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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

姉とガハハと妹とそれから……

野蛮な男はガハハと笑う

作者: 8D

 やっぱり、こじつけ感を否めませんね。

 

 これは、短編「いいんだよ」の別視点にあたる話です。

 そちらを先に読む事を推奨します。

 

 作中、「それはおかしいよ」という部分があったらご指摘ください。


 少し修正しました。多分、たまにします。

 俺と、ある女の話をしよう。



 俺は物心ついた時から、山賊頭の息子だった。

 とは言っても、親父ともお袋とも血は繋がってねぇ。

 死んだ親父が言う事にゃ、俺は捨てられていたらしい。

 生まれながらに左目が潰れてて、だから気味悪がられて捨てられたんじゃねぇかって話だ。

 名前なんざどうでもいい。

 どうせ呼ばれる事も無ぇんだ。

 みんな俺の事を頭と呼ぶし、あの女に呼ばれる事だって多分無ぇ。

 俺だってあの女の名前は呼ばない。

 実の所、名前も素性も知っているんだが、呼ぶ機会は多分無ぇだろ。

 ガハハッ!

 困ったり、落ち込んだりした時はとりあえず笑え。

 それは親父の教えの一つだ。

 山賊の頭ってのは、誰にもナメられちゃいけねぇからな。

 獲物であろうが、仲間であろうが、弱った姿は見せちゃいけねぇ。

 いつも余裕だって所を見せつけてやるのさ。

 だから俺は、笑うんだ。

 ガハハッ! ってな。

 親父は「ヴァッハッハッ」って笑ってたけど、俺は「ガッハッハッ」って笑う。

 だって、そっちの方が強そうだろ?

 さて、俺の話なんてこんなもんだ。

 だいたいの事は語り切ったな。

 浅い人間だって?

 男なんてわかりやすい方がいいんだよ。




 俺があの女と出会ったのは、ある貴族の馬車を襲った時だ。

 根城から少し遠出した森の道。

 ここは隣の領に通じる唯一の道で、貴族だろうが平民だろうが領を渡る時はここを通る。

 しかも険しい道だから、大所帯で通る事が難しい。

 だから、護衛の人間だって少なくしなくちゃならねぇ。

 そこが狙い目だ。

 俺たちからすればここは被害を少なくできて、その上で貴族や豪商の荷車を狙える絶好の狩場ってわけだ。

 そしてその日は丁度そこを狩場に選び、運よく貴族の馬車が引っ掛かった。

 しかもその馬車は、見るからに護衛の数が少なかった。

 ここを通るにしても、少なすぎるくらいだった。

 少数精鋭か? とも思ったが、護衛騎士の立ち居振舞いを見るに普通の騎士よりポンコツだ。

 この場所の事を知っているのか、警戒だけはしている。

 が、あんなもん有って無いようなもんだ。

 襲ってくれといわんばかりだった。

 道を行く二台の馬車の内、前の馬車は人を乗せた物だろう。どんな人間が乗っているのかはわからない。

 だが、後ろの荷車は乗せられた物が丸見えだった。

 見るからに高価な品々が荷台に積まれていた。

 とてつもなく美味しい獲物だった。

 だが、あまりにも美味すぎる。

 罠を疑うには十分だ。

 が、俺の勘は違うと囁いていた。

 こういう時の勘は良く当たる。


「ガハハ」


 不安を吹き飛ばすように笑う。

 決心が着いた。

 首に紐でかけていた笛を口にし、思い切り吹き鳴らした。

 ピューという音が鳴り響くと、それを合図に木々へ身を隠していた仲間達が一斉に飛び出した。

 全員が馬車へ襲い掛かる。

 罠はなかった。

 俺の見立て通り、護衛の騎士はビックリするぐらい弱かった。

 しかも軟弱で、逃げ出す奴まで出る始末だ。

 何人か死んだ仲間もいたが、それでも騎士を相手にしたと思えばかなり被害は少なかった。


「頭! 結構なお宝ですぜ!」

「おう!」


 荷車を漁る仲間に応えながら、俺は馬車の方へ向かった。

 馬車の扉の前には部下が待機している。

 中に踏み込まないのは、そう教え込んでいるからだ。

 貴族には、自分自身が騎士団長を勤めているような強い奴がいる。

 下手に入って返り討ちに合う事があるから、貴族の乗る馬車には俺が来るまで手を出させないようにしているわけだ。

 魔法を使う奴だっているが、そういう奴は襲撃があった時に馬車から援護するもんだ。

 だから中にいる奴は魔法使いじゃないだろう。

 俺は鞘に収めた剣に手をかけながら、中へ入った。

 すると中にいたのは、一人の女だった。



 馬車の中にいた女は、身を縮こまらせて俺を見上げていた。

 女は無表情だったが、それでも怯えているらしい。

 体が小刻みに震えていた。

 そんな女を見て、俺は言葉を失った。


「ガハハ」


 代わりに笑い声が出た。

 俺は動揺しているらしい。

 子供の頃からの癖で、こういう時は自然と笑い声が出るようになっていた。

 それくらいに綺麗な女だった。

 左半分が隠された顔も、艶やかな黒い髪も、琥珀色の瞳も、何もかもが今まで見たどんな女よりも綺麗だった。

 とてつもなくいい女だ……。

 言葉を失っちまうのも仕方ないくらいのいい女だ。


 この女を俺の物にしたい。


 そう思った。

 そして俺は、抱く以外に女の扱い方を知らなかった。

 女へ近付く。


「こいつはいい。お宝だけじゃなく、女もいるなんてな」


 にやりと笑いかける。

 動揺してしまった事が少し恥ずかしかったから、その照れ隠しだ。

 すると、女の体の震えが止まった。

 おもむろに顔の左側を隠す布を引っぺがす。

 俺は、女がどうして顔を隠していたのかを知った。

 女の顔、その左半分には火傷が走っていた。

 深い火傷だ。

 一生かかっても消えないだろうものだ。


「これでも?」


 女は問い掛ける。

 確かに驚いた。

 だが、それだけだ。

 女の火傷は魔法によるものだろう。

 盗賊なんて商売をしていると、どうしても怪我は付き物だ。

 女と同じような火傷を顔に負っている仲間だって、何人かいる。

 正直に言って、見慣れた物だ。

 躊躇う理由にはならない。


「女なんて、穴さえあればいいんだよ」


 俺は女を抱いた。

 そして、根城へ連れ帰った。

 俺は他の宝物を全部仲間にくれてやる代わりに、女を俺だけの物にした。

 家に連れ帰って、お袋に世話を任せ、帰った時には抱くようになった。

 それからだな。

 今まではそこかしこで女を抱いていたが、他の女を抱かなくなった。

 どうでもよくなったんだ。

 こいつさえいればいい、と思うようになった。




「頭も物好きですねぇ。あんな傷物の女を抱くなんて」


 宴の席で仲間の一人が言った。

 お前に人の顔の事が言えんのか?

 イノシシみたいな顔しやがって。


「わかってねぇなぁ。あいつはいい女だろうが」


 俺が言うと、仲間達が笑った。

 笑うんじゃねぇよ。

 素直な気持ちだぞ。


「帰る」


 機嫌が悪くなったので帰る事にした。

 このままここにいたら、思わず手が出て朝まで乱闘コースだ。

 男の肉と汗と血に塗れる地獄絵図が展開されちまう。

 そんな男臭ぇ地獄の中にいるより、女の柔らかい肌といい匂いに包まれていた方が断然いいに決まってる。

 というわけで、家に帰ってすぐ女を抱いた。


「物好きですね。こんな私を抱くなんて」


 事が終わって、女が言った。

 いい女を抱きたいのは当たり前だろ?

 そう思った。


「ガハハ。女は穴さえあればいいんだよ」


 でも、こいつには何でか素直に言えないんだよな。

 不思議すぎるぜ。




 女はいつも無表情だった。

 何を考えているのか、その表情からはわからねぇ。

 ただ、わかる事が一つだけある。

 こいつが何もかもを諦めている事だ。

 それは多分、出会った時からだ。

 俺に無理やりヤられたからってだけじゃねぇ。

 その前から、この女は何かを諦めてた。

 そういえば、こんな事があった。


「綺麗だなぁ」


 藁の上で、俺は女に言った。


「戯れを……。私の心まで辱めるつもりですか?」


 何もかも諦めているから、信用できねぇんだろうな。

 俺はこいつの素性を知らない。

 だが、火傷のせいで酷い扱いを受けていたんだろうって事ぐらいはわかる。

 そして、悪いのがこいつ自身じゃねぇって事もわかる。

 お袋に世話を任せたはずが、気付いたらお袋が世話されていたからな。

 優しい女じゃねぇと、そんな事にはならないはずだ。

 やっぱりいい女だぜ。

 本当に、どんな人生を歩んできたんだろうな。

 俺は女の素性が、少し気になった。




 どうやら俺に子供ができたらしい。

 どんな気分かって?

 嬉しいに決まってるだろ。

 ガハハッ! 大笑いだぜ。

 しばらく思い出し笑いしていたら、仲間に気味悪がられたぜ。

 そんな矢先だった。

 俺達は襲撃した貴族の馬車から、返り討ちにあった。



 ちょっと浮かれていたらしい。

 怪しい気はしたんだが「いける!」と俺の勘は囁いていた。

 全然いけなかったが。

 大丈夫だと思ったんだよ。

 栄養あるもんをあいつに食わせてやりたかったしな。

 どうして返り討ちにあったかといえば、こうだ。

 馬車と屋根付きの荷車の二台が山道を通っていた。

 護衛騎士が少ないので一斉に襲撃したら、荷車が突然開いた。

 中で待ち伏せしていた魔法使い達が、雷撃の魔法を一斉射撃した。

 魔法攻撃で痺れる俺達は抵抗もできずに捕まった。

 手加減されたのか、仲間達は全員生きていた。

 そして今、俺と仲間達は貴族の馬車の前で座らされている。

 両手は縄で後ろ手に拘束されていた。

 手加減されて、わざわざ捕まえるって事は討伐が目的じゃないな。

 俺達に用事でもあるってのか?


「少し話をしましょうか。山賊のお兄さん」


 可愛らしい女の声が馬車の中から聞こえた。

 思った通り、何か用事があったみたいだ。


「馬車に入ってください」


 馬車からの声で、近くに立っていた護衛騎士が俺を立たせた。

 馬車の入り口が開き、そちらへ歩かされる。


「待ってください」


 が、途中でそれを止められた。


「お兄さん、すごく臭いですけどいつお風呂に入りました?」

「ガハハ! ちゃんと五日に一度は入ってるぜ!」

「そうですか。それはちゃんとしてますね。でも、私には許容できないので、洗わせてもらいます」


 さっきまで俺を前へ歩かせていた騎士が、今度は後ろへ引く。

 それに従ってある程度馬車から離れると、その窓からほっそりとした女の腕が出た。


「高貴にして清らかなる水の王よ。無慈悲なる蒼の牢獄を我が前に示せ」


 おい! 何か唱え始めたぞ!

 俺は焦った。

 それは詠唱魔法って奴だ。

 基本的に魔法という物は詠唱なしで使えるが、詠唱して発動させると威力が増す。

 洗うだけなのに何で詠唱する?

 俺の頭上に、物々しい魔法陣が展開された。

 普通の魔法なら魔法陣なんてでない。

 見るからに高位の魔法だ。

 なんか殺意を感じるぜ。

 と思った瞬間、突然発生した水の球体が俺を閉じ込めた。

 それだけじゃなく、球体の中で渦が発生して俺の体は水の中で振り回された。


「ごぼぼぼぼっ!」


 しばらくして、唐突に俺は外へ放り出された。

 盛大に飲んだ水を口と鼻から吐き出す。

 鼻に水が入って頭がガンガンするし、振り回されて吐き気もした。

 顔を上げる。すると、前方に別の魔法陣があった。

 そこから凄まじい熱風が吹きつけられた。

 濡れた体を乾かすためなんだろうが、熱も風も強すぎる。

 肌まで干からびそうだった。


「ぐおおおおおぉっっっ!」


 それが終わると、ようやく解放された。

 もうくたくただ。

 抵抗する気力も出ねぇ。

 だが、頭は舐められちゃいけねぇからな。

 俺は余裕の態度を取り繕う。


「ガハハ、死ぬかと思ったぜ!」

「まさか。話があるって言ったでしょう? 殺すわけがないじゃないですか」


 女は答える。その声音に敵意は感じられない。

 だが、何だか信用できねぇぜ。

 俺の勘は当たるんだ。

 さっきは外れたけどな。


 今度こそ、俺は馬車の中へ連れられた。

 中には向かい合わせの椅子があり、御者台のある方向の席に一人の女が座っていた。

 黒いドレスに身を包んで、顔には口元だけが見える黒いベールを着けていた。

 女のいでたちは、まるで喪服みたいだ。


 いや、女じゃねぇな。


 子供だ。

 見るからに幼い少女が、そこにはいた。

 だが、油断するわけにはいかない。

 見た目なんて当てにできないんだからな。

 この世の中には、矯正器具と食事制限で体を成長させずに子供のままの体型を維持する暗殺者の集団があるらしい。

 親父が言ってた。

 こいつがその一味じゃないとは言い切れない。

 何より、かなり腕のいい魔法使いみたいだからな。

 油断する理由が全然見つからないぜ。


「座ってください」


 女に促されて、向かいの席に座る。

 すると、馬車が走り出した。


「ガハハ。どういうつもりだ?」

「これから、ある人物に会ってもらおうと思いまして。あ、もちろん、話をしたいっていうのも本当ですよ」


 やっぱり胡散臭い奴だ。

 物腰は柔らかいのに、やってる事はかなり強引だ。

 なし崩しに物事を運びやがる。


「安心してください。手下の方々には手を出しませんので。あなたがマズイ事をしなければ」


 気に入らねぇな。


「で、何の話だよ?」

「実は、あなたに頼みがあるんですよ」

「頼み?」

「ええ。これから会ってもらう人も同じ話をすると思うのですけどね」

「じゃあ、今話す意味はねぇんじゃないか?」


 正直、俺はこの女が嫌いだ。

 できるなら、こいつと話なんてしたくない。


「話を円滑に進めるための下準備みたいなものですよ。で、あなたに頼みたい事ですが、ある人物の暗殺なのです」

「ガハハ。笑えるな。頼む相手を間違ってやがる。俺は殺し屋じゃねぇぜ」

「こっちにも事情があるんですよ。あなたは丁度よかったので、話を持ってきました」

「やだね。気が乗らねぇ」


 別に人一人ぶっ殺すなんざ全然構わないんだがな。

 こいつの頼みっていうのが気に入らねぇんだよな。

 仲間が人質に取られているからどうせ受ける事になるんだろうが、一回ぐらいは反抗してやりたかった。

 断られてどんな顔をしているのか? と女の顔を見る。

 意外な事に、女の口元はうっすらと笑っていた。

 怪訝に思っていると、女は口を開いた。


「少し調べさせてもらったんですが……。あなたには美人の奥さんがいるそうですね」


 そう言った女の口元が、直後深い笑みに釣りあがった。

 俺はゾッとした。

 これは脅しだ。そう直感した。

 体が冷える。

 だが、すぐにカッと熱くなった。


「あいつに手を出したら、ぶち殺してやる!」


 反射的に叫んでいた。

 それだけは絶対に許せない。

 立ち上がり、掴みかかろうとする。

 その瞬間、女が手を軽く振る。

 同時に黒い球体が現れ、俺の顔に思い切りぶつかった。


「がっ!」


 その反動で、無理やり同じ場所に座らされる。

 すぐに立ち上がり、もう一度迫ろうとする。

 が、それはできなかった。

 両手足が引かれ、女の目の前で俺は止まらざるをえなかった。

 気付けば白く光る縄のような物で、手足が縛られていた。

 縄はまるで空間に固定されているようで、全力で引いても動かなかった。


 無詠唱の魔法だ。


 互いの息がかかる位置で顔を合わせながら、俺にできるのは女を睨みつける事だけだった。


「意外と元気ですね。抵抗する気力なんて残ってないと思ってましたのに」


 女はクスクスと笑う。


「いやですねぇ。ただの世間話ですよ。友好を結びたい相手とは言葉を交わして解かり合いたいものでしょう? それも快く頼みを聞いてもらいたい人が相手ですからね。そういう努力をするのは当然ですよ」


 そう言われても、全然信用できないぜ。


「で、その世間話の延長なんですけど、あなたは奥さんの素性って知っています?」

「知らねぇ。どうでもいいからな」

「でも、ちょっと気になるでしょ? 好きな相手の事って、どんな事でも知りたくなるものじゃないですか」

「ガハハ! わかってねぇな! 女は穴さえありゃいいんだよ」

「殿方はそうかもしれませんね。だから、私には理解できません。じゃあ、これはどうです?」


 女は言葉を切ると、俺の耳元へ口を近づけた。

 内緒話をするように、密やかな声で続ける。


「殺して欲しい相手は、あなたの奥さんを傷付けて、絶望に叩き落とした人間なんですよ」


 そう切り出した女は、あいつの素性とあいつに起こった事を話した。

 あいつが第一王子を庇い、体の左側を焼かれた事も聞いた。

 正直に言うと、この女は気に入らねぇ。

 暗殺の頼み事だって乗り気じゃねぇ。

 だが、その話は俺をやる気にさせるのに十分だった。

 顔も知らない第一王子を、俺は無償に殺してやりたいと思った。


 それから俺は一人の男に会わされ、同じ頼み事をされた。

 えーと、第二王子だっけ?

 男はそう名乗ってたな。

 でも、どっちかっていうと暗殺する相手の方に意識が向いてて、相手が王族だろうが正直どうでもよかった。

 こいつがどんな理由で、第一王子を殺そうとしているのかなんざ知らねぇ。

 だが、俺がそいつを殺す機会をくれるなら、誰が依頼主でもよかった。

 ただ、暗殺は時期とか準備とかで、すぐに実行するわけじゃないらしい。

 俺の仕事は計画が実行される時に、男の手引きで城に潜入して第一王子を殺す事だ。

 正直、すぐにでもぶち殺してやりたかったが、こいつらの手引きなしじゃ流石の俺でも王城に忍び込む事なんざできねぇ

 そこはおとなしく従うしかなさそうだ。

 ちなみに、成功報酬を出してくれるそうだ。

 仲間全員と分け合っても何年か遊んで暮らせそうな金品。

 それと俺達の根城を見逃すという約定だ。

 まぁ、あの女の口ぶりじゃ根城の場所もバレてそうだからな。

 素直にありがたい話だ。

 きっと、断ったり失敗したりしたら、次の日には根城が騎士に包囲されるだろう。


 やる気に満ちてその時を待つ俺だったが、それから何年か計画が実行に移される事はなかった。




 生まれた息子が、ハイハイで家中走り回るようになった。

 オムツをしている時はおとなしいのに、代えるために脱がすと目を離した隙にすぐどこかへ走り去る。

 あいつはいつも右往左往して子供を探すわけだ。

 変わらず無表情だが、その内心はかなり焦ってるんじゃないだろうか。

 さっきから同じ所をウロウロと探し回っている。

 そんなあいつの様子を見るのが、俺は好きだった。

 ちなみに、俺は子供がどこへ行ったのかちゃんと把握しているので、危険は無い。

 そんな時期だった。

 お袋が死んだ。

 特に何かのきっかけがあったわけじゃない。

 前の日まではいつも通り、元気に過ごしていた。

 朝になっても起きてこないから見に行ってみると、冷たくなっていた。

 触らなけりゃ、ただ眠っているようにしか見えない。

 そんな死に様だった。


「ガハハ……」


 まぁ、笑うよな。こういう時は……。

 なめられちゃいけねぇからな……。


 仲間達と一緒にお袋を弔った。

 その後に仲間達と酒を飲んで、お袋の思い出話をした。

 少し飲みすぎた。

 ふらふらとした足取りで帰る。

 そのまま女の部屋に向かった。

 女は起きていた。

 傍らには赤ん坊用のベッドがあった。

 俺が作った物だ。

 その上で息子が眠っていた。

 俺は女を抱いた。

 多分、気が立ってたんだろう。

 いつもより少し乱暴に抱いた。

 疲れ切って何もしたくなくなるまで抱いて、そのまま女の部屋で眠る事にした。

 でも、意識は妙に冴えていた。

 考えるつもりがないのに、お袋の事が頭に浮かぶ。

 目を瞑っているのに、眠くならなかった。

 いつもなら、とっくに眠れるはずなのに……。

 ふと、頭に触れるものがあった。

 薄目を開けると、女が俺の頭を撫でていた。

 変わらない無表情のくせに、とても優しい手つきだ。

 子供を撫でるような強さで、女は俺の頭を撫でた。

 気遣う相手でもないだろうに……。

 ……やっぱり、いい女だな。

 妙に心が安らいだ。

 そして、すぐに眠気がやってきた。

 これで、いつも通りだ。




 暗殺計画実行の報せはまったく来なかったが、代わりに別の依頼があの胡散臭い女から手紙で届くようになった。

 連絡員として送られる人間から手紙を受け取ると、どこどこの街道でこの紋章をつけた馬車を襲え、とかそういった類の内容が書かれていたりする。


「俺は便利屋じゃねぇぞ」


 と、連絡員に言ってやると、連絡員はカバンから別の手紙を取り出して渡した。

 前もって俺の返事を予想してたって事か?

 俺は字の読み書きができないので、連絡員が手紙を読む。

 そう命令されているのか、この連絡員は手紙の内容をあの女の声真似で伝える。

 聞く度に殴ってやろうかと思う。


「ええ、もちろん。あなたは盗賊です。ただ、誰かの依頼で人を襲う盗賊がいてもいいじゃないですか」


 それって盗賊じゃないんじゃねぇ?

 まぁ、断ってあいつに手を出されるのもやだからな。

 依頼は請けるんだが。

 依頼料もくれるし、完全に悪い話じゃない。


 そういう事情があって、最近はよく遠出する。

 何日も家に帰れない日が増えた。

 とてもイライラする。

 だからその分、帰った時は女を存分に抱くわけだ。ガハハ。

 で、今日は久し振りに家へ帰ってきた。

 すると、家の前に小さな女の子がいた。

 俺とあいつの子供だ。

 あの女によく似た、可愛らしい子だ。

 正直言って、あいつに似すぎだ。

 あいつをそのまま子供にしたみたいで「俺の血は本当に入ってるのか?」「実はあいつ一人で生んだんじゃないのか?」と思えるくらいに似ている。

 息子の方はどう見ても俺の子だとわかるんだが、娘の方はわかりにくい。

 ちょっと鼻の形が似てるかな? となんとなく思うくらいだ。


「にょほほ」


 その可愛らしい俺の娘が変な笑い方をしていた。


「ガハハ。ご機嫌だな。どうしたんだ? その笑い方」


 俺が声をかけると、娘は嬉しそうに俺へ笑いかけた。


「あ、父ちゃん。にゃふふ」


 さっきとちょっと違うぜ。


「これねぇ、母ちゃんが言ったの。女の子は、「ほほほ」とか「ふふふ」って笑うんだって。でも、「にょほほ」とか「にゃふふ」の方が可愛いでしょ? だから変えたの」


 間違いねぇ……こいつは俺の子供だ。

 俺は強い確信を得た。




 三人目の子供が生まれた頃だ。

 ようやく、待ちに待った計画実行の報せが届いた。

 いよいよか……。

 思えば、口の端が自然と持ち上がった。

 俺は王都へ向かい、あの女の部下の手引きで城内へ侵入した。

 食材用の木箱に詰められての潜入だ。

 折りを見て、別の部下が箱を一定の間隔で叩く。

 それが出て来いという合図だ。

 木箱から出た俺は、下働き用の通路を通ってある場所へ案内された。

 城の中庭にある庭園だ。

 そこでは今、丁度茶会が開かれていた。

 煌びやかなドレスを着た女達が、思い思いに茶と菓子を楽しみながら笑っていた。

 男も何人かいるが、女ほど多くない。

 辺りを見回すと、明らかに護衛の数が少なかった。

 二、三人が目立たないように配置されている。


「おめでとうございます、殿下」

「いやぁ、ありがとう。みんなのおかげだ」

「いえ、もう殿下とお呼びするのも失礼かもしれませんね」


 そんな中で、一人の男が女達に囲まれていた。

 何か祝われているらしい。

 そして、その祝われている奴こそが暗殺対象。

 あいつを傷付けたクソ野郎だ。

 あの騎士の配置じゃ、異常に気付いて助けようとしても明らかに間に合わねぇな。

 あの胡散臭い女の手引きかもしれねぇな。

 俺は前もって渡されていたナイフを抜いた。

 連絡員から渡されたナイフで、特殊な毒が塗られた物だ。

 少しでも傷つけられれば、相手は死ぬ。

 そんな毒らしい。

 指先とか傷付けそうでちょっと怖いぜ。

 だが、それだけのくらいのもんだから、俺はほんの少し切りつけて逃げるだけでいいって寸法だ。


「行ってくるぜ」


 案内してくれた奴に告げ、俺は駆け出した。

 狙うのはあの男ただ一人。

 一直線にそこへ向かう。

 纏わりついた女達が少し邪魔だ。

 そう思った時、叫びが上がる。


「キャアッ! 賊よ! 暗殺者よ! 王子を狙っているわ!」


 どこかで聞き覚えのある女の声だった。

 それに反応し、俺に気付いた女達が悲鳴を上げた。

 一斉に王子から離れる。

 俺と奴の間に、邪魔をする奴はいなかった。

 王子が逃げようとする。

 そんな王子の肩を左手で掴んだ。

 強く引き、こちらを向かせる。

 怯える顔が見えた。

 その王子の腹に、ナイフを根元まで突き入れた。


「ぐあぁっ!」


 ついでに、ナイフを半回転捻り込んでやる。


「ぐくぅ……!」


 思ったより悲鳴は大きくなかった。

 腹をやられて声が出なかったせいかもしれない。

 ただ、俺はちょっと物足りなかった。

 まだ気が収まらなかった。

 なので、刺さったままのナイフから手を離して、王子の襟首を掴む。

 両手で強く引いて、思い切り頭突きをかました。

 王子が鼻血を流し、床へ叩きつけられるように倒れた。

 床に叩きつけられ、小さくバウンドする。


 ちょっと、すっきりしたぜ。


 俺は踵を返し、前もって指定されていたルートを通って城から脱出した。

 王子がどうなったのかは確認してないが、あれだけやれば流石に死ぬよな?




 とりあえず、王子は死んだらしい。

 連絡員からその話を聞いた。

 事が済んだので帰ろうとしたら、引きとめられた。


「あの方が、あなたを労いたいと申しております」


 こいつはあの女の部下だ。

 あの方、なんていうからにはあの女の事だろう。

 正直会いたくないんだが……。

 まぁ、これでこの関係も終わりだからな。

 最後ぐらい会っとくか。

 俺は女の申し出を受ける事にした。


 案内された場所には、一台の馬車が停まっていた。

 あの日、あの女が乗っていたやつだ。

 中に入ると、一人の女が席に座っていた。

 相変わらず、黒いドレスを着ている。

 顔もベールで隠していた。


「お疲れ様です、お兄さん」

「お前、誰だよ」


 労う女に、俺はそんな言葉を返した。

 待っていた女は俺の思っていたのとちょっと違ってた。

 身長が伸びて、胸も膨らみ、全体的に大きくなっている。


「いやですよ。三年前に会ったじゃありませんか」

「お前もっと小っちゃかったじゃねぇか」

「そりゃあ、あの時は十二歳くらいでしたからね。成長すればこんなものですよ」


 子供みたいな女じゃなくて、普通に子供だったらしい。


「納得してくれたなら、気を取り直して……」


 前置いて、女は俺に深く頭を下げた。

 少し困惑する。


「ガハハ」


 癖で笑いが出た。


「この度は、あのクソ王子を殺していただき、ありがとうございます。第二王子と、そして私の願いが叶いました」

「どういうつもりだよ。お前、そんな殊勝な奴じゃねぇだろ?」

「誠意だと思ってください。誤解しているかもしれませんが、私はあなたの事を買っているんですよ」


 本当かよ。

 疑わしいぜ。

 すると、女は顔にかけていたベールを解いた。

 その顔があらわになる。

 俺は驚いて、息を呑んだ。

 笑いすら出なかった。


 女の顔は、あいつと同じだった。


 火傷はないが、まるっきりあいつと同じ顔だ。


「お前、何者なんだ?」

「何度もお呼びしているでしょう? お兄さんって。私は、お姉様の妹ですから」

「つまり、お前はあいつの妹って事か?」


 女は感情豊かに笑う。

 本当に楽しげな笑みだ。

 あいつなら、絶対にしないだろうな。こんな顔。


「だから嬉しいんです。お姉様を酷い目に合わせた人がこの世からいなくなって」


 可愛らしい笑顔だ。

 同じ顔なのに、とても感情的な表情をする。

 あいつも笑えば、こんなに可愛らしいんだろうな。


 でも、この女をいい女だとは思えなかった。

 どう足掻いても、この女はいい女にならない。

 そんな気がする。

 純粋に嫌いってだけじゃない。

 俺の勘がそう囁くんだ。

 こいつはいい女じゃないし、これからもいい女にならない。

 俺の勘は当たるんだ。


「じゃあ、このまま自宅まで送りましょうか」

「それなりに遠いぜ?」

「それくらいの労いは厭いません。鼻が曲がりそうでも我慢しましょう」

「匂いで潜入がばれないように、風呂に入ってきたんだがな」

「だったら服も変えましょうよ。染み付いてますよ」


 今度から気をつけるか。

 もう、暗殺する事もこいつと会う事も無ぇかもしれねぇけど。


「……根城に着いたら、あいつに会っていくか?」


 この女は胡散臭くて信用できないが、姉の事はとても好きらしい。

 でなけりゃ、ここまで大それた計画なんて考えないだろう。

 だから、そう申し出た。

 だが、女は首を左右に振った。


「いいえ、やめておきます」

「何でだ? 会ってきゃいいだろ。あいつも喜ぶんじゃねぇか?」

「合わせる顔が……無いですからね……」


 女は言うと、悲しげに苦笑した。




 根城に着いたのは、夜になってからだった。

 俺は家に帰ると、すぐにあいつの部屋へ向かった。

 思っていたより心が疲れていたらしい。

 どうしてもすぐに会って、落ち着きたかった。

 あいつのそばは安心するんだ。

 部屋に入ると女は起きていた。

 赤ん坊用のベッドの前に座っていた。

 ベッドの上では、フリル塗れの生き物が寝ていた。

 俺の三人目の子供だ。

 女の子だったっけ?

 男の子だった気がしたんだが……。

 どっちでもいいか。

 可愛らしい事には違いないからな。

 それより今はこっちだ。


「ガハハ。抱くぞ」


 答えを聞かずに、俺は女を抱いた。




「なぁ、知っているか?」


 抱いた後、俺は女に訊ねた。

 まぁ、知ってるわけないだろうが。


「何を?」

「この国の第一王子が暗殺されたらしいぞ」


 訊ね返され答える時、少しだけ不安になった。

 もしかしたら、まだこいつはあいつの事が好きだったかもしれないと思ったからだ。

 何せ、身を挺して庇うくらいだ。

 十分にありえる話だった。


「そうですか」

「そうだ。茶会に忍び込んだ暗殺者に殺されたらしい」

「へぇ……」


 だが、女は特に気にした様子も見せなかった。

 喜ぶ事も悲しむ事もなかった。

 ただ、いつも通りの無表情で答えるだけだ。

 実は気にしているが、顔に出ていないって事もありえるが……。

 これは多分違うな。

 普通に気にしてない感じだ。

 俺の勘がそう囁いてる。


「それだけか?」


 もう一度訊ね返す。

 だが、女は「何の事です?」と言わんばかりに首を傾げるだけだった。

 やっぱり、あいつの事はまったく気にしていないらしい。

 それがわかって、少し安心した。


「ガハハ。眠くなった。寝るぞ」


 女の体を抱き締める。

 こいつの体温を感じながら眠りたいと思った。


「寝るのでしょう?」

「何か抱きながら眠ってみたかったんだ」

「そうですか。どうぞ、ご勝手に。あ、子供が夜泣きするかもしれないので、あんまり強く抱き着かないでください」


 が、そう上手く行かなかった。

 しょんぼりだぜ。



 後日、あの胡散臭い妹から手紙が来た。


「正式に、私の専属盗賊団になりませんか?」


 だからそれ、もう盗賊じゃねぇだろ。


 まぁ、受けたんだけどな。その申し出。




「なぁ、父ちゃん!」

「ガハハ、何だ? 息子」

「俺、母ちゃんみたいな美人の女を嫁さんにしたい」

「お前もまだまだわかってねぇなぁ」

「え? 何を?」

「いい女ってのは、顔で決まるもんじゃねぇんだよ」

「じゃあ、何で決まるんだ?」

「そんなの決まってらぁ!」


 ……何で決まるんだろう?


 勢いで言っちまったが、どういう女がいい女なのかわからねぇ。

 あいつはいい女だ。

 それはわかる。

 だが、どうしていい女なのかがわからねぇ。

 顔か?

 いや、さっき違うって言ったからこれじゃない。

 性格か?

 いや、あいつが何を考えているのか、俺にはまったくわからねぇじゃねぇか。

 意外と俺はあいつの事を知らねぇな。

 むしろ、何を知っているんだ?


 ……穴、かな。


「女は穴さえあればいいんだよ」

「そうか! わかったぜ、父ちゃん!」


 何故か知らないが、その後であいつに殴られた。

 こんな事は初めてだった。

 だけど、初めてあいつが感情を向けてくれた気がして、ちょっと嬉しかった。




 あれから何年経ったんだろうな。

 正確にはわからないが、昔といろんな事が変わっているから、かなりの年月が過ぎているんだろう。

 息子二人は俺の跡を次いで、あの胡散臭い妹の下で働いてる。

 その二人の下、あの妹の意向もあって、最近では盗賊団が後ろ暗い仕事専門の特殊部隊みたいになっていたりする。

 で、俺の娘は王都に行って、男引っ掛けて帰ってきやがった。

 正直、その男は気に入らん。

 でも、どうせどんな男を連れてきても気に入らん気がするから、素性を知っている分、その男の嫁になる方がいいのかもしれない。

 そしてあいつは、最近体の自由が利きにくいらしい。

 歳と火傷のせいだ。

 床から立ち上がるのも大変らしく、俺はあいつが立ち上がりやすいようにベッドと安楽椅子を作った。

 今、あいつはその安楽椅子に座って日向ぼっこしていた。

 俺は、その横に仁王立ちする。

 理由は無い。

 ちょっとそばにいたかっただけだ。

 女の顔を見下ろす。

 元々、表情を動かす事がないせいか、その顔にはあまり皺がない。

 今の俺よりも数段若く見える。

 相変わらず綺麗な女だ。


「何か?」

「ここに立ちたかっただけだ。ガハハ」

「そうですか」


 会話が途切れる。

 別に、俺は女と話したかったわけじゃない。

 ないんだが……。

 ただ、ちょっと寂しいぜ。

 もう少し、何か話しかけてこないかな? とチラチラ女をうかがう。

 すると、女が急にこちらを向いた。

 口を開いた。


「いつまで、私をここへ置いておくのですか?」


 ……は?

 なんじゃそりゃ?


「何故、そんな事を聞く?」

「今の私には、手元に置く価値がありますか?」

「どうしてそう思うんだ?」

「ここ何年も、私をお抱きになっておられないじゃないですか。もう、年齢的に子供も産めませんし、私がここにいる価値はすでにないのではないか、と思ったのです」


 ああ、そういう事か。

 そういえば俺は、こういう話が出る時に決まって何かしらの理由をつけていた気がするな。

 その方が納得するだろうから。

 だったら、今回も何か理由をつけた方がいいか?

 何かないか? と考える。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 思いつかねぇ。

 そして考えるのは面倒くせぇ。

 理由なんざ、つける必要もねぇだろ?

 思った事言やぁいいんだよ!


「ガハハ!」


 景気づけに一度笑う。

 そして女に向いた。

 顔の位置を合わせるようにしゃがみ込む。

 ひざ掛けに置かれた女の手に、自分の手を乗せる。


「お前は俺の隣にいればいいんだよ」

「そうですか。わかりました。じゃあ、居られる限りはいましょう」


 女はいやにあっさりと言葉を返した。

 その後に俺の手を掴んで、自分の方へ引き寄せる。

 俺はそれに逆らわず、女の方へ寄った。

 とても、居心地のいい位置だ。


「ガハハ」


 あまりに居心地がいいから、思わず笑い声が出た。


 こいつは本当に何を考えているんだろう。

 特に俺の事だ。

 俺の事をどう思っているんだろう。

 俺はずっと、それが気になっていた。

 聞けば素直に答えてくれそうな気はするが、聞くのが怖い。


「嫌いですよ。当たり前でしょう?」


 なんて言われたら、泣くかもしれない。

 ていうか、今までの事が事だ。

 絶対に嫌われているだろう。

 知ってるんだぜ。お前がたまに泣いてたの。


 好かれるような事をした覚えだって無ぇ。

 答えは決まりきってる。

 だから、素直になれないのかもしれねぇな。

 でもなぁ、このままじゃ俺は自分の気持ちを死ぬまで言えない気がするんだよな。

 それは嫌だぜ。

 だから意を決して、俺は女に口を開いた。


「お前はどう思っているかしれねぇけどな。俺はお前の事、好きだぞ。……一人の女として」


 女は俺の顔をじっくりと眺めた。

 変わらない無表情だ。

 と思った瞬間、女は表情を変えた。

 ゆっくりと形作られた表情は、笑顔だった。


「私も好きですよ」


 そして一言返す。


 ガハハ。


 ついてるねぇ。

 初めて見たこいつの表情が、笑顔だなんて。

 惚れ直しちまうじゃねぇか。


 やっぱりこいつは、いい女だなぁ。ガハハッ!


「女」「男」では紛らわしいので、あだ名を使います。

 アナちゃんの話が表の話だとしたら、ヤバンくんの話は側面です。

 表と裏を繋ぐ部分になります。

 なので、次は裏の話。暗殺首謀者の話になります。

 元ネタのヴィランにあやかって、コインの表裏に例えてみました。

 ノーラン版の彼のコインは、裏が真っ黒なんですよね。


ガハハが定着してますね。元々、名前はないので皆様が心に思い描いたふさわしい名前で呼んであげてください。

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[一言] ほっこりして好き
[良い点] 愛情表現や言葉数は少ないけど、実はベタぼれ隠れ一途な大人なのに男子っぽい人って大好きです(^ε^)-☆Chu!! 個人的に(*> U <*) どんなお話や書籍でも、ガハハって笑い方す…
[良い点] 良すぎて泣けてくる
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