イケメン、いやエンジェル!美形その3
双子にわけの分からない扱いをされ、すこしふて腐れている時、ふと疑問に思った。
「あの、薫さん」
「ん?」
「バイトの人って、あと何人いるんですか?」
そう。現在の時刻9時15分。ここ“Oasis”にいるのは、薫&満兄弟と私だけ。というか開店時間すらも知らない。どんなことをするのかも知らない。…私バイトとしてこの店でやっていけるのか。
「あぁ、みんなそろそろ来るから。そしたら紹介するね」
「!!分かりました。」
他にも人はいるみたいだね。どんな人がいるのか楽しみ、皆さんと仲良くしていけるといいな。
「それとここ、男の子しかバイト出来ないから。全員男の子だよ」
「へぇ、そうなんですか…」
……ん?男の子しかバイト出来ないから?男の子しか……。
「えぇーーーっ!!!」
「あれ?知らなかったんだ?」
ふふ、と優雅に笑う薫さん。優雅に笑ってないで下さいよ、私ここにいてもいいんですか。いいんですか!?
「…」
いや、それよりもお母さんこの事、知ってたでしょう。あのテンションといい、今日の服を渡してくれた事といい。…教えといてよ。というか、知ってろよ自分。
「ま、大丈夫だよ」
「…何がですか?」
「んー…色々かな」
「いろいろ?」
「ふふ」
「…」
大丈夫なんですか。大丈夫なんですか!?……色々と心配だよ。心配だけども、女子高の生徒会に王子様の称号をいただた身として、なんだけいけるような気もする私がいる。いや、女子としてどうなのか。もはや、これは私の一生の悩みになるのではないかと感じてきた。うぅ。
-カランコロン
「!」
悶々と考え、腕を組み顔をしかめていると、誰かが来た。私は入口に背を向けているので誰か分からないがどうやら、薫さんと満さんはその人物を知っているようだ。
「おはよう、アキラ」
扉を開けた人物はアキラというらしい。気になり、振り返ると
「おっはよーんっ!」
元気いっぱいの、かわえぇ男の子がいました。えぇ、男の子です。青年というより男の子。可愛さ、そしてなにより元気が溢れています。
「朝から元気ですねアキラ」
「おうっ!」
「ふふ、何よりです」
「おうっ………」
ばちっと目が合った。
「…」
「…」
そしてお互いに黙る。アキラと呼ばれた男の子は、ぱちぱちとくりっとした目を瞬かせる。それにしても可愛いおめめだことぉ。羨ましい。
数秒見つめ合いを続ける。
「…誰っ!?」
あ、反応してくれた。
「新しいバイトの子」
「おぉ!よろしくなぁ!」
それに薫さんが返し、私に向かって満面スマイルを炸裂させ、手を差し出すアキラさ、いや、アキラくん。
「はいっ」
差し出された右手を握り返すとぶんぶんと縦に大きく振られる。お、おう、おう。元気いっぱいだな。
「名前は?」
「う、海ですっ」
ちなみにまだぶんぶんされています。
「ウミ、ね。それ本名?」
「ほ、本名ですけど」
腕がもげそう。というか本名以外になにかあるの?
「本名なのかぁ」
「?」
「ふふ、海、ここで働く時はフロアネームを使うんですよ」
「フロアネームですか?」
「そっ、俺はアキラ!本名は陽川 輝-ヒカワ アキラ-!!輝くって字をかいて“輝”な!」
やっと手を離される。左腕が少し痛いが可愛さに免じて許す。どんっと胸の前に拳をぶつけながらアキラくんは自己紹介とフロアネームを教えてくれた。なるほどフロアネームか。かっこいいね。そして、アキラくん。なんてピッタリな名前なの。キラキラしているし元気だしね。名は体を表す、まさにそれ。
「わたっグフッ!」
私も自己紹介をしようと口を開けると薫さんに、後ろから口を手で塞がれた。急なことにびっくりするが、次の薫さんの言葉にこの行動にある意味感謝した。薫さんは耳元で、小さな声で言った。
「海“ちゃん”?」
身体が反応してしまう。ビクっとした後に、薫さんの距離にも驚きつつ、「ここでは男の子なんだよ?言葉遣いにも気をつけてね?」という言葉にさらに驚いた。
あ…そうだった!ここ男の人しか働けないんだった!私が女ってことは秘密にした方がいいに決まってる。たった数分でそのことを忘れていた自分に驚くと共に、薫さんに感謝した。心の中で。ありがとうございます。
「モフォホモゴ(気をつけます)」
「カオル?何やってんだぁ?」
口を後ろから塞がれ、耳元で話す美形に恥ずかしさを感じながらも、真剣に頷き言葉を返す。その様子を見ていたアキラくんから声がかかる。そりゃそうだ、いきなりこんなことを始められたら気になりますよね。でも言えません。秘密です。
「なんでもないよ」
「?ふぅーん。俺、着替えてくるねー」
薫さんの答えにアキラくんは納得したのか疑問が残るが、スルーしてくれるみたい。あまり深く聞かれても困るので、よかった。そして、アキラくんは更衣室に向かって行った。元気いっぱいのアキラくんはどんな制服になって登場するのか楽しみである。
アキラくんが更衣室に入るのを薫さんと見届けると薫さんは、そっと口から手をはなしてくれた。そして、私の顔を左後ろから覗いてくる薫さん。…なんてセクシーなお顔なのか。美形ということを自覚してほしい。なんとも心臓に悪い角度である。
「気をつけてね」
「ぷはっ、はいっ!!」
斜め下から見上げてくる薫さんの言葉に素直に返答する。秘密は守らなと!そして、色気にやられて心臓が落ち着かないから、2秒くらい目を合わせ、すぐにそらしといた。恥ずかしやぁ、恥ずかしやぁ。
「ふふ、可愛いね。」
「へ!?」
「あぁ、髪乱れちゃったね、ごめんごめん。」
さらりと、爽快な笑顔と共に放つ褒め言葉に、私の心臓はもう…。というか、乱れた髪を優しく直してくれている薫さんは紳士の鏡だなと感じつつ、いや、乱したのあなた、という捻くれた感情が絡み合った私の心。そうつまり、美形な紳士は心臓に悪い、これ結論。え、テンパってて何言ってるか自分にもわかっていませんよ、もちろん。
薫さんに恥ずかしながらも髪を整えてもらっていると、うなじを誰かに触られる感覚があり、ぱっとうなじを右手で押さえつつ、後ろを振り返る。
「なーに、いちゃいちゃしてるのー?」
あなたでしたか、満さん。
「い、いちゃいちゃなんて!し、してません!」
「ふぅーーーーん」
「と、というか、うなじ、触らないで下さいよ!くすぐったいです!」
「…ふぅーん」
そりゃあ全力で訴えましたよ。でもどこ吹く風で、満さんは私の意見なんか聞いちゃいません。
「満、いちゃいちゃというより、俺が愛でていただけだよ。」
そこに薫さんは爆弾を落としました。
「め、愛でる!?」
う、うわぁぁ!もうやだ!!恥ずかしい!やだよぉ、美形こわいよぉぉぉ。
「…愛でる、ね」
「ふふ。」
双子はなにやら見つめ合い、テレパシーで会話をしているに違いない。薫さんは優雅に微笑みつつもなにやら黒いオーラを醸し出しています。いや、見えるわけではなく、そうに感じているだけです。一方、満さんも目は笑っているものの、なにやらよからぬ気配を感じます。どうした双子。私にもわかるようにしゃべってくれないか。
「じゃあ、俺も愛でる~。」
そこに突如現れる無邪気な声。右を向くと輝くんが立っていた。
「き、着替えるの早い!」
少し驚きつつも、その殺伐とした雰囲気に終止符を、と感じていた私には天の救いである。まさしくエンジェル。エンジェル輝。
「まぁね。それで愛でるってなにを?」
にこっと笑った輝くんに私の心は癒された。でもその質問はだめよ。心をえぐる質問よ、主に私の。
「な、なんだろうぅ」
首を傾げつつ、とりあえずごまかす。
双子を見ると、先ほどの雰囲気とは打って変わって普通にこちらを見ていた。
「何を愛でるの、かーくん、みーくん。」
時に無邪気さは凶器になる。ふふふ。やめてぇええ。もういいよう聞かないでよう、恥ずかしさが増していくようぅ。しかも、かーくん、みーくんってのは。ちらりと左側を見る。
「か、かーくん?」
「ふふ。」
「み、みーくん?」
「そぉ、僕みーくん」
……薫さん、満さん。いや、今はそれは置いとこう。今は2人にに緘口令!。
「薫さん、満さん、えっと、犬!犬の話でしたよね!愛でるって!ね!」
精一杯頑張りました。目で訴えます。これでいいだろう。すると2人は双子らしく動きを揃え、両手を軽く上げ、降参ポーズをして微笑んでいた。…これは、なんとかなった、のか。そう思おう。…そしてきっと、輝くんも納得してくれるはず。
「輝く…輝さん犬の話をしてたんですよ!」
ついでに輝くんにも。さすがにくん呼びは怒られるかもと思い。踏みとどまりました。
「そっか!犬ね!でもさ海~、輝って呼んでくれよな。さん付けしなくていいからなっ」
「はい!え?は、はいっ。」
可愛いなぁエンジェル輝。輝呼びが許可されたけど心の中では輝くんかエンジェルって呼ぼうかな…。
「あと、ため口でいいぞっ!」
「え?は、はい!」
ため口?と不思議に思っていると満さんから衝撃の事実が。
「海、輝は高校2年生。海のせ・ん・ぱ・い。だよー。」
「え!?」
1つ上なの!?え、年下じゃないの?
「あはっ、年下だと思ったのか海~」
この可愛さで年上だと……。髪の毛ふさふさしてて犬みたいなエンジェルが年上。その可愛さ少し私にくれませんか。
「す、すみません!」
「平気だよ~、よく間違われるし。気にすんなって、な!」
エンジェルは心が広いな。許しの言葉と共に、頭をなでなでしてくれた輝、くん。可愛いな…。髪の毛をくしゃくしゃされていると、私も10センチほど高いところにある輝、くん、くん呼びでいきましょう。輝くんのふわっふわですこしツンツンしてそうな髪の毛を触りたくなってきました。
「っ…」
「「…海」」
「はい、なんですか?」
「…」
「「輝の頭撫でたい気持ち分かるけど、もう止めてあげな?」」
「え?」
私は自分の手先を見た。
「あ」
「…」
「ごっ、ごめんなさい」
そう輝の頭を撫でていた。無意識だ。自分が怖い。エンジェルの髪の毛に触りたいばかりに、無意識に体が動いていたみたいだ。
こんなのもう変態じゃねーか!何してんの私!!!今すぐ止めなさいその、右手を!!!
ぱっと輝の頭から手を離す海。と、すぐに謝りだした。そして、テンパっていると約束なんてのはどこかに吹っ飛んでいってしまうものでありまして。
「ホントにごめんなさいっ!私ったら無意識にぃー!」
「「あ」」
「え?」
「…わ、たし…私?…」
「…あ」
今“私ったら”って言っちゃったよね。言ったよね!気づいちゃったかな!女って!気づいちゃったかな!?
少しの沈黙の後、輝くんが可愛い笑顔で黒いオーラを醸し出した。
「……かーくん?みーくん?どーゆうこと、かな?」
「…あはは」「あははぁ」
目をそらし、同じ反応をする双子。怪しい。怪しすぎるよ双子!もっと上手く返答してよう!
「…海って女の子なの?」
「あはは」「…あははぁ」
あ、確信をついた…ばれたな…。秘密が…。うぅ、すみません。
「…」
「「…」」
再び沈黙に包まれるフロア。双子を見つめる輝くん。あぁ、なんだか年下には見えない貫禄が見えはじめたかもしれない…。気のせいかな……。
「…答えろ。」
ビクッ
「「そうです。」」
輝くん、いや輝さん?今のめちゃくちゃ低い声は輝さんなのかい?…怖かったんだけど!可愛さゼロだったんだけど!どこからそんな低い声出したの!ねぇエンジェル!しかも女ってばれたよね、ばらしたよね!今!
「…ふぅん、まっ!よろしくなぁ、海、ちゃん?」
「…よ、よろしくお願いします。」
エンジェル輝が恋しく思えたのは気のせいでしょうかお母さん。