美形その4と信じられない事実
「しっかし、よ~く見ると女の子だよなっ」
なんだか気を取り戻した様子の輝くん。先ほどの黒いオーラはどちらに…。何はともあれエンジェルおかえり。でもなんで私の顔見てるの。そして、近いよ。
「目ぱっちりしててさぁ」
いやいやいや、君の方がぱっちりのぱちぱちだから!
「まつげ長ぇしさぁ」
ふふ、嫌みかな。…それにしても近いな。顔、近い!近いから!!!
「輝?それ以上近づくと、」
「分かってるって」
「ならいいですけど」
「…ふぅー」
可愛い顔が近くにあったからドキドキした。そして息を軽く止めていたから、ほっと一息。薫さんありがとう。でもなにがわかったの?輝くん。
「確かにまつげ長いよねぇ海」
「…近いです」
今度はあなたですか満さん。なんですかね、この状態は…。
「あははぁ」
いや。でも、近くにある満さんの顔を見る。…なんなのよ!美形!
「満さんも長いじゃないですか、まつげ」
くるりんっってしてるし。なんなのよ!美形!
…少し距離を縮めて、じーっと凝視。肌キレイだな…私より。鼻筋通って綺麗な顔だな。私より女を感じる顔立ち。…ぐすん。女である自信が低下してくるよね…。
「…海ぃ」
「はい、なんですか」
「キスしちゃうぞぉ」
「は?」
「この距離で見つめられると、誘ってる、としか思えないなぁ」
はっと、気づく。満さんの顔がすごーく近くにある。あれ、私ってば、こんな近くで凝視しちゃってたの。うそでしょ。思考の深くまで沈んでいたのがいけない。また無意識にっ馬鹿っ!
「満」「みーくん」
薫さんと輝くんの呼びかけに5秒ほど間が空いて満さんは、降参ポーズをとった。
「冗談でしょーが、怖いなぁ」
「いや、その間が気になるからね」
「た、確かに…ん?」
その満さんの反応に声がかかる。良い突っ込みどころである。確かにさっきの間はなんだったのだろう。そして、さっきツッコミを入れた声、どこかで聞いた声に似てるような…。
「あれ?セイじゃんっ!」
「セイおはよう」
「おはよー」
セイ?あ、ツッコミ入れた人だ。扉の近くに立つ、これまたイケメン。いつ扉開けたの。音鳴った?気づかなかったのかな…。
「はよー。えぇと、こいつ新入り?」
あたしを指差してそう言うセイというイケメンさん。というか、指さすな。
「そうだよ」
「ふーん。俺はセイな、よろしく」
「はい。海です、よろしくお願いします」
イケメンだからって指さしはいけない。ちょっとむかついたから、少しそっけなくなってしまった。許せイケメン、あなたが悪い。
「海、ね」
「はい」
「苗字なんていうの?」
「苗字?東條ですけど…」
「…ふーん」
なにその反応。なんなのよ!美形!…これ何回思っているんだろう。今日だけでも相当…。
「俺は北澤 晴-キタザワ セイ-。方角の北に澤。晴れって書いて“晴”」
「…北澤、晴…」
あれ、この名前。どこかで聞いたことある。…あれ。…ちょっとまてよ、いや、そんなはずない。見た目が違いすぎるだろ。このイケメンとあの人…。同姓同名とか、きっと、それだ。
「…あの」
「ん~?」
キタザワ セイ。この名前。私のクラスにもいるんだ。
「高校どこですか?」
そう、“北澤 晴”が。同じ漢字、読み、性別の人物が。
「ふっ…橘高だけど。それが、どうか、した?」
た、橘高校。私と同じじゃん!嘘でしょっ!?じゃあこの、私の目の前にいるのは同じクラスの“北澤 晴”!?
「ち、ちなみに何年何組ですか?」
「ふっ」
でもあたしのクラスの“北澤 晴”は黒髪に厚い眼鏡のダサいかんじの男の子なんだけど…。目の前にいる“北澤 晴”とは全然違う、オシャレな茶髪で、フェロモン過多だし、むしろチャラいというかなんというか。
「あれ知らない?俺、海ちゃんと同じクラスだけど?」
「……っ嘘でしょおーーーっ!?」
「ふっ、あははっ」
「「!?」」
「どうしたのっ!」
私の絶叫でこちらを見守っていた皆がびっくりして慌てだす。
「どうしたの?」
「薫。ふっ。ここってさ、女の子、働いていいんだっけ?」
「…、海、どういうこと?」
「……えぇと、北澤くんとは同じ学校で同じクラスらしいんです。」
薫さんの落ち着いて優しい声に少し落ち着きを取り戻す。でも、私はまだ信じられない。だってこんなに人って変わるものなのだろうか。すごい変わりようなんだけど。
「…なるほど、だから女の子ってわかったんだ」
「そ」
薫さんと北澤くんが会話をしている。美形2人。…ほんとに北澤くんなの?
「ほんとに、あの北澤くん?」
「ふっ。そうだよ?」
「…」
「全然違うでしょ」
「うん」
ねぇ、なんで微笑みながら近づいてくるのですか?イケメンこわい。
「ビックリした?」
「…それはもう」
北澤くんの問いかけに素直に答えつつ、近づいてくるイケメンの様子を窺う。なんでこいつ寄ってくるんだ。
「ふっ。そっか」
鼻で笑いましたよね、今。そして何故、私の右手を持ち上げているのですか。北澤くんとの距離約50㎝。近いな。そして、何故片膝を床につけしゃがんだ、イケメン。騎士か。騎士なのか。…似合うけども!
そんなことを考え、内心テンパっていると。
ちゅ。という、生々しい音が響きました。そして、右手の起きた一瞬の温かさ。
「「!?」」
「え!?」
なにした!?今、なにしたこのイケメン!?
「よろしくなー。海、ちゃん?」
…手の甲にキスをされました。何こいつ。どっかの王子様なの?ねぇ、それともやっぱり騎士なの?というか、なんでこんな事したの?え?え?テンパりマックス。それよりなにより。さっきの感触は…。
「…鳥肌たった」
沈黙に包まれる周囲。目の間にいる立ち上がり動作の途中だった北澤くんは不自然に止まった。いや、固まった。
「「…ブッ…、あはははは!」」
「ぶははははぁ〜っ!くっ、くっくるしっ!」
そして、皆さんはお腹を抱えて大笑いを始めました。…いったい、どうしたのか。
「海…、ふっ、今のは結構傷つきますよ」
「えっ!?」
あたしまた何か失礼な事を!?
「嘘!?ご、ごめんなさい!」
「…」
「何か失礼な事をしちゃったんだよね、北澤くん、ごめん!」
「……天然なのか」
「え?」
ぼそっとつぶやいた北澤くんの言葉は分からなかった。北澤くんは固まっていた体が動きまっすぐになった。良い姿勢ですこと。…でも右手は握られたまま。離せイケメン。離すのだ。
「晴。もう、その手は離していいんじゃない?」
「そーだそーだ」
と、思っていることを薫さんが伝えてくれた。さすがです、紳士様。
「はいはい」
薫さんのおかげで、北澤くんの手が私から離れた。
「あ、俺の事は晴って呼んで」
「うん」
「じゃ着替えますか」
何事もなかったかのように、北澤くん、改めまして、晴は更衣室に向かった。そんな晴を見送っていると双子と輝が近くに寄ってきた。
「海、晴にキスされたのはココ?」
「は、はい」
私の右手をとり、キスされた所に目線を送る薫さん。え、なにその顔、すごく色っぽい。
「あいつ女好きだから、気をつけるんだよぉ」
左後ろから私の頭をなでて言うのは満さん。…いや、近いから。
「同じクラスとか…色々危ねぇな」
すこし上目遣いで真正面から見つめてくる輝。可愛いな。
しかし、これは。この状態は。とても恥ずかしい。思わず遠い目をしてしまった私は悪くないと思います。
ちゅ。
「え」
悟っていると、右手に感じるさっきと同じ感覚。
「消毒」
右前に立つ薫さん。私の右の手の甲にキスをして、目線だけこちらに向けていた。セ、セクシー!って、いやいやいや!!!
「か、薫さんっ!」
じゃあ僕も。という言葉の後、再び響く、ちゅ、という音。
「ん?」
頬に感じる、この感覚。
「…ほっぺやわらけぇ」
ほっぺに、ほっぺに、ちゅーされたー!!!えーーー!!何してんのー!
「あ、輝っ!」
「輝、それはやりすぎ」
いやいやいや薫さん、あなたもキスして消毒とか言ってたよ。あれ相当
恥ずかしいと思うよ!ねぇ!そんな事しないで下さいよぉ!心臓がぁぁ!!
「へへっ」
「ふふ、まったく」
「海、真っ赤っか」
輝くんに指摘されましたが、自覚ありですよ!顔熱いですもん!!こいつらなんなの!
「だ、だってぇっ!」
私、全然悪くないと思う。恥ずかしいことを笑顔でやってくる美形、イケメンが悪いと思う。もう、やめてほしい、私をからかうのは!切実ですよ!
「「…もうやめとこう」」
「なんですか?」
薫さん輝くんが見つめ合い頷き合いました。こぼした言葉が聞き取れず、聞き直す。
「「なんでもない」」
薫さん、輝くん、そろってますね。その間、満さんはずっと黙ってる。私の左後ろで。ちょっとこわい、ってのは黙っておこう。
「海」
「な、なんですか?満さん」
そんなことを思っていると声がかかり、私の肩をつかんできた満さん。くるりと体を回され、目の前には満さんの顔が。
ちゅ。
そうですね、簡潔に言いましょう。おでこにキスされました。
「…」「…」
またもや沈黙。私、今、何された?え?何?おでこに?き、き、きっ!!もうやだよぉおお!助けてお母さん!優ぅぅう!ここの人たちこわいよぉぉぉ!
「満さんっ!!」
「隙ありすぎぃ、海」
「だっ!だからって!別に!キ、キ、キスしなくたって!」
「あははぁ」
「笑いごとじゃありませんよ!!」
恥ずかしさで心臓止まりますよ!思わず顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込む。ほっぺも右手も顔だってすごく、すっごく熱い!
「満」「みーくん」
「うっ」
悶えていると、真っ黒オーラが漂ったのを感じた。そして、そのオーラを感じる方をちらりと見る。薫さんと輝くんですよね?そんな…笑顔なのに怖いってどういうことですか?満さんの近くに行く2人を窺っていると、満さんの右肩に薫さんの手が左肩には輝の手がのった。
「「調子のるなよ」」
両耳の近くに顔を寄せた2人が満さんになにかつぶやく。ちょっと聞こえなかったけど。縮こまって、はいぃ、と言った満さん。…ほう。私は悟った。ここの上下関係では、満さんって輝より下なんだな、と。もちろんトップは薫さんです。最初から気づいていますよ、ちゃんと。
……そんなことよりっ!なによりも!こんな恥ずかしいことはもうやめてほしい。私の安らかな精神衛生上の為にも。
「も、もうっ!しないで下さいねっ!!」
恥ずかしさで、皆の顔がみれなくて、俯いてチラ見になっちゃってはいたけど、大きな声で言いました。大事な事なので。
「…しないで、くださいね…。」
大事な事なので2回言いました。2回目は小さな声になってしまったけど、しょうがないです。皆が私を凝視しているのがいけない!キスされたのだって初めてなのに!1日で、よ、4人からもっ!なんたることなの!なんたることなのっ!
じんましん出そう。
しゃがんだままで訴える海は、自然と小悪魔が駆使する上目づかいになっていた。顔が赤くなり、恥ずかしさで少し涙目になっているのも拍車をかけ、可愛さ満天の表情である。
男子ども、撃沈。その場に本日何度目かも分からない、沈黙が流れる。
そして
「…ねぇ満に輝」
「…ん~?」
「…何、かーくん」
「あの顔みて我慢できる?」
「「無理」」
「…だよな」
3人は気持ちを共有し、色んな意味でのため息をこぼすのであった。
「はぁ(無自覚こわい)」
「はぁぁ(天然最強)」
「ふぅー(やめられない、とまらないー)」