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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第五章 遠方訪問~大人気アイドル炎上~編

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第二話 有名人

「じゃあ、早速ライブ会場の説明からしましょうか」

「あ、その前に一つ訊きたいんですけど」


 説明に入る前に、未だ初対面のアイドル相手に敬語が抜け切らない圭介が気になっていた質問を投げかける。


「メンバーは全員で五人って話だったと思うんですけど、あと二人はどこにいるんですか?」


 街中で見かけた広告などでは彼女らの他に、センターを飾る赤茶けたロングヘアの活発そうな少女と、深い青色のショートカットと怜悧な無表情が特徴的な少女がいるはずであった。


 二人の不在については、ドロシーが応じる。


「ケイトたんはあとちょっとしたら放送始まる生のニュース番組にソロで出ててー、ナディアたんは日課のゲーセン巡りでもしてんじゃない?」

「前者は立派だけど後者はアイドルとしてどうなんですかソレ」

「まああれはあれで一種の営業だよ。ゲーム強くて可愛い女の子なんてそんじょそこらにいるわけじゃないし、それがお仕事に繋がってたりするし。企業から依頼受けてゲーム実況動画とか上げてるし」


 好きこそものの上手なれ、といったところだろうか。


「一応僕らがこっちに来てるっていうのは二人も認知してるわけですよね? 今からどこまで話が進むかとかもその二人に相談しなくて大丈夫なんですか?」

「ええ、問題ありません。こういった話し合いはいつも私が担当しているんですよ。ケイトは順序立てて説明するというのが不得手ですし、ナディアは説明自体はできますが何かとご無礼を働きかねませんので」


 頼られている、という状況がそうさせているのかどことなくアガサは誇らしげだ。


「わかるわぁ……」


 そして“無礼を働く仲間”なるものに心当たりがあるのか、ミアがアガサに同調し始めたのはこの際見なかった事にした。


「さて、改めまして。こちらをご覧くださいな」


 アガサがテーブルの上に広げたのは、とある遊園地の広告と地図。

 敷地面積は相当広く、アトラクションの列に並ぶ時間を度外視しても回り切るまでに半日は要するだろうことが見て取れた。


「今回のライブ会場はロトルアからモノレールに乗って十五分の位置にある大規模テーマパーク、[プロージットタイム]の南側ホールです」

「シャレオツなネーミングしてるなぁパリピか? あ、すみません続きどうぞ」


 乾杯の時間(プロージットタイム)という名前から微妙に漂う自己主張の激しさに、奥ゆかしさに自信のある圭介は軽く怯みつつ了解する。


「ライブは休憩も込みで三時間半。ただしトークの時間が長引いた時に備え、枠組みとしては四時間確保されています。曲数は二十曲と時間に対して少なめですが、間を繋げるためのミニゲームも企画されていますので寧ろスケジュールを詰めに詰めた内容となっています」


 圭介はアイドルのライブというものに馴染みがないので漠然とした理解のみで話を聞いていた。

 しかしライブに四時間も確保された中で二十曲を歌い、更にミニゲームまで設けられるというのは随分と金と時間をかけたものだと感心させられる。彼女らの若さも考慮すると破格の好条件と言えよう。


「十代の女子が集められたアイドルでこんないい舞台をもらえるなんて、相当実力派なんだね」

「まーねえ。ぶっちゃけ顔と根性があれば誰でもできる仕事だと思うけど」


 ドロシーの発言はあまりにもあんまりな物言いであるが、実際に圭介もそのどちらもが欠けているアイドルを見たことがないので否定はできなかった。


 流石にミアも溜息を吐きながら話の続きを促す。


「一般人にはどっちも縁遠い要素だからなそれ……で、私らの配置とかってどうなってるの?」

「まずミアさんは補助と防御に高い適性を持つと聞いていますので、ライブ中も舞台袖などの近い位置での護衛をお願いしたいと思っています。女性ということでファンの皆様も安心されるでしょうし」

「いや遠方訪問の仕事だからって僕をここまで連れ込んどいて今更そんな……」

「ケースケさんを護衛として雇うという話は以前からしてありますので、私達のホームにご案内したことに関しては大丈夫でしょう。それに、当日は[プロージットタイム]に雇用されている警備会社と協力して会場外側での周囲警戒をお願いしますので、こちらに付きっきりとはなりません」

「……?」


 圭介としては、わざわざ他の警備員もいる外側に自分を配置する意味がわからない。


 顔に浮き出た疑念に応じたのはミアだった。


「その遊園地で雇われてる[エイベル警備保障]っていう警備会社、規模は大きいんだけど不祥事が続いてて評判がいまいちなんだよね。どうしてそんな会社とそこそこ大きめのテーマパークが契約してるのか知らないけど」

「え、じゃあ僕はその不祥事起こした警備会社の人達と協力すんの? ちょっとどころかかなり不安だよ」


 協力、というからには前提として先方への挨拶もしなければならない。


 圭介でも顔は知っている程度の知名度を誇る人気アイドルユニットの護衛任務に、遠方訪問中の学生、それも最近転移してきたばかりで希少な魔術の才能を持つ圭介がしゃしゃり出れば向こうの面子はどうなるか。


「せめて僕だけ独立して皆さん専属の護衛ってことにできませんか。そうすればあちらさんと接触しなくてもよさそうでしょ」

「うーん。私らと離れた位置での仕事になるから、施設内のユニット専属でってなるくらいなら他も含めて全体的に見ろって話になりかねないし。あと『自分はアイドル専属の護衛だから挨拶も協力もしません』っていうのはちょっと違うかなあ」

「正論だけども! 正論だけどもそれは辛い! 絶対いい印象持たれないじゃないですかこちとら素人ですよ!?」

「まあまあ、あくまで遠方訪問ってコネ作りが目的だから。向こうは生活の為、こっちは単位とコネの為に働いてるって意味で対等でしょ? 気後れしなくていいってそんなん」

「そうかなあ……本当にそうかなあ……」


 ミアの前向きな発言で幾分か落ち着きを取り戻した圭介が首を傾げていると、おずおずとクリスが手を上げる。


「あ、あの、アガサちゃん……そろそろ時間だよ?」

「おっと、そうでしたか。丁度お話もキリの良いところですし、お二人も良ければケイトが出ているニュース番組を見ていってくださいな」

「そうだね、せっかくだし」


 圭介が来る前にある程度の交流があったのか、ミアの態度はどこか親しげだ。芸能人に興味がないのか、もしくは映画俳優などが相手ならまた違った対応になるのか。

 あるいはこれがアガルタ王国民の距離感なのかもしれない。


「客人のケースケさんには馴染みが薄いかもしれませんが、本日ケイトが出演している[マグノリアニュース]という番組は、アガルタ国内では知らない人がいないくらい有名な番組なんですよ」

「へぇ……もしかしたら僕も街中の大画面モニターとかで見た事はあるかもしれないですね」


 日本にいた頃もそういった番組を見ていなかった圭介としては、少しだけ物珍しさもあって興味を惹かれる。

 思えばダグラスの脅威、カレンとユーによる修行の日々に埋め尽くされて娯楽というものにしばらく触れていなかった。せっかくなら、とアイドルの出演するニュース番組に意識を向けると、アガサがリモコンを操作してテレビの電源を入れた。


「あ、いけね」


 もしかして、と思い圭介もアズマの頭を適当に撫でてみる。

 頭頂部を何度か刺激したところ、ぴくりと機械仕掛けの鳥が動き出す。


『もしや電源に触れられましたか?』


 心なしその声は非難めいた色を帯びていた。


「ごめん、今後は気を付けるから」

『…………個体識別コード更新。マスター登録情報へ移行。生命活動継続が困難となった際の優先順位の変更を申請……承認……』


 どうやらアズマの好感度を著しく下げたようである。万が一の時に助けてもらえないのも切ないので、後々埋め合わせを要するだろう。


『はーい皆さんこーんにーちわーぁ! マグノリアニュースのお時間でーす!』


 悪いことしたなあ、と圭介が反省していると、拍手や観客の声を伴って明るい中年男性の声が耳に届いた。


 司会者と思しきそのスーツ姿の男は、ニュース番組の顔として出演しながらどこか軽薄そうな雰囲気を醸し出している。

 思えば日本でも昼に放送されている番組はお笑い芸人が常に前に出ていたな、とおぼろげな記憶が圭介の脳裏を過ぎった。


『今日は王国内でも高い知名度と確かな実力を持つ大人気アイドルグループ[バンブーフラワー]のリーダー、ケイト・バルフォアさんにゲストとしてお越し頂いておりますー! はい拍手!』

『どうも、[バンブーフラワー]のケイトです! 皆さん今日はよろしくお願いします!』


 続けて映し出されたのは、どこかで見た赤茶色の髪の美少女だ。

 画面越しでもわかる端麗な顔立ちとダークブラウンの大きな目。はきはきとした声に裏のなさそうな笑顔など、フィオナと出会う前の圭介であれば簡単に見惚れるであろう要素がこれでもかと積み込まれている。


『最近またアルバムを出されるそうでね、私なんてもう待ちくたびれてイライラしちゃって! 八つ当たりにそこのカンペ持ってるおじさんの鞄にね、昔流行ってた可愛くない怪獣のフィギュアとか括りつけてたのよ丁度いらないのに手元にあったから』

『何してるんですか!?』

『あっでも見てアレほら、満更でもない顔してやがんのホント腹立つわ~』

『多分ファンだったんじゃないでしょうかね。ケイトちゃん、試しに後であのフィギュア強奪しちゃっていいわよ』

『しませんってそんなことぉ』


 その一連の冗長な流れを見て、圭介が抱いた素直な感想は一つ。


(うーん、趣味じゃないなあ)


 無難な出だし、無難な挨拶、無難な進行に終始する番組。


 娯楽と言えばどちらかというと外連味を求めてしまう彼にとっては些か退屈な内容だった。


『それで、ニュースはいつから始まるのですか?』


 番組の進行に意見を飛ばしたのは画面の中にいる人物ではなく、再び圭介の頭に止まっているアズマである。どうやら彼もまた退屈しているようであった。


「もうちょっとで始まるっしょ。こういうのって合間合間にゲストの宣伝の時間作るって相場が決まってるし」

「今回は先程も少し触れた私達の新アルバムと、あとはお二人に手伝って頂く予定の[プロージットタイム]でのライブ情報ですかね。まだチケットはギリギリ売り切れていないそうですし……おや」


 ドロシーやアガサの発言とは裏腹に、アルバムの宣伝も控えめに済ませるとすぐにニュースに入ったようである。

 圭介としても、こういった番組であればアルバムのタイトルなりカバーなりは最低限表示するものと想定していたので、少しだけ違和感を覚えた。


『さて今週のニュースなんですけども……これねぇ、ほんの一昨日の話なんですけど今回のピックアップはこれで決まりでしょう』


 司会の男が杖のような棒をスタジオ奥に置かれている液晶画面に振ると、写されているのが番組のタイトルから別の映像へと切り替わる。


 映されたのは、ベージュ色の砂と真っ青な空。


「あれ、もしかしてこの映像って……」

『恐らくレナーテ砂漠ですね』

『えー、こちらはレナーテ砂漠。かの有名な客人、カレン・アヴァロンさんによって緑化計画が進められている乾燥地帯です』


 アズマの言葉を肯定するように、テレビから解説する声が漏れる。


「一昨日ってことは、ケースケ君とユーちゃんの遠方訪問最終日じゃん。確か超大型モンスターと戦闘したんだっけ?」

「姫様もその場にいたと聞きますから、相当激しい戦いになったのでしょうね。まだ指揮を執っていたカレンさんが取材に応じていないというのもあって、詳しい内容はわかっていませんが」


 ニュース番組に取り上げられる程度には流石に広く知られているらしく、ゴグマゴーグとの戦闘についてミアとアガサはどこかで情報を得ているようだった。

 と、画面の中でも話が進む。


『こちらの戦い、世間では“レナーテ漆黒討伐戦線”と呼ばれていますが』

「僕はそんなの初耳だけどね」

「こういうのってマスメディアが印象作るからねえ……」


 憮然とする圭介にドロシーが苦笑しながら応じると、またも画面が切り替わる。


『こちらが先日その戦いの中で討伐された超大型モンスター、サンドワームの変異種であるゴグマゴーグです』

『ひゃあ、こいつァ禍々しいですな。しかもこの見た目で山のように大きいんでしょ? 俺なら目の前に来た途端に失神しますよ』


 映されたのは黒く長く悍ましい、圭介がその手であやめたモンスターだった。


「おー、二人ともこんなのと戦ってたんだ。大変だったでしょ」

『私がいなければマスターは死んでいましたがね』

「それな」

「え、マジで危なかったんじゃん……まだ治ってない怪我とかないよね?」


 常日頃パーティメンバーの怪我を回復しているからか、ミアが険しい顔つきになる。

 圭介も自分が知らない場所で知り合いが死にかけていたと知れば、似たような反応になるだろう。そのくすぐったさと心配をかけてしまった申し訳なさから、恐縮しつつ「大丈夫だよ」とだけ返した。


『でも本当に凄い大きさでしてねえ。現在は討伐されているので安心ですが、死骸の全長を計測したところなんと五三〇九ケセル! メティスのマゲラン通りよりもちょっと長いくらいですよ!』

『えぇー!? すっごーい!』

「うは、ケイトたんわざとらしいリアクションするなあ」


 言いつつ呑気に紅茶を啜るドロシーだったが、次の瞬間彼女のみならず室内にいた全員の表情が硬直した。


『で、こちらの超大型変異種をやっつけたのがこのお方!』

「……………………あ?」


 司会者の声と共に切り替わる画像。


 砂漠の青空をバックに、己がグリモアーツに乗って滑空する少年。


『こちらは城壁防衛戦にて活躍したというパーティの一人にして、つい三ヵ月前にビーレフェルトに降り立ったという客人! トーゴー・ケースケさんです!』

「ぐがっ……!」


 いつの間に撮影したのやら、どこからどう見ても圭介の写真だった。


「肖像権どこに捨ててきた!? 僕誰からも何も言われてないよ!? ふざっけんなクッソァ!!」

「お、落ち着きなよケースケ君。私らアイドルもこういう経験あるから」

「そっちは芸能人だからアレだけどこちとら一般人(パンピー)なんだよ! テレビ映るのこれが生まれて初めてなんだよ! 誰だ写真の使用許可出したの!」

『因みにこちらの写真ですが、フィオナ第一王女様とカレンさんのお二方から強く推されての公表となりまーす!』

『えぇ、凄いお二人じゃないですか! やだ、私アイドルですけど知名度で負けちゃうかも!』

「……ちょっと考えたけど充分越権行為だわ! あの二人マジで何してくれてんだ!」


 と、圭介がだばだばと床の上で悶える間にもまた画像が切り替わる。

 今度は【ハイドロキネシス】で作り上げた水の剣を振り下ろす瞬間の写真だ。


『彼は勇敢にもゴグマゴーグに真正面から挑み、なんと水で構成された剣の一振りで倒してしまったのです!』

『すごーい!』

「いやこれ捏造だからね! 実際にはたくさんの人の力を借りて、失敗と改善を何度か積み重ねた上でようやく勝てたんだからね! つーかこの番組ふざけんなよ印象操作にしても悪質だわ!」

「でもトドメはケースケ君が刺したんだよね? 水の剣使って」

『それ自体は間違いありませんね』


 顔を青ざめさせつつまだ冷静なミアが、アズマに確認を取った。

 肯定を受けて、表情に諦観の念が宿る。


「じゃあ、まあ悪意ある報道の仕方だと思うけど事実の範疇として扱われるから、訴訟とか起こしても捏造云々は通らないんじゃない?……そもそも第一王女様が関わってるなら王族の指示でこういう編集にしてる可能性もあるし」

「王族に出張られたら打つ手ないじゃん、ケースケ君かわいそー!」

「もうやだこの異世界!」


 ギャルっぽいアイドルの哄笑が響く中、地球と同等かそれ以上の技術を有する異世界で圭介は久し振りにそのギャップを心から呪う。


 華々しくも苦々しい、人生初のテレビデビューであった。

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