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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第六章 迷宮洞窟商店街トラロック編

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プロローグ 人生初の機内食

 マヨネーズの語源は「マオン町のソース」だと言われている。確かスペインの港町発祥のソースが元として存在しており、それが現代におけるマヨネーズとなったらしい。

 一時期「とりあえず異世界行ってマヨネーズ作ればよくね?」などという創作を舐めきった態度で小説の設定を練っていた圭介は、一応その程度の知識を有してはいた。


 だからこそ疑問が生じる。


 マオン町が存在しない異世界におけるマヨネーズという言葉には、いかようなる意味合いが込められているのだろうか。


「……どしたのケースケ君、機内食のマカロニなんてじっと見つめて」

「言葉の意味合いについてちょっと考察をね……」

「たまにそういう変な深みにハマる癖あるよねぇ」

『客観的に見ると不審人物のようでしたよ』

「マジか」


 顔を上げて周囲を見渡す。


 圭介の前にはプレートに載せられた食事が存在していた。

 地球には存在しなかった鳥類の焼肉及び惣菜各種。それらの容器が置かれているのは、床に根差さず壁から伸びるプラスチックらしき素材のテーブル。

 隣りに視線を移すと、草原の緑と空の青が強く主張する外の景色。丸く縁取られた窓にはガラスではなく透明な結界術式が用いられている。


 そして対面する位置には自身と同じメニューを食するミアが座っていて、頭の重みはアズマの鎮座を告げていた。


「これでも人生初の機内食だからさ。ちょっと興味あって」


 圭介達が今いる場所は、ロトルアから王都メティスに向かっている飛空艇の中であった。


 ミノカサゴに類似した形状の船体はそれこそ地球における旅客機と変わらない大きさを誇っており、空中を泳ぐようにして優雅に移動している。

 地球にいた頃は飛行機にすら乗った経験のない圭介にとって、空の旅路はそれなり楽しいものだ。


「でもロトルアからメティスってそんなに離れてたの? 僕こっちの地理はまだそんなに詳しくないんだけど」

「距離的にもそこそこ遠いけど、途中でウォルバラインっていう大きくて危険度の高い山脈があるからね。よほどの事情がない限りは空路で迂回するんだよ」

「……ああ、そっか。モンスターが普通にいる世界で、尚且つ人が住んでる場所じゃなければそういうパターンもあるのか」


 納得しながらマカロニを口に含む。こちらは地球にいた頃に食べていたそれと変わらない味をしている。

 が、謎の肉はどこか豆腐とコンニャクの中間といった塩梅の食感であった。一応美味いは美味い。


 機内食を咀嚼し飲み込んでから改めて周囲の様子を眺めた圭介は、その景色に自分達と同じ学生の姿があまり見られないことに気付く。


「やっぱ僕らの遠方訪問って早めに終わった方なんだろうね。これから何日か暇な日が続きそうだなあ」

「んーまあそうなんだけど。大体全員が帰ってくるくらいのタイミングで今度は期末テストの順位発表があるから……人によってはこれからが憂鬱なんだよねー」

「そういやそんなのあったな。僕は退学にならなければ何でもいいけど、本気で騎士目指してる人は競争だもんね」

「つーか中等部時代、エリカがいつも学年二位にいたのが解せない」


 それを聞いた圭介も解せない気持ちになった。


「でもそれって一位の人がいるってことでしょ? 上には上がいるもんだ」

「まあね。多分今回もウチの学年ではあの人が一位なんじゃないかな」


 ミアが謎の鳥肉にフォークを刺しながら呟く。


 エリカを見ていると特別本気で騎士を目指しているようには見えなかったが、それでも中等部の学力テストで学年二位を貫き続けたというのは素直に感心すべき事柄ではある。しかし彼女が二位という順位に甘んじている以上、それを上回る猛者もいるのだ。


 どんな人かな、と圭介は思いを巡らせながらオレンジジュースをくぴりと飲んでいると、アズマが頭上でもぞもぞと動き出した。頭部を下げて話に参加しようと体勢を整えたようだ。


『実技試験などはあるのですか? 騎士団学校ともなれば実戦での動きも重要視されてくるかと思われますが』


 どうやらテストの話題に食いついたようである。圭介はその発言を少し意外に思ったが、考えてみればダアトから出たことなどなかったのだろうし好奇心は強いのかもしれない。


「実技にテストは無いなあ。代わりにギルドが学校側に生徒一人一人のクエスト達成報告を入れてるから、そこから成績が決まる方式らしいよ。今回の遠方訪問もそれに含まれてるんだってさ」

「そうだったんだ。あれ、じゃあもしかして僕のも……」

「ケースケ君の場合は転移してまだ三ヶ月しないくらいなのにめちゃくちゃ暴れてるからね。そこはかなり伸びてるんじゃないの」

「うっわぁ……騎士団に雇用される要素あんま増やしたくないんだけど僕」


 成り行きとはいえ騎士団学校に所属する学生が口にする言葉ではなかった。


「今更成績下げても逃がしてもらえなさそうだけど……お、ケースケ君あれ」

「ん、どしたん。……お」


 二人が窓の外に見つけたのは、輝く魔力の帯に囲まれた浮遊島。


 すぐ目の前に王都メティスの光景が広がっていた。


(……『帰ってきた』、なんて思っちゃったな)


 不覚にもこの時、圭介は異世界において覚えるはずのない感想を抱いてしまっていた。

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