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この世界には、魔王も王様もいない。
もちろん勇者も。
ずっと昔にはいたのかも知れない。
けど、それを伝えるのはおとぎ話と魔法の存在だけ。
だからピンとこない部分のほうが多かった。
彼女の話を受けてもいいかもとも思ったが、いくらなんでも知らないことが多すぎる。
「いくつか質問していい?」
「えっ!今の流れでなにか気になることが?」
「気になることしかないよ!」
「…おかしいなぁ…。光輝さんって流されやすい人って話なのに…。」
「それ本人の前で言う!あと、何で僕の名前知ってるの?」
「他にもいろいろ知ってますよ。家がお店をしていることとか、幼馴染みさんがすごく強いこととか。この間も、光輝さんの態度のことで…」
「わー!だから、どうして…。」
「適当に選んだ訳じゃないんです。あなたじゃなきゃ…。」
そういって彼女は肩を震わせ、顔を背けた。
なんだかんだいいながらも、自分のことを必要としてくれているようで嬉しかった。
彼女の震えが笑いを我慢しているものでなければ。
「笑いながら言うのやめない?」
「失礼しました。」
「話を戻すけど、まず目的を教えてほしい。」
「えっ!魔王になってほしいって、もう忘れましたか?」
「そうじゃなくて、その先だよ。何で魔王なんて作りたいかってこと。…世界が憎いとか?」
言葉にしてからしまったと思った。
明るく振る舞って見えるがもしかするとつらい過去があるのかもと思うと心が傷んだ。
けれど、そんな光輝の心配をよそに彼女は笑って答えた。
「あっ、いえ。そんな暗い感じじゃないです。だいたい、世界を征服とかだったら普通に強い魔物を選びますよ。」
力が抜ける。
「ああ、そう。じゃあ、どうして。」
「んー、今はまだ。いずれ話しますよ。」
そういって有無を言わせずにこりと笑った。
「どうして僕なの?」
「んー、それもいずれ。」
「…。何でそんなことができるの?」
「それもいずれ。」
「…今何時?」
「それもいずれ。」
「答える気ないでしょ。」
「あはは、最後のは冗談として今の光輝さんにもう選択肢はないですよ。」
「?」
「先ほども言いましたがあなたの立場は他の人に譲っちゃいましたから。」
「だからそれがよくわからないんだけど?」
「言葉のままですよ。」
そういって彼女はにこりと笑った。
その笑顔は今までの笑顔とは違いどこか冷たく肌がざわついた。
心臓が早鳴る割に、体は金縛りにでもあったように体が動かない。
汗が一筋頬を伝った。
その時、聞きなれた音が町中に鳴り響いた。
いつも決まった時間に鳴る時計塔の鐘の音。
音に弾かれるようにパッと体が動いた。
「あっ、家の仕事頼まれてたから、帰るよ。」
そういって返事も待たず慌てて彼女に背を向け家へと走り出した。
彼女がついてくる気配は感じなかった。
さっきまでの高揚感が嘘のようだった。
どうして受けていいなんて思ったのか不思議なくらい不安が心を満たす。
早く家に帰りたかった。