転職させられました
大都市から外れた、それでいて、秘境の地と言うわけでもない。
都会とも、田舎ともいえない町で育った。
特に不満もなく、このままなんとなく一生を終えると思っていた。
彼女に会うまでは。
「おめでとうございます。光輝さん、貴方は魔王に当選しました。」
村人dとして生きるはずだった運命はその一言であっさりと覆された。
振り返るとそこには真っ白な少女がたっていた。
髪も服も何もかも色のない少女。
彼女は真っ直ぐに少年を見つめていた。
周りの村人達が不審そうに此方を見ているのがわかり、光輝は慌てて通りのすみのほうに移動した。
その事を告げた少女も、ゆっくりと後ろをついてくる。
「あの、人違いじゃないですか?僕、村人dなんですが…。」
真っ白な少女はにこりと笑い首をふった。
「いいえ、貴方が魔王です。」
その笑顔に不覚にも一瞬見とれてしまった。
しかし、とんでもないその言葉にすぐさま否定する。
「いやいや、無理だよ。そもそも僕、人間だよ。」
「ええ。ですので、もし、魔物達にばれてしまったときは、死ぬより恐ろしいことが…。」
そういって彼女は身を震わせた。
「えっ!嫌だよ。」
無惨に倒れる自分を思い浮かべ、背筋がぞくりとする。
「大丈夫です。ばれなければいいんです。」
「ええ~。魔物の王さまなんだから僕も、魔物になるんじゃないの?」
頭に角がはえている姿を想像するがあまり似合わない気がした。
けれど彼女の言葉は全く違った。
「人間として産まれた生をもっと大切にしてください。」
「こっちの台詞だよ!」
今まさに人のことを良くないことに巻き込もうとしている彼女にだけは言われたくない。
「村人dはあくまで、役職や仕事、立場のようなものです。ただそれが変わるだけです。」
魔王と書かれたプレートを前に書類に判を押す姿が頭をよぎる。
「魔王って役職なの?」
「はい!なので種族は関係ありません。」
「あ!もしかして、すごく強くなるとか?魔法が使えるとか?」
「貴方は村人dに何を求めてるんですか!」
「君は僕に何を求めてるの!?」
「いっておきますが、村人dはその辺りのレベル1のモンスターにも勝てないですよ。」
「ええ~…。」
「タンスの角に足をぶつけただけで大ダメージですし、雨に降られれば状態異常になります。」
「そこまで弱くないよ!」
「なにいってるんですか!女性にだって負けることがあるのに…。」
「なっ!なんで知ってるの?」
「大丈夫です。私が全力でサポートします。だから、二人で魔物を従えましょう!」
そういって差し出された手を掴みそうになり、はっとして
「ごめんなさい、他の人を探してください。」
と、慌てて頭を下げた。
しかし、彼女はそんなことお構いなしでにやりと笑った。
「ふふん、残念でしたね。貴方の居場所はないんですよ。」
「はい?」
「村人dの役職は他の人に譲っちゃいました。」
「ええ!…って、そんなことができるの?」
「それができるから、貴方を魔王にするんですよ。さぁ、帰る場所はありません。後は貴方がうなずくだけです。」
そういって彼女はあのとびっきりの笑顔で笑った。
特別幸せでもないけれど、特別不幸でもない。
ありふれた僕の平凡な人生は彼女によってがらりと変えられた。
もちろん、悪い方に…。
でも、どこかどきどきしている自分がいた。




