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「やっと始まった。」
現在、2月2日の朝。美代先生のスマートニュースコンテストが始まった。
「出遅れましたね。」
「キュル。」
心配する歯科助手とパンダ。
「仕方が無いだろう!? 1月の末から学会で夢の国に視察に行っていたんだから!?」
ネット依存の社会はリアルが充実している人間には不利である。無職でなければ、小説を妄想して書くこともできず、旅行にも行けない。たまの休みにディズニーシーに行って来ても、ネットゲーのリーダー職は解任されるという最悪なことしか行われない。たったの1泊2日の旅行でもだ。
「それにしてもスマートニュースの応募は、お仕事作品だったのに、全然お仕事関係ない作品ばかりになっているな。」
「仕方ありませんよ。高校生のカクヨム甲子園でも、応募者の9割が大人だったんですから。」
「キュル。」
パンダも利用者のモラルが低いと言っている。
「まあ、私たちも同じような物なんだけどね。」
その通り。
「なんか書くのも旅行疲れが加速して思いつかないし、応募者作品の数を見てもゲッソリだし、何とかならないの?」
美代先生は夢の国で疲れ切ったのだ。
「先生。そのゲッソリ感が今の社会人の疲れ切った心と共鳴するんですよ。」
「キュル。」
悪く悪く書くと現代人と同じ精神状態でウケて売れるという現代小説・・・この世の終わりだな。
「パンパンにはウサギと猫と友達が増えて良かったな。」
「キュル。」
夢の国で買ってきたぬいぐるみである。田舎の親戚の子供の分も入れると5万円近く出費した。
「本当に夢の国かね・・・。」
正解は、金持ちしか入ることのできない夢の国である。
「みなみは夢の国に行ったことがありません!?」
なぜなら、みなみちゃんは貧乏だからだ。
「キュル!?」
もちろんパンパンもない。
「はい、はい、今度、みんなで行こうね。」
「やったー! 美代先生! みなみはどこへでもついて行きます!」
「キュル!」
現金な歯科助手とパンダ。
「パンダって、入場制限に引っかからないのかな?」
「その時は、パンパンは入り口に置いておきましょう。」
「キュル!?」
血も涙もない歯科助手。その歯科助手に飼われているパンダ。
「そうか! その手があったか!」
なにかアイデアが閃いた歯科医師。
「どうしたんですか?」
「キュル?」
心配で尋ねる歯科助手とパンダ。
「夢の国の着ぐるみの虫歯を検診しに行けばいいんだ!」
「おお! さすが美代先生!」
「キュル!」
歯科医師は、ミッキーたちの虫歯を治療すると言っているのである。
「成人式の成人でも無いが、私の有名人としての知名度と着ぐるみの虫歯治療! テレビ局の取材もやって来るだろうからディズニーの運営会社のオリエンタルランドも良い宣伝になるから了承するだろう。」
「タダで夢の国に入場することができるんですね!」
「その通り!」
「美代先生! 万歳!」
「キュル! キュル!」
クリスマスとお正月が一度にやって来たみたいに喜ぶ歯科医師と歯科助手とパンダ。
「さっそく電話だ! みなみちゃん、後よろしく。」
「え!? 自分で営業しないんですか!?」
「私はラーメンを食べるのに忙しいのだよ。カッカッカ!」
そういうと美代先生は休憩室に去って行った。
「まあ、今日はいいわ。だって、お金持ちしか入れない夢の国に入れるかもしれないんですもの!」
「キュル!」
夢見る乙女の歯科助手とパンダ。早速、電話をかける。
「はい。オリエンタルランドです。」
「あの、こちら、どうもですでお馴染みの世界一有名な歯科医師、美代先生の美代歯科医院の歯科助手のみなみと申します。」
「はい。なんでしょう?」
「うちの美代先生が着ぐるみの虫歯治療を行いたいと言っているんですが、良い企画だと思うのですが、いかがでしょうか?」
「そういった企画は、こちらで独自に行いますので、結構です。」
「ガーン!?」
みなみちゃんの美代先生の売り込みは失敗した。
「キュル。」
電話の受話器を奪い取るパンダ。
「キュルキュル。キュル。キュル?」
何かを喋っているパンダ。
「あの? まったく何を言っているのか分からないんですが?」
広報の人には、パンダ語は理解できなかった。
「通訳しますね。私が故郷の中国に電話一本すれば、中国海軍が潜水艦と軍艦を東京湾に大規模展開し、夢の国を海底王国に変えることができるだろう。好きな人生を選びたまえ。ワッハッハー。」
これが噂のパンダホットラインである。
「いたずら電話なら切りますよ!」
電話は一方的に切られた。
「・・・。そうきましたか。パンパン、中国に電話して、ミサイルでも打ち込んでもらいましょう。」
「キュル。」
パンパンは中国に電話を掛けた。
一時間後。
「緊急事態です! 中国から放たれたミサイルが東京の葛西臨海公園の大観覧車を破壊しました!」
テレビで臨時ニュースが始まった。
「ふっふっふ、みなみを夢の国に入れないからだ。」
「キュル。」
パンダも熊の着ぐるみと記念写真が撮りたいと言っている。
「2発目です! 今、葛西のマグロ水族館に中国のミサイルが命中しました!」
夢の国の目と鼻の先である。
「ルルル。」
そのとき電話が鳴った。
「はい。美代歯科医院です。」
「あの夢の国ですが、うちの着ぐるみの虫歯治療を世界一有名な美代先生にお願いしたいのですが?」
「分かりました。中国にミサイルを撃ち込むの止めるように電話しときますね。」
こうして電話が切れた。
「やったー! みなみ、夢の国に遊びに行けるよ!」
「キュル!」
喜ぶ歯科助手とパンダ。あくまでも、この物語は歯科モノである。
つづく。