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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第七章 エルフの森帰郷編

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プロローグ 臨時収入の使い道

 冷房が充分に冷やしてくれているホームの中では、圭介、エリカ、ミア、ユーの正規パーティ四名が揃っていた。

 宿題は既に全員早めに済ませてしまったし、目下急ぎのクエストもない。特にやるべきこともない現状にあって、四人の表情は険しかった。


「……これ、モンタギュー君とコリンから」


 言ってミアが他の三人に見せるようテーブルに置いてすっと差し出したのは、一〇シリカ紙幣六枚と二シリカ硬貨が四枚。


「こっちはセシリアさんとレオから……」

『そちらと同じ金額を手渡してきました』


 圭介が同じくテーブルの上に置いたのも同様、同額の値段だった。


「あたしは何でかエルマーから」

「彼ほとんどこっち来てないのに?」

「ああ、ほとんどこっち来てねえのに」


 エリカが出したのはそれらの半額、紙幣三枚に硬貨二枚。


「あの、これどう使うべきなのかな」

「知るかよんなもん」

「私は正直これを口座に振り込むのすらあんまり気が進まないというか」

「僕だっていらないっつったんだけど、半ば押し付けられた……」


 彼らが並べた金銭は、名前を挙げられた非パーティメンバー各々から支払われたホーム使用料である。


 土地の権利をパーティが有している関係上、その維持費や光熱費など諸々金がかかるのは摂理だ。そして他のホームを持つパーティ同様、彼らは彼ら四人で共有財産としてまとまった金銭を用意していた。

 毎月二十五日には四人のクエスト報酬をそれぞれ何割か振り込んでいる口座から各種費用が引き抜かれていたのだが、遠方訪問を終えて何度か出入りがあった何人かから「何度か使わせてもらったので」と使用料を手渡されたのである。


『臨時収入は喜ばしいことではないのでしょうか? 現状特に使い道がなければ貯金しておけばよろしいかと』

「「「「……………………」」」」


 向こうが払いたいと言っているのだから本来であれば断る必要もない。ないが、同時に受け取ったところで共有財産として口座に振り込むくらいしか使い道が思い浮かばない。

 それにわざわざ銀行まで赴いて振り込む手続きをするのにも手間になるような、中途半端な額だったのも頭を悩ませるところである。この暑い中、簡単なクエスト一回分の報酬に相当する金額をわざわざ振り込みに出かける気にはなれなかった。


「で、金を押し付けた連中はどうしたよ。因みにエルマーは渡した途端にどっか走って逃げた」

「セシリアさんは僕が帰ってくるまで僕の部屋周りを警護。レオはこっち来てから始めたワインのボトル包装のアルバイトに行ってる」

「コリンは槍術研究会と杖術研究会の合同合宿に密着取材でコンス……まあ、山奥の方まで行ってる。モンタギュー君は知らない」

「どーせまたオカルト関連で出かけてんだろ。しっかしセシリアさんはともかくレオの野郎はそれでもケースケの護衛なのかね」

「まあまあ……」

『常に身辺警護を継続するという話ではありませんでしたよ』


 エリカは彼ら二人の役割を四六時中圭介と行動を共にするものと思っていたようだが、そもそも私生活を脅かされないようにという采配で近くまで来ているに過ぎないのだ。どちらかと言えば今セシリアがしているように敵の暗躍を阻止することが本懐と言えるだろう。

 トラロックで同行したのも、行き先の治安が安定していなかったことが理由としては大きい。ただパーティ揃って外に出かけるだけなら特に着いて行く必要はないのだ。


「あ、そうだ。さっきうちのお母さんからホーム宛に手紙が来てたんだけど」


 そして今回ユーが持ち出した話は、彼らの動向を必要としないケースに該当する。


「お母さんって、エルフの森の?」

「あの爆乳の母ちゃんか」

「ばく、何だと?」


 圭介にとって聞き捨てならない情報がエリカの口から飛び出したような気がした。


「うん。何だろ、ケースケ君が有名人になったからかな」


 彼女の母親は意外とミーハーなのだろうか、と圭介が思っている間にもユーが封筒を開けて中の手紙を取り出す。


「えーと……。あ、やっぱりそろそろ顔見せてって内容だったよ。良ければパーティメンバーで来て欲しいってさ。いつもはそんなことまで書いてないのに、やっぱりケースケ君が気になるんだねえ」

「つっても今までだって夏になりゃ三人で顔見せはしてきただろ。まあ確かに今年はおまけがついてくるけどな」

「どーもオマケです」


 そんな適当極まる相槌を打っている圭介の目線が、テーブルの上にあるものを捉えた。


「じゃあもうそのための旅費に使っちゃおうか、このお金」

「あーそうだね。それでいいか」

「あたしら全員で行く分にはパーティの活動費ってことで片付くしな」

「ってことは皆来てくれるってことかな? それならそう返事の手紙出すけど」


 圭介としてはユーの里帰りに付き合うことに否やはない。

 ないが、今の彼女の言葉を聞いて一つ気になった。


「あのさ、わざわざ手書きで手紙出さなくてもメールでいいんじゃないの。スマホあるでしょ」

「ウチの地元、ネット回線はあるけどケータイの基地局は無いんだ。だからスマホでやり取りはできないよ」

「えっ?」

「お母さんもパソコンすら持ってないし……。せっかく回線繋がったんだし、お金はあるんだから買えばいいのに」

「そりゃ開拓されたのだって十数年前だもんね。回線繋げるだけでも昔から住んでたエルフの人達からの反対運動とかで進めるの遅れたらしいし」


 この異世界に来て間もない頃、エリカが「エルフの森が排他的だったのもここ十数年で少しずつ改善されて……」と語っていたのを思い出す。

 逆に言えば外部との交流を持ち始めたのが十数年前からなのだ。加えて今のミアの話を聞いた限りだと、それに反対する意見が年長者の世代から噴出していたらしい。


 インフラ整備が成されていない森の居住区なるものに不安が募る。

 が、そこは前向きに考えることとした。


(……まあ前向きに考えればメティスよりはファンタジー色濃厚な土地柄なのかもしれないし。ネット通じてるらしいけど)


『ネット回線が通じているくらいなら水に流そう』と何かがおかしい認識を持ちながらも、圭介は未だ見ぬエルフの森に思いを馳せたのだった。

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