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「コネ無しは、出版路線から相手にされない・・・。」
美代先生は、かなり落胆していた。この世に楽しく人生を生きているものがどれぐらいいるだろう。お金持ちでも気分が悪く生きている人間がほとんどである。
「美代先生、諦めましょう。諦めて気楽に行きましょう。」
「キュル。」
慰める歯科助手とパンダ。
「あと10話20000字もあるのに!?」
「でも書いていて気付きましたね。1話2000字で30話を書き続けるのは難しいと。」
「ということは・・・まさか!?」
美代先生は、あることに気がついた。
「その字数で最初から書き上げているプロ作家・コネ作家がいるということです。そうでなければ1話の字数縛りというのは書き手には、かなりの負担であり、この忙しい日々の生活の中で書き上げるのは無理というものです。」
「キュル。」
みなみちゃんとパンパンも気づいてしまった。
「はあ・・・モチベーションが下がるな・・・。年間に20冊の新作が出るとしても、コネ作家が19作は占めるので、コネ無しは1作あるかないかだもんね。」
売れないので厳しい出版業界。
「ああ・・・書くのがバカバカしくなってくる。」
多くの社会人が仕事をするのがバカバカしく思っているのと同じである。朝に会社に行って、何事も無く、仕事もせず、夜帰るまで会社にいて、月給時給をもらう。
「夢も希望もないな。」
「まったくです。だから、みなみの給料を上げて下さいよ。」
「それとこれとは、別。」
「あんまりだ!? みなみが何をしたというんですか!?」
「何もしてない。」
「うええええええんー!」
「キュル。」
泣き出した飼い主を慰めるパンダ。
「すいません。虫歯を見てほしいんですが?」
そこに今日の患者がやって来た。
「みなみちゃん、お客さん。」
「はい、美代先生。」
「キュル。」
何事も無かった様に寸劇を終える歯科医師と歯科助手とパンダ。要するに社会人の居酒屋トークのような上司の文句、社会の文句と同じような共感してもらうオープニングトークで愚痴って字数を稼いだだけなのだ。
「どうぞ。お名前は?」
「エールさんと。外国人の方ですね?」
男性は高校生ぐらいだった。
「いえ、異世界出身者です。」
「はい、異世界国から日本にやって来たと。」
「いえ、異世界ファンタジー出身者です。」
男性は普通に剣を持っていた。
「困りますよ、お客さん。日本は刀狩りで剣は禁止ですよ。銃刀法違反で警察に捕まりますよ。」
「そうなんですか? すいません。」
「キュル。」
素直に謝る男性。
「違う! そこじゃないから!」
話を進めようとする歯科助手とパンダを、必死に止める歯科医師。
「もう話が、なんでもありになってきたな。」
だって採用もされなければ、コネも無いし、大賞もないし、書籍化もされない。それなら適当に好きに書けばいいじゃんと開き直ったのである。
「ラノベらしくなってきましたね。」
「ラーメンが美味しいからいいのだ。」
「キュル。」
ラーメンを食べる時が幸せな歯科医師と歯科助手とパンダ。
「あの・・・僕は異世界ファンタジー出身ですが、日本の高校生として立派に学園生活を送ってますよ。」
男子高校生は新入社員のような説明をする。
「なんだ、つまんない。」
「チッ。」
「キュル。」
面白くないとイジケル歯科医師と歯科助手とパンダ。
「なんなんですか!? あなたたちは!?」
反発する男子高校生。
「歯科医師ですが、なにか?」
「かわいいみなみですが、なにか?」
「キュル。」
あくまでも自分の信念は曲げない歯科医師と歯科助手とパンダ。
「ああ!? 嫌だ!? こんな会社、辞めてやる! ・・・あ、間違えた。こんな歯科医院は止めて他に行こう。」
男子高校生は日本の社会人の心が分かるようだ。
「フッ、帰りたければ帰ればいい。みなみちゃんの給料を、その分だけ減らせばいいだけだ。」
敏腕経営者の美代先生。
「鬼! 悪魔! 美代先生!」
「キュル!」
パンダも飼い主の給料が減らされるのは、エサの量が減らされるので困ると言っている。
「帰らないで下さい! これでも、みなみは最強の歯科助手なんです! どうか虫歯治療させてください!」
「キュル!」
男子高校生にしがみつく歯科助手とパンダ。
「分かりました!? 分かりましたから離れ下さい!?」
男子高校生は優しい青年だった。
「ニヤッ。」
「キュル。」
不敵に笑う歯科助手とパンダ。
「はい、一丁あがり。ちょろいもんです。」
「キュルキュル。」
これでも決して悪い子ではない歯科助手とパンダ。
「それでは、いつものようにダイジェスト虫歯治療いってみよう!」
「キュル!」
マイペースな歯科助手とパンダ。
「みなみ、いきます!」
「おお!? さすが異世界ファンタジー出身!? 虫歯もスライムやゴブリンばかり!?」
「みなみが治さなくて誰が治す!」
「みなみに治せない虫歯は無い!」
「くらえ! 最強の呪文! ホワイトニング!」
「ああ~。白い歯って、いいな。」
歯科助手は虫歯クエストをクリアした。
「また来てくださいね。」
「キュル。」
笑顔で手を振る歯科助手とパンダ。
「2度と行きません!」
男子高校生は白い歯になって帰って行った。
「みなみちゃん、パンパン。カップラーメンができたよ。」
「は~い! 食べますよ! スープまで飲み尽くしますよ!」
「キュル!」
何事も無かった様に時間は過ぎていくのであった。
つづく。