制服と羞恥心
そして今日から“Oasis”でのバイトが始まります。
夏休み中だから暇がなくなって良かった、そして遊ぶために小遣い稼ぎ頑張るぞ。ポジティブにいきます。「朝の9時には来ていてね」と薫さんに言われてるので、ただ今、8時30分、今から“Oasis”へと向かいます。道は昨日覚えましたよ。案外近かったのがショック。あんな所で迷ってたなんて…。うぅ…。
今日からバイトということはお母さんしか知らない。お父さんに言ったら、ね、面倒だとお思うからさ。悟った。
そして、朝起きたらお母さんに「これ着て行きな 」と渡された、男っぽい服。168㎝と女の子にしては高い身長、そして、短い髪の毛にはこの服装はピッタリで。鏡にうつる自分の姿を見て驚いた。思わず敬礼していた。何故かは分からない。
「さぁて行こう」
いってらっしゃーい、むふふ。という妙にテンションの高いお母さんにお見送りをされて家を出発した。
歩いて約10分。レンガ作りの家が見えてきた。
扉の前に行き深呼吸。そして -カランコロン 扉を開ける。 あぁ、良い音色。うっとり。
「あ、海。おはよう」
すぐ目に入ったのは薫さんの笑顔。今日もとても輝いてますね。
「おはようございます」
そして、その服とてもに合っています。
「こっち来て」
キラキラ輝く薫さんに感動していると、ちょいちょいと手招きをされた。なので薫さんの方へ。
「はい制服」
そして渡された“制服”。
「海専用の制服だからね」
「…」
満面の笑み。あーキラキラしてますね。…ん?え?…見るからに男物の制服。……え、もしかして私、男だと思われてるの!?た、確かに見た目は男。昨日だって男っぽい服装だったし。
「あ、あの薫さん」
「ふふ」
笑みをこぼされ気づくと近くに感じる薫さんの香り。いい匂い…って、え!?なんでこんな近くに!?と心の中であたふたしていると、耳元で囁かれた。
「分かってる、女の子でしょ、海。」
限界値がきた。
ぼんっ!
「ふふ。顔、真っ赤」
「か、薫さんが近くに来るからっ!!」
男の子に免疫がない私には、十分刺激が強かった。今は共学校だけど、男の子とはあまり話さないし。中学では女の子たちに、男の子みたいと言われ続けて告白された事もあるけど…また黒歴史を…あぁ。
「とにかく、着替えてね?そこの更衣室使っていいから」
「は、はい」
私は、薫さんの有無を言わせない笑顔に従った。黒い笑顔とか言わない、絶対。
更衣室を教えてもらいカチャリと扉を開くとロッカーがずらりと並んでいる。名前が張ってあるところ使って、と言われので自分の名前を探す。
あ、あった。UMI。おぉ、筆記体で書かれていて、かっこいいデザインだなぁ。よし、と、とりあえず着替えよう。
手に持っている黒を基調とした服に、目を落とす。胸が寂しくて良かった、なんて思ってしまうあたり、私女の子としてどうなの…。
黒いズボンに灰色のブラウス、そして何故かネクタイではなく…チェック柄のリボン。似合うのか?と思ったが、制服を着てから、扉の近くに置いてあった鏡に写った自分の姿は
「…、だれ」
完璧に男の子だった。
思考が停止しているとコンコンとノックが聞こえてきた。
「海、着替え終わった?」
あ、薫さん。
「はい、今行きます」
カチャリ
「…」
「…」
更衣室から出ると、すぐ目の前に薫さんのぽかーんとした顔がある。黙ったままの薫さん。だからあたしも、おもわず無言になってしまった。
「…」
「…」
……見られてるんだけど。なんか、ものすごく見られてるんだけど!!ねぇ、これどうするべき!?
「う、み」
「…はい、何でしょうか」
やっと話してくれた薫さん。それにしても見られっぱなしってのも、大分辛かったぜ…。
「可愛い」
ギュッ
いきなり体におそった締め付け感。あれ?なんかあたし、抱きしめられてない
?
「ちょっ!か、薫さんっ!?」
「予想以上だな」
「は、離れて下さいっ!」
ギュ ギュ
「えー、しかたないな~」
…言葉と行動が違うから!何強めてるんだよっ!何故だ!!!
「か、薫さんっ!」
「んー」
「っ…」
「……あれ?海?」
少し離れてから顔を覗き込む薫さん。
「…」
「ごめんって、つい。可愛いからさ」
そっと解かれた腕。少し息を止めていた。恥ずかしさで、顔が爆発しそうなほどに熱い。うぅ。
「っ、…恥ずかしかったぁ」
海は消え入りそうな小さな声で言ったが、至近距離にいた薫にはきちんと聞こえていた。
「…やばいな、こりゃ」