が端々に及んだ異世界であれば、大量の食物を外部から仕入れることは可能だろう。


 心配なのはエルフの森での食糧事情よりも食事内容だ。適当な定食屋で適当に注文したとして、出される料理の量がエルフ基準だなどと考えただけで恐ろしい。

 彼らが平均でどれほど食べるのかは、ユーとアルバイト先で見かけるエルフの食事量を見れば大体わかる。


「腹は空かせてから行くべきかなあ」


 ひとまず今晩の献立はあっさりした内容にしておこう、と圭介は心に決めたのだった。

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