プロローグ
人類の前に現れた試練
人類が超えられるのか
人類はこれまでに無数の試練に挑む、乗り越えてきた、歴史に刻んできた。
それは数々の偉人が成し、果たしたもの。
その功績は常に人類を進化させ、文明を発展させた。
その逆も叱り、果たす者も居れば、試練に挑むも乗り越えられず挫折する者も居たのだろう。
その者たちは無残にも歴史に名を残す事は出来なかった。
試練は常に最凶で無情に牙を剥くが、己を討つ者が現れるのを待ち続けている。
それが試練の宿命だからだ。
これは試練の1つ、絶対悪の御旗を掲げる魔王の物語。
魔王は己の宿命を果たすために"絶対悪"を掲げ続ける。
真上にまで登った月は星の光を塗り潰すように明るく輝いていた。
少しひんやりとした風が緩やかに流れている。
季節は秋の中旬になり、十分に寒い時期だ。
そんな夜空の下に1つ、月明かりに照らされ荒野を歩く人影があった。
彼のその容姿は見事というべく、町で歩けば人目を惹くだろう。
金糸のように輝く白髪を後ろで束ね、鮮血のような紅い瞳は鋭い光を帯びている。
透き通るような白い肌はアルビノを思わせるほどだ。
青年は荒野の中の町を1人歩いていた。
時間は夜の半ばだったために人気は殆ど無く、時折酒場から賑やかな声が聞こえる程度だった。
外に出ているのは青年だけで、やはり人っ子一人の気配が無かった。
青年が酒場の前を通り過ぎたとき、酒場から男が出て来た。
「おい、そこのガキンチョ。お前どこのガキだ?」
フラフラ近付いてくる男は顔を赤くしているところを見ると、どうやら酒に飲まれているらしい。
その男の服装を見る限り守衛だということが分かり、腰のホルダーにはしっかり拳銃が入っていた。
青年は足を止め守衛の男を一瞥した、だが興味も恐怖も無かったようで再び歩き出した。
しかしどうやらその行動は男の琴線に触れたようで、赤い顔をさらに赤くして青年の肩を乱暴に掴んだ。
だが青年は歩みの速度は変えず、歩き続ける。
男は守衛という職に就いてるだけあって、この町ではそれなりに腕自慢なのだが、青年は全く動じていないかのように歩みを止めない。
男はムキニなり全力で止めようと引っ張るものを、青年の歩みに引きずられるばかりだった。
引かれ続け理解した、青年のあまりの力に驚いた男は思わず手を放した、その勢いで尻餅をついた。
青年はそこで足を止め、男に向き直った。
男のリンゴのように赤かった顔は、改めれの青年の一瞥に蒼白に変わった。
青年の金眼には其れほどの圧倒的の威圧感が込められており、男は震え、失禁までしてしまった。
男は無意識の内にホルダーに手を当て、躊躇いはなくそのまま引き金を引いた。
今の行動派守衛としての本能が働いたのだろうか、しかし今の銃声は酒場まで聞こえていただろう。
つまり救援を呼ぶために発砲したのだ。
守衛の男が救援を呼ぶのだから、酒場で共に飲んでいたのはこの男と同じく守衛仲間なのだろう。
さらに、発砲音は町中に木霊し、町中の人々が目を覚ます気配が多くあった。
詰まり男は買って警報役となったのだ、それは青年がどれ程の脅威なのかを理解しているということになる。
さしもの青年もその行動には正直に感心していた。
この男の勇気は相当のものな上に、実力も悪くないと思っていた。
ただそれは青年には無意味な行動派なだけである。
この町にも自分の望む英傑と成りうる者は居ないと判断した青年は己の宿命を果たす。
ただ単に己の拳を力任せで地面にぶつけたのである。
しかしその力は凄まじくそこから地割れが広がり、あっという間に町は崩壊し、建物や人々は地割れに飲み込まれていった。
そして地面が文字通り“落ちて着いた”時に残ったのは大きな穴と宙に浮く青年だった。
青年は感情を感じられない瞳で穴を見下ろす。
だが直ぐに興味は失せ地に足を着け、再び歩き出す。
町が大穴へとなるこの事件は初めてでは無かった。
この事件は1週間ほど前から数件発生しているのだ。
そして、その最初の事件で犯人は名乗りを挙げているために世界中に恐れられ、敵視された。
その時の容姿は見るもの全てに畏怖される異形であった。
全体的に白く、肩から出るのは龍の頭蓋。
背中には“Aksara”―――“悪”の言語を刻んだ絶対悪の御旗を靡かせ、身体から生える首は3つの三頭。
十尺以上ある三頭龍は、全てに勝る威圧感をかもし出す。
そして三頭龍は己の名を世界に轟かせるべく、暴風すら起こす雄叫びを挙げた。
『箱庭第三桁・“拝火教”神群が一柱―――魔王アジ=ダカーハ。
宗主より旗と第三桁を預かり今生を魔王として過ごすことを約束された、不倶戴天の化身であるッ!!!
いざ来たれ、幾百年ぶりの英傑よッ!!!
死力を、知謀を、蛮勇を尽くせッ!!!
我が胸を貫く光輝の剣となってみせよッ!!!』
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