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始めよう!異世界青春譚  作者: 如月北斗
異世界召喚編
5/5

第5話 守りたい、この笑顔

登場人物が増えます。


不定期になってしまい、申し訳ありません。

気長に待っていただけたら嬉しいです。

あれから1週間がたった。

この間に俺が何をしていたかというと、この世界についての説明を受けていた。



いろいろ見聞きして分かったが、やはりここは『異世界』で間違いないらしい。



城の外に一歩出れば、そこは霧深く、木が生い茂る森の中。

魔王であるレイシアの城、エルガルド城はそんな場所にそびえ立っていた。

その面構えは、中世ヨーロッパの城を連想させる。



城の周りを少し散策しただけで、初めて見るような虫や植物などを目にした。

少なくともうちの近所にこんなところはない、というより日本では見ることが出来ない光景だ。



如何に霧深い森の中でも、これだけの城は目立つのではないかとゴルロフに聞いてみたが、城には目晦ましの結界?とやらが張ってあるので離れた位置からは辺り一帯に木が並んでいるようにしか見えず、視認されることはないらしい。



この世界での食事も体験した。

基本的には見たことがあるような料理が多かったが、中には初めて見る食材を使用したものなどもあった。

最初はおっかなびっくりで手を付けていたが、今ではすっかり慣れてしまったが。

主食はパンらしく、セットで必ずスープが付いてくる。

味付けに関しては些か濃い目な気がするが、それは人によりけりだろう。

取りあえず食事に困ることは無さそうだ。



そして、俺の部屋として城内の空いていた一室を与えてもらった。

部屋の外層は元々客室であったからか、広く豪華すぎるくらいだ。



そんなこんなで多少の文化の違いはあれど、特に不自由ない生活を送ることが出来ていた。



というのも、呼び出されたばかりの異世界人にいきなり何か出来る訳もない為、まずはこのアースティリアという世界について知るところから始めるよう言われていた。



食事や休憩以外の時間はこの世界についての講習を受ける毎日。



情勢を知ることはとても大切なことだ。

いや、情勢というより『情報』といったほうが合っているか。



百聞は一見にしかず、とは言うが、それは基本的な情報を持っているということが前提なわけで、生まれたばかりの赤ん坊に初めて見るものを理解しろといっても出来ないように、全く知識のない俺がこの世界を理解するには、まず基礎ベースでの情報が必要だ。



というわけで忘れないうちに、ここ数日の間に聞いた話を整理して、おさらいしてみよう。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





アースティリアに存在する種族は、人族・魔族が過半数を占めている。

両者は古くから争いを続けており、かつて大きな戦争が起きたこともあったそうだ。

それはもう酷いもので、まさに血で血を洗う程、苛烈なものであったらしい。

しかしそれでも決着がつくことはなく、どちらかが滅びる、といった結果には至っていない。



なぜだろうか。

それぞれの種族の長所、短所を見るとその理由が見えてくる。



個々の能力はたかが知れているが、それを補う知性、発想力、団結力を持ち、協力することで大きな力を発揮できる人族。

1人1人が強い力を持つが、それ故に我も強く、群れるのを好かない魔族。

そして人族・魔族の総人口は圧倒的に人族のほうが多い。

それは魔族が人族の何倍も長い寿命を持っているからだ。

寿命が長い種族は個体数が少ない、これはどんな世界でも共通項のようだ。



戦闘面でも、戦略面でも大きな影響を与える。

数で圧倒的に勝る人族は、それを武器に大群で押し寄せ、一方の魔族は少数精鋭で迎え撃とうとする。



1は10には勝てないが、それが束になれば当然10は不利になる。

どんなに強力な力を持っていたとしても、数の暴力というのは恐ろしい。

魔族だろうと力を使えば消耗し、徐々に弱まっていく。

疲弊させてしまえば、如何に魔族であろうとたやすく撃破されてしまう。



結果、魔族は数で勝る人族を滅ぼすまでに至らず、人族も恐ろしい力を持つ魔族を滅ぼすことは出来なかった。



そして2つの種族は、互いに睨みを聞かせた状態のまま、膠着状態を維持していた。



現代のアースティリア。



人族は世界の中心点に位置する地に巨大な帝国を築き、そこを拠点として、徐々に領土を拡大させている。


一方で魔族は追いやられた形になり、各地で少数勢力を組んでいた。


この差はなかなか大きいものだ。

拮抗していたはずの勢力範囲は、徐々に人族に押され、その均衡は破れつつあるというのだ。



その均衡を魔族有利にするために呼ばれたのが、俺ということだ。

最終的にはこの世界全てを掌握し、「世界征服」を完遂させるのがレイシアたちの目標らしい。



果たして、ただの会社員であった俺に世界を変える力があるのだろうか。



俺に出来ることは何でもするつもりだ。

例え同じ人間を殺すようなことになっても。



少しでもレイシアの役に立ちたい。

というより、彼女から頼られるような存在になりたい。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「もうこの世界についての基本は覚えたでしょうから、約束通り今日から貴方には魔法の訓練を受けてもらうから」



長机に並べられたスクランブルエッグやハム、パンなどたくさんの料理。

俺がこの世界に来てから8日目の朝食中、レイシアは俺にそう言った。

現在、大広間には俺・レイシア・ゴルロフ・ルビウス、そして他の将軍たちが着席している。



魔王軍の朝食は魔王・将軍たち、一部の選ばれたものたちが集うこの大広間と、兵士クラスのものたち専用の大食堂の2か所で行われている。



とうとうきた。

『魔法』、それはこの世界が異世界であることの何よりの証拠だ。



この世界来て8日目だが、俺は既に魔法をこの目で何度か見ている。



ゴルロフが使った風の魔法。

レイシアが使ったベクトル操作の魔法。



料理をする際の火起こしや、食器を洗浄する際の水まで魔法が使われる。



「なあ、本当に俺に魔法なんて使えるのかな?」



そういえば魔王城に来てからの1週間で、俺はレイシアとも卒なく話せるようになっていた。

最初こそ敬語を使わないことに慣れなかったが、徐々に慣れていった。



「ふん、どうかな。そもそも貴様のいた世界では、魔法そのものが存在していなかったのだろう?そんなやつに魔法を使うことが出来るかな」



そんな俺の話に食いついてきたのはルビウスだった。

彼はあの出来事の後、予告通りレイシアからこっぴどいお叱りを受けたらしい。

どんなことをされたのかは知らないが、再び顔を合わせた時には、顔面蒼白でまるで幽霊のようであった。

それから少しは俺に対する態度が変わった、と思いきや、対して変化は起きていない様子だ。



「そうだね。召喚者と言っても所詮は人間。ボクら魔族の能力に勝ることはないと思うけどねー」



ルビウスの考えに賛同するように話を切り出したのは、魔王軍第4将軍であるミコッタだ。

ミコッタは頭に2本の角を生やした、とても幼い外見をした悪魔であるが、実年齢は俺とルビウスより遥かに上らしい。

そして彼もまた、俺アンチの存在であった。



ミコッタの場合、レイシアと俺が仲良くしているというよりも俺が人間であったことに不満を持っているみたいで、同じアンチ派であるルビウスとは何かと話しを合わせてくる傾向にあった。



「・・・・やめんか、2人とも。蘇芳殿に失礼であろう。それに見ろ、魔王様のご機嫌もどんどん悪くなっていくぞ?」



ルビウス・ミコッタに耳打ちしたゴルロフは、目線を魔王レイシアの方へ向ける。

彼女はただにこやかに2人を見つめていた。



「2人とも。またお仕置きされたい訳?」



ゴゴゴ・・・・と効果音が付きそうなその圧力に2人は冷や汗をかくと、逃げるように目の前の料理を平らげるほうに専念し始めた。



「・・・・とそんなことより、蘇芳くんにも魔法は使えるはずよ。でもその為にはちょっとした努力も必要かもしれないけどね」


「任せてくれ、どんなことでもするつもりだ。後、その『くん』付けはいらないって毎回言ってるじゃないか。敬語とかいらないって言ったのレイシアだろ?」



そう、レイシアは俺を呼ぶとき、『くん』を付けるようになっていた。

最初は呼び捨てで呼んでくれていた分、少し名残惜しい。



「い、いいじゃないの別に! 私が呼びやすいからそれでいいの!」



顔を赤らめて、実に可愛らしい。

言うと怒られるので言わないけどな。



「ゴホンッ、それで魔王様、蘇芳殿の教育係は誰になさいますか? もちろん、ワシが教鞭を振るってもいいのですが」



見かねたゴルロフはしっかりと助け舟を出してくれる。

魔王軍参謀の名は伊達ではない、非常に頼りになる。



「そんなの、私がやるに決まってるじゃない」





「「「えっ!?」」」






大広間に集まっていた将軍たちはその言葉を聞き、皆驚きの声を上げた。



「ま、魔王様が直々に!? そんな話、聞いたことがありません!」


「そ、そうだよ魔王様。そんな雑務みたいなこと、ボクらの誰かがやるからさ!」



逃げるように朝飯をつついていたルビウスとミコッタの両名も、驚きを隠せないまますぐに反論の声を上げる。

手にしていた白パンがポロリと転がり落ちる。



「もう! いちいちうるさいわね。何言ったって譲らないわ。最初から決めていたことなんだから」



そういうと腕を組み、プイッと顔を背けるレイシア。

俺はそんなやり取りも微笑ましい表情で眺めていた。



「まあまあ、いいじゃないのー」



ポヨンッ。

そんな擬音が聞こえてきそうな程、豊満な胸を揺らして立ち上がったのは、魔王軍第3将軍であるシャルロットだ。

色黒な肌、肉付きのよい肢体、そして一番目につく自己主張の激しい凶悪な谷間。

見ただけで男を骨抜きにしてしまうであろう彼女が魔王軍第3将軍である。



「魔王様がお決めになったことなんですもの。なあに、いつものことじゃない。アタシらはその考えに従うだけでしょ? それに・・・・」



シャルロットは俺の方に視線を向ける。



「蘇芳くんだって、その方がいいでしょう?」


「・・・・ええ、まあ」



こちらを見てウフンとウインクされる。

さすが魔王軍の姉御的存在。

よく分かっていらっしゃることで。



「さすがシャル、アホ2人と違って話が分かるわね!」



アホと言われ、しょぼくれた表情を浮かべるルビウスとミコッタの両名。

少しだけ同情してしまう、まあ自業自得なんだけどな。



「というわけだから蘇芳くん。さっそく今日から始めるからそのつもりでね」



屈託のない笑顔を向けるレイシアに、俺の心はまさに絶頂を迎えていた。

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