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始めよう!異世界青春譚  作者: 如月北斗
異世界召喚編
1/5

第1話 プロローグ

始まります。

暫らくは変化のない話が続くかもしれません。

――あるマンションの一室



「もう貴方とはやっていけないわ」


「ああそうかい。勝手にすればいいだろ」


「ッ!離婚届けは後で郵送しますからッ!さようなら!」


「へいへい、さいなら」



バタン、と鈍い音を立てて金属製の扉が閉まった。

妻が荷物をまとめて出て行ったのだ。



俺の名は蘇芳良人(すおうよしと)

今年で27回目の誕生日を迎えることになる、何の変哲もないただの会社員だ。



そんな俺の結婚生活は今日で終わりを告げた。



不思議と悲しいという感情が湧いてこない。

所詮は夫婦など、血の繋がっていない他人だからだろうか。

いや違う、単に俺がアイツを愛していなかったからだ。



思えばこれまで生きてきた27年の間で、本気で誰かを好きになったことはない。



学生時代も自分から告白をしたことはなく、告白され付き合ったことはあるがどれも長続きすることはなかった。



そんなことから、周りの友人たちからは「ホモなんじゃないのか?」と疑いを掛けられたこともある。

しかし断じてそんなことはない。



アイツとの出会いも、親に勧められた見合いの席だった。



お互い25歳を超えており、よく分からない義務感に苛まれていたのだろう。

早く結婚させたい親達の後押しもあってか、トントン拍子で話は進み、いつの間にか婚姻届けを出すまでに至っていた。



結婚式はお互いの親族と親しい友人たちだけで執り行われ、表面上は幸せに見えていたであろう俺達夫婦だが、内心では納得していなかった。



別に好きでもないもの同士が、見栄の為に結婚した結果はこの通り。

上っ面でしかコミュニケーションを取らない夫婦が長続きするはずもない。



そして俺自身に魅力がある訳でもない。

女を魅了する顔をしているわけでもなく、営業職の稼ぎも決していいとは言えない。

そんな俺に惚れてくれというのも難しい注文だろう。



まあ俺にも問題はあったがアイツにも問題はある。



だから今日別れ話を切り出されても俺は全く反論しなかった。



唯一の救いは、俺達に子供がいなかったことだろう。

いればこんな簡単に離婚することなんて出来ない。

どっちが親権を取るとか、教育費の問題だったりと、かなりややこしい話になっていたことだろう。

そもそもアイツは俺の子供を産むつもりなんてなかっただろうが。



相変わらず冷めてるな、と自虐的な笑みを浮かべた。



ふと居住者が一人となった部屋を見渡す。

アイツが自分の荷物を持っていったからか、8畳ほどあるリビングはいつもより広く、まるで別の空間のように感じられる。



なに、ただ2年前の状態に戻っただけだ。

俺は俺、いつも通りだ。



通勤ラッシュに揉まれて会社へ行き、職場では敬ってもいない上司に媚びへつらい、嫌味を言ってくる顧客の顔色を伺いながら自社製品を売り込む。

残業せずに帰れることなど滅多になく、基本的に帰りはいつも22時前。

そして疲れて帰ってくると、買ってきた飯を食い、ちょっとした晩酌をし就寝。

基本的にそれを日々繰り返すだけだ。



——何てつまらない人生なんだろう。



客観的に自身の現在の境遇を思い描き、思わず苦笑してしまう。

死ぬまでこんな平凡な生活が続くと考えただけで反吐が出る。



そもそも俺が生きている意味ってなんだ?

自分が生きている理由が見出せない。



かといって、自分の人生にケリをつける度胸も、今の生活を全て捨てて生きていく覚悟もこれっぽっちもない。

結局の所、これからもこのくだらない人生を生きていくという選択肢しか存在しないんだ。



大抵の日本人の生活は俺に近いものだと思う。

走っているレールを脱線し、別のラインに収まるというのはとても難しいことだ。

何かきっかけや転機を迎えなければ、出来ることじゃない。

悪いのは個々ではなく、こういう流れを生み出した世の中なんじゃないか、とも考えたこともある。



だけど本当は理解している。

本当の諸悪の根源は、日常から脱出することのできない、いや、しようともしない自分自身なのだと。

俺はそんな現実から目を背けて、理解しようとしていないだけだ。



項垂(うなだ)れつつ壁に掛けられた時計に目をやると、既に12時を超え日付が変わっていた。



どうやら妻とのやり取りにだいぶ時間を取られていたらしい。



「もうこんな時間か」



——寝ないと。明日も早いんだ。



コップに残っていた水を飲み干すと、寝室へと向かう。



明日からの日常を前に憂鬱な気分になりながらも、冷え切ったベッドに潜り込んだ。



しかし、そんな思いはただの杞憂であったことなど、この時の俺は知る由もなく、そのまま眠りに落ちていった。



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