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マカロン

「どうもです。」


美代は、笑顔で優しく笑顔を振りまく。これが世間で話題のセレブ女医だ。今日は銀座の帝国ホテルでジャズを歌う。


「ジャズ、ジャズ、ジャズ~!」


パチパチパチパチ! 満員のお客さんは、スタンディングオベーションで、素敵な歌を歌った美代を称える。


「どうもです。」


美代は、客席に投げキッスをバラマキながら、ステージから去っていく。この物語は、歯科医師の美代先生がセレブ生活を手に入れる、サクセスストーリーである。



「ここが最近できた、腕のいい歯科医院ね。」


一人のセレブが、美代歯科医院にやってきた。見るからにお金持ちだ。セレブは、病院に入って行く。


「いらっしゃいませ。」


受付で、助手のみなみちゃんが応対する。


「歯を見てもらいたいんだけど。」


ムカ! 女の偉そうな態度に、みなみちゃんはムカついた。


「すいません。当医院は、完全予約制ですので、予約のないお客さんはお断りしています。お帰り下さい!」


助手は、塩もまくつもりだった。


「お金なら、いくらでも出すわよ!」


セレブマダムは、お金持ちアピールをしてきた。


「お金の問題じゃありません! 虫歯に困っている人を治したいだけです!」


みなみちゃんの雷が落ちた。


「そう・・・残念だわ・・・。」


セレブマダムは、帰ろうとした。


「お待ちください。」


そこに美代先生が颯爽と現れた。


「先生!?」


助手は、先生の登場に嫌な予感しかしなかった。


「金づるを帰してどうするんだ?」


美代先生は、小声で助手を注意する。



「え?」


セレブマダムは、足を止め、美代先生を見つめる。


「助手が言ったように、私たちは虫歯に困っている人を助けたいだけなんです。マダム、あなたも虫歯にお困りですよね?」

「は、はい。」

「うちは完全予約制で1年待ちなのですが、マダムのお願いとあっては、断る訳にはいきません。診療代は、法律で決められていますので、個人的に寄付という形でお願いします。」

「分かりました。」


ここに美代先生とセレブマダムの悪魔の契約が成立した。


「金の亡者・・・。」


みなみちゃんは、先生を疑いの目で見つめる。セレブ生活に憧れる美代先生が、セレブマダムを逃がすはずがなかった。


「どうぞ、診察室にお入りください。」

「はい。」


美代先生とセレブマダムが診察室に消えていった。


「私のセレブ生活の夢を、誰にも邪魔はさせないぞ!」


美代先生は、絶好調だった。


「こんにちわ。」

「おねえちゃん、こんにちわ。」


そこに、本日の予約のお客様が笑顔で、やって来た。30代くらいのお母さんと5才くらいの子供である。


「こんにちわ。」


みなみちゃんも笑顔で答える。


「座って待っててね、先生に言ってきますから。」


助手は、診察室にいる美代先生に言いに行く。



「先生、今日の患者のお子さんとお母さんがいらっしゃいましたよ。」


助手が背中を向けて座っている先生に言う。


「みなみちゃん、助けて。」


美代先生は振り返り、助手に助けを求める。


「どうしたんですか!? 先生!?」

「見て、見て。」


先生は、セレブマダムの口の中を指さす。助手は、指さすところを覗き込む。


「マカロン!?」


セレブマダムの口の中に、セレブが大好きなマカロンが、歯から生えていたのだ。


「みなみちゃん、後、よろしく。」


美代先生は、普段通り逃亡しようとした。


「私、知りませんよ。」

「え?」

「セレブマダムを受け入れたのは、先生ですよ。責任を持って、マカロンを取り除いてくださいよ!」

「そんな!?」

「私は、お子さんの歯をクリーニングしてきます。」

「みなみちゃん、置いてかないで!?」


助手は、今日の患者さんを優先した。セレブマダムの態度が悪かったのと、お金持ちを治療しても、歯科助手のみなみちゃんには、1銭もお金は入らないからだ。



「お子さん、どうぞ。よかったら、おかあさんもご一緒にどうぞ。」

「はい。」


助手は、お客さんを診察室にお通しした。お子さんをイスに座らせ、お母さんは横に立っている。


「はい、お口を開けてください。クリーニングしていきますね。」


助手に言われて、お子さんが口を開ける。クリーニングが始まった。


「きれいな歯ですね。あれれ、奥歯が虫歯になっていますね。」


助手は、お子さんの虫歯を見つける。


「お母さん、どうしますか? 奥歯も抜けて、新しい歯が生えてくるので、痛くなかったら放っておいても、大丈夫ですよ。」


みなみちゃんは、優しく丁寧に説明する。


「ガーガーされるの嫌だ!」


子供は、歯医者さんが嫌いだった。


「そうですね。別に抜かなくていいんでしたら・・・。」


母親も歯を抜くのを止めようと思った。


「ちょっと待った!」


必死の形相で、美代先生が現れる。


「先生!?」


助手は驚く。美代先生は、セレブマダムの歯から生えたマカロンを取ることができず、困っていた。そこに虫歯の話に、ピクっと、耳が反応したのだった。


「いけない! 虫歯を放っておくなんて! もしも、賢そうなお子さんが、小学校受験する日に虫歯が痛くなったらどうするんですか!? お母さん! 子供の将来に責任が持てるんですか!?」


美代先生の迫真の演技だった。


「はあ・・・。」


お母さんは、先生の迫力に押されている。


「私なら、痛くないように虫歯を治すことができますよ、お母さん。」

「そ、それなら、お願いします。」


美代先生の決めゼリフと決めポーズに、お母さんは、軍門に下った。


「私は、歯科医師。君は、助手。歯科医師免許持ってないでしょ?」


美代先生は、法令遵守する。


「ガーン!」


助手は、それを言われると何も言い返せない。


「ちょっと先生! なにを・・・。」

「みなみ君。お母さんのお許しが出た。君は、マカロンと戦ってらっしゃい!」

「キャア!?」


文句を言う助手の言葉を遮って、先生は、助手の背中を押して、お母さんとお子さんのいる診察室から追い出す。


「さぁ、お子さん。虫歯の治療をしますよ。痛かったら我慢してね。」


美代は、マッドサイエンティストのように、お子さんの治療に、ウイーン! と機械の音をさせて、取り掛かる。


「・・・!?」


お子さんは、恐怖で声が出せない。



「プンプン! 私に歯科医師の免許があったら、こんな歯医者、辞めてやる!」


みなみちゃんは、かなり怒っていた。


「でも、歯科大学に入るお金が無いしな、はぁ・・・。」


助手は諦めて、セレブマダムの治療を始める。


「それでは、マカロンを除去しますよ。」


みなみちゃんは思った。


「徹底的にやってやろうじゃないか!」


歯科助手としてのプライドに火がついた。


「みなみ、いきます!」


ウイーン! と機械を操り、マカロンとの助手の戦いが始まった。


(私に取れない細菌はない!)

(もう! なんで歯からマカロンが生えてくるのよ!?)

(このおばさん、どれだけマカロンを食べたの!?)

(お金持ちなんか、大っ嫌い!)


「綾ちゃんの虫歯に比べれば! マカロンごとき、私の敵ではない!」


最強の助手、みなみちゃんにかかれば、マカロンなど敵ではなかった。


「あ!?」


助手は、セレブマダムの歯に、金やダイヤモンドが光っているのに気づいた。


「かぶせが緩くなって、取れてますね。新しいのに変えましょう。」


キラン! っと、助手の目が輝いた。何か良からぬことを思いついたのだ。これは、法令違反ではない。ただの偶然の事故である? ように見せかける。


「クリーニングしますね。」


助手は、セレブマダムの口から、金歯やダイヤモンド歯を次々と抜いていく。みなみちゃんの技術を持ってすれば、朝飯前である。


「できました。先生を呼んできますね。」


みなみちゃんは、セレブマダムから取り除いた金とダイヤモンドをポケットに入れて、美代先生を呼びに行く。



「先生できましたよ。」

「こっちも終わったよ。」


美代先生も、お子さんの虫歯を治療し終えた。


「ありがとうございました。」

「先生、ありがとう。」

「どういたしまして。」

「先生、優秀なんですね。」

「どうもです。」

「先生、魔法使いみたいだったよ。」

「どうもです。」


美代先生とお母さんとお子さんが仲良く笑顔で会話している。


「良かった、何事も無くて。」


助手は胸を撫でおろす。それもそのはず、奥歯の虫歯は、みなみちゃんが歯のクリーニングをしている間に、ほぼ虫歯菌を取り除いているのだ。美代先生が、余計なことをしなければ、お子さんに危険は無いのだ。


「おねえちゃん、バイバイ。」

「ありがとうございました。」


みなみちゃんは、笑顔で親子に手を振り、お見送りをする。



その頃、セレブマダムの診察室。


「素晴らしいは、先生! 歯から生えたマカロンが無くなって、歯が真っ白になっています! 奇跡を見ているようだわ!」


セレブマダムは大興奮で喜んでいた。


「ありがとうございます。この美代歯科医院に取り除けない細菌はありません!」


美代先生は、まるで自分がマカロンを除去したように言う。


「これから、取れてしまったかぶせを新しいのを着けていきますね。ダイヤモンドにしますか? それとも金にしますか?」

「ダイヤモンドで、お願いします。」

「わかりました。マダムの歯をきれいに輝かせて見せますよ。」


美代先生は、セレブ生活を手に入れるためなら、どんな手段でもするのだ。


「私は、セレブになるんだ! ハハハハハ!」


これは、美代先生が世間に認知されるまでのお話である。と思っているのは、美代先生だけであった。



仕事帰り、質屋に寄る、みなみちゃん。


「100万円だね。」


セレブマダムの口から抜いた、ダイヤモンドと金を換金していた。


「やった!」


みなみちゃんは、歯科助手をやっていて、本当によかったと思った。


「マカロン下さい。」


その足で、高級マカロン屋に行き、高級マカロンを買って帰るのだった。


「貧乏人だって、マカロンが食べたいのだ! マカロン大好き!」


プチセレブに憧れる助手は、セレブの食べ物が大好きだった。みなみちゃんは、笑顔で夜の街に消えていった。



「セレブ! セレブ!」

「マカロン! マカロン!」


先生と助手は、似た者通しで、名コンビであった。普通レベルの美代先生を、歯科医師免許が無い、最強の助手、みなみちゃんが合法的に、お客さんの歯の悩みを解決していく物語である。


つづく。

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