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52-#N/A=#N/A 強制終了

「レンフィア! あぁ、…どうしてこんなことに!」


目の前で銀色王子様(レオン先輩)が、婚約者の少女を抱きしめて泣いておられます。

少女は小さく呻いて、左胸を抑えていました。きゅっと、ではなくギュッとですわ。着ておられる服の、しわの寄り方を見る限り、かなりの力であることは疑いようがありません。


「れ。レオン様…私、どうしてしまったのでしょうか。少し前から胸が痛くて。苦しくて、息ができないの。…こんなんじゃ、レオン様のお嫁さんになんてなれません」

「そんなことを言うな。私は…私の妻はキミしかいない。君を愛しているんだ、レンフィア!」


王子様のしっかりと筋肉のついた手が、少女のふっくらとした柔らかな手に添えられます。…そこは胸ですわよ、と言うのは野暮なのでしょうね。


なんといっても、銀色王子様(レオン先輩)はヒロインの王子様になることが決まっている方です。つまり、おじゃまな婚約者(レンフィア嬢)ここ(学園)でご退場…という予定のはずですから。

それでも、お2人はここまでラブラブだったなんて、想像しておりませんでした。だって、幼いころに望まれて婚約者になったローザ様は、成長したいま婚約者の冷たい態度に悩んでおいでですもの。"婚約者"なんて良いものじゃないよ思っていたのですが、甘尼のラブシーンを見せつけられると、婚約も良いものかと錯覚してしまいそうです。

ですが、ローザ様への仕打ちは忘れませんことよ。


さて、件のレンフィア嬢なのですが。まるまるとして、とってもお可愛らしい方です。お2人が並ぶと…目分量ですが、王子様3人分はありそうです。胸が痛い、ってそのせいではありませんの?


「…原因不明の奇病…」

「かわいそうだよね。でも、どうしようもないよ」

「…そうでしょうか? 原因不明って、本気でおっしゃってます?」


体重を管理するという気はありませんの? そもそも、どうしてそんなに大きくていらっしゃるのでしょうか?


「あ、あの!」


勇気を出して声をかけたのは、ヒロインの1人、でしたわ。医療学を一生懸命学んでいらっしゃる、シルゥさんですわね。


「あの、その。レンフィア様、この数カ月でどのくらい体重増えましたか? 日ごろどれだけ運動をされていますか? 味の濃いものとか、甘いものとか、お好きですか?」

「は?」

「……どうしてキミに話す必要がある? 見る限り…まだ1年のようだが」

「わ、わたしは。まだ1年ですけど、でも。もう医療クラスへの進学が決まっていますし、将来の師弟の約束もしてもらいました。これは医療行為です」


なんということでしょう。シルゥさんはいつの間にか進む道を決めておいででした。負けてしまいましたわ。

しかし、わたくしには職業=悪役令嬢という縛りがございます。自由に将来を決めれるのでしょうか?


「そうか、すまない。…だがここではレンフィアが気の毒だ」

「そ、そんなことありませんわ。恥ずかしいことなんてありません!」

「それは…」

「体重ですが、1カ月で15キロ増えました。運動なんて大っ嫌いですもの。料理の味付けは…薄味だと思いますわ」

「…薄味…?」

「そうですか…ふむ」


15キロの増加ですか。わたくしの体重がこれくらいで…プラス15…うわぁ、としか言いようがありません。


「うそつけー」


外野からの物言いです。さて、何が問題だったのでしょうか?


「自分専用の調味料を持ち歩いているくせに、な~にが薄味が好き、だ。よく言うよなぁ」

「そうそう。私のご飯には味が付いていないわぁ、と言いながら、大根蜜やら塩やら、がっぽり入れてたのは…どこのお嬢さんかな~」

「今だって、大根蜜のジュース持ち歩いてんだろう?」

「まぁ。心外ですわ。だって、私の食事には味がしないんですもの。軽く味をつけることは必要でしょう? それを、人を病気みたいに言わないでくださいませ」


レンフィア嬢…ダウト。なんか不健康な生活を送っていらっしゃるようですわね。これにはシルゥさんも苦笑い……否、怒っています。怒りのオーラがこちらまでビシバシと飛んできています。


「あなたは! なんて不健康な生活をしているんですか! そんなので、レオン様を悲しませようとしていたんですか!? バカですか、バカなんですね。間違いなくバカです!」


レンフィア嬢に言いたいことをぶつけたシルゥさんは、レンフィア嬢を抱きしめたままのレオン先輩も睨みつけました。


「あなたもです、何を考えているんですか!? 好きな人が不健康な生活をしていたら、止めるべきでしょう。なんで止めないんですか? 早死にしてほしいんですか? 遺産目当てですか? …違うなら、今後はレオン様が婚約者の健康管理をしてください」

「あ、ああ。すまない?」

「いいえ、職務です。それに、…(レオン様には幸せになっていただきたいですし)」


その小さな声は、レオン先輩に届いたでしょうか?

「愛だねぇ」

「…無私の愛…」

わたくしたちには届きましたけど。




レンフィア嬢には、シルゥさん監修の『1か月で痩せる! 簡単ダイエットコース』が組まれたようです。わたくしたち1年生は協力は惜しみません。

お願いされた薬湯の準備に、薬草園をいったりきたりしています。


「脂肪の分解と、基礎代謝の向上…だって」

「あと、味覚の回復用の亜鉛ですわ」

「マッオをメインで行くっていってたでしょう? それを多めに集めてね。それから、マッサージも並行するって」

「ならゼラニュンムとチョッパリーね。念のためパチョリーも持って行きましょう」


マッオは新陳代謝をあげ体脂肪を減らやすくしてくれる、今回はメインの薬草になります。これにいろいろサポートの薬草を加えて、ゆっくり抽出すれば薬湯の完成です。味? これは薬ですよ。苦いものと決まっています。

マッサージオイルのゼラニュンムは皮膚から吸収されて、血行を良くしてくれます。

チョッパリーはマッオと同じく、基礎代謝のアップが目的です。

パチョリーは、その匂いで食欲を減らしてくれる作用があります。


あとは、亜鉛…です。どうしましょうか。


「亜鉛…貝が理想的なんだけど、どうする?」

「二枚貝。あんまりシッジーミは市場に出回らないし。オイッスターはもっと出ないもんね。ってゆーか。気にしたことなかったから、最近どうなのかわかんないし?」

「困りました。とりあえず手持ちの薬草でどうにか代用するしかないのでは」

「ん。なら、キャロ葉?」

「パシェリ葉、ディシュ葉。あとは」

「こんなこともあろうかと。お任せ下さいな皆さん。わたくしシッジーミを育てていましてよ!」


わたくしの言葉に、みな驚きを隠せないようです。

ふふふ、そうでしょうとも。まさか、薬草栽培の授業で誰が他のモノを育てていると思うのでしょうか。

発想の転換。わたくし大勝利です。


「な。本当ですか、メーちゃん、いえ、メー様!」

「おさすがです!」

「うふふふ。小川が通っているでしょう? 薬草への給水用の小川よ。わたくしはその小川を囲って、市場で売られているシッジーミを放していたのですわ。いくらかは生き残っているはずですから、探してみましょう」


わたくしの指示で数人が小川に向かいます。残りのメンバーは薬草採取の続きですわ。

さて、我がシッジーミちゃんは生き残っているでしょうか。

…います。黒々とした立派なボディをしています。実はこの小川にはエサのプランクトンが多いのです。だって、学園の薬草園に並列して存在するのですよ。エサになる土壌の栄養分だけでなく、厨房の食べ残しから出るこまごまとしたゴミはプランクトンの御馳走なのです。

そしてぷくぷく太った栄養満点のプランクトンを、シッジーミが美味しくいただき、まるまるとしたシッジーミをわたくしたちがいただく、と。


「うわぁ。すっごいサイズですね。でも良いんですか? せっかくのシッジーミなのに…」

「そうですよ。これを報告したら、良い点数とれるんじゃないでしょうか」

「あら、気にしてくれているのね。ありがとう。…でもね、アンナ先生もレオン先輩もおしゃっていたでしょう。『協力し合うように』と。わたくしが出来る協力は、シッジーミを差し上げることくらいですもの。ぜひお役にたてていただきたいのよ」

「メー様…マジ女神!」

「わかりました。メレディス様のために最高のシッジーミを採取します!」


実は、レンフィア嬢のことが気になる理由は他にもあるのです。

先だってのレイアード副長補佐の結婚パーティーの後1ヶ月ほどで、大根から作られたという砂糖…大根蜜は瞬く間に市場に広がりました。

同時に海から良質の塩がとれる技術が確立されて、高品質でそこそこのお値段の塩も市場に並ぶようになったのです。

お値段が下がってくれば、いままで手が出なかった階層の皆さんも利用することができるようになります。

このような状況となり1つの大きな問題がでてきました。それは、レンフィア嬢のように過剰摂取する方が出てきた、ということなのです。おそらくですが、シルゥさんがレンフィア嬢の問題を即座に見抜いたのも、同じ状態の病人を診ていたからなのでしょう。

塩分と糖分の摂りすぎと運動不足による肥満+α、これがわたくしたちが向かってゆく大きな壁なのです。実はクラスの中にも数名、肥満予備軍がいたりするので油断禁物です。わたくしもこっそり薬湯をたしなんでおります。


「薄味の、野菜を中心にしたバランスのいいお食事。効き目抜群の薬湯。効果的な運動とマッサージのケア。これだけ、みんなの協力があるんですし、レンフィア先輩はもう大丈夫ですよね!」

「そうね」

「だよね~。レオン先輩のためにも、レンフィア先輩は元気になってもらわないとダメだよね」

「ふふ。わたくしたちもしっかりお手伝いしましょうね」

「はい!」


こうして、わたくしたち1年のバックアップのもと、レンフィア嬢のダイエットは成功しました。以前のような子豚ちゃんではく、すらりとした細身の美人さんになられました。この努力の裏に、わたくし達とレオン先輩の叱咤激励たまに腕力があったことは言うまでもありません。


わたくしたちは皆、やりとげた達成感につつまれていました。

ハッピーエンド万歳、死亡フラグはノーサンキューですわ。




レンフィア嬢は、学園在学中に原因不明の病に倒れ、はかなくなってしまう悲劇の少女でした。婚約者の死を悲しんだレオン先輩は、道を踏み外してしまうこととなります。昼間は部屋にひきこもって授業に参加せず、夜になると悪い友人達と飲みに出かけ、朝まで帰ってこないという。

そんな中、ふとしたことでヒロインに出会い、なにかと自分にかまってくるヒロインを邪険にしながらも気にしていました。親身に自分の事を思ってくれるヒロインに絆されて、彼女を愛するようになり、溺愛ルートとなります。何があってもヒロインを庇い、実家の力までもフルに使ってヒロインの邪魔をするものを排除していきました。

イベントのためにヒロインが遠方に放逐された時は、ヒロインに会える職場に(無理やり)配置換えをして、ヒロインを助け続けるほどのストーカーです。

しかもその後、ちゃっかりエリートコースに戻っているところが納得いきませんでしたが。


とにかく、それもこれも、レンフィア嬢がなくなってしまったのが始まりでした。

こうしてレンフィア嬢が健康的な細身美少女に戻った今、ヒーロー誕生はどうなるのでしょうか?

ああ、神様。どうか全てがうまくいきますように。


――失敗だね。どうしようもないにきまってるじゃないか。

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