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73-21=52 銀色の王子様の登場

わたくしの目の前で、幸福なカップルが誕生してから2カ月がたちました。

あれから、どんどんどんどんどんどん・・・・・・カップルは増えていき、今ではクラスの半分近くが充実した青春を送っているのではないでしょうか。

わたくしには、オトコの影なんて、まったくぜんぜんちっともありませんけれど、寂しくなんてありませんわ。ええ、ちっとも寂しくなんてございませんとも。


「メレディス様、どうされたんです? 気持ち悪いです?」

「・・・体調が悪いなら、木陰で休むといい…」

「ああ、手が止まっていましたわね。ちょっと考え事をしていただけですわ、心配なさらないで」


本日ご一緒するのはこの方々です。

サリーさんと同じように"様"と付けてくるスーさんと、寡黙なレティさん、そしてコンスさんです。

レティさんは、なんとわたくしの友人候補2なのですわ。つまり……恋人がいる"ヒロイン脱落者"なのですわ。

今は授業の一環として、一緒に薬草畑の雑草取りをしております。4人1グループで動くことになっておりますので、ヴィアさんと、セシリアさん、サリーさんは少し離れたところで別々に作業中です。



そういえば、いまさらなのですが先生方の紹介をいたしましょう。


この学園に入園すると、1年間みっちり基礎分野の勉強が行われます。

基礎、と申しましても、学園に入る時点で読み書き計算・一般常識等は一定レベル必要になりますので、あとはそれを意識せずに行えるようにするだけです。この基礎の1年間で自分の学びへの相性と将来進む進路について決定します。

学年主任のミランダ先生と一般常識を専門にするカラキス先生。この先生お2人だけは、ずっと1学年だけを教えていらっしゃる、1学年専門の先生ですわ。


そして、2年目になりましたらクラスが分かれます。

専門系統は体育会系統・芸術文系統・天文数学系統・化学薬理系統の4系統に分かれており、それぞれ数名の先生がいらっしゃいます。

たとえば、オーランド先輩は体育会系統・騎士クラスになります。体を動かすことがメインなのが体育会系統の特徴ですわね。騎士クラスのほかに、傭兵クラス、レンジャークラス等に分かれています。

3年間の在学中に才能を認められなくては、諸先生方と師弟にはなれず期限通りの3年で卒業となります。もしも師弟関係を結べたならば、期限を超えて在籍することも可能だということです。

そのまま先生方の弟子となり研究を行うのか、師の目となり耳となり大勢との仲介役となるのか。師弟の形は人それぞれと言われております。


その中の化学薬理系統薬草学クラスのアンナ先生の実地授業の一環として、薬草の栽培をおこなうこととなりました。わたくしたちは4人1グループとなり、それぞれが薬草園の畝1列を任されることとなったのです。そして今現在、薬草を植えるための下準備として畝の雑草取り中なのです。


「それにしても、何の薬草を栽培しましょうか。わたくし、ぜひ、やってみたいことがあるのですけれど」

「わたしも、ある…」


あら、レティさんにもやりたいことがあるようです。


「特になんでもいいけど」

「あたしも、やりたいことはないです」


スーさんとコンスさんにはやりたいことはない、と。では、わたくしとレティさんで計画を立てるといたしましょうか。


「・・・わたしは、みんなで違うものを栽培したい。その方が良い・・・」

「ええっと。それは、わたくしたち4人が、それぞれ違うものを栽培することにしましょう、ということでよろしいの?」

「違う。みんな」


皆・・・ということは、40人全員が違うものを育てるということでしょうか。

ふむ。ちょっと面倒かもしれませんが、わたくし的には都合のよい提案です。


「なるほど。それは良い案ですわね。みなさま、いかがかしら?」

「みんなでばらばらの薬草を育てるの? 面白いかもしれないです」

「でも、栽培が難しい薬草を選んじゃったらどうするわけ? 自分だけが低評価とか、すっごい嫌なんだけど」

「でも・・・便利・・・」

「便利? どうしてそうなるわけ? …ああ、見るだけでも経験にはなるってことか」

「なるほどです。レティさんの案はすごいです。あたし、サリー様の相談してきます!」


止める間もなく、スーさんは他のグループ――サリーさんのグループの――に駆け寄りました。そのままの勢いで、キャピキャピはしゃいでいるようです。楽しそうに、大きな声で宣言します。


「どうせだったら、みんなでばらばらの薬草を育てようよ!」

「っ、何を勝手なことを言っているの! あなたには協調性というものがないのかしら!?」


スーさんと同時に別のグループで大きな声があがっりました――それはほとんどどなり声で、スーさんの声はかき消されてしまいました。その大きな甲高い声は思った以上に響いたようで、その場にいた皆の視線だけでなく、薬草園に併設された倉庫にいたグループまで、様子をうかがいながら出てきました。


「今回の授業は皆で力を合わせることのはずよ! だったら、同じ植物を育てて、助けあうべきじゃないの!?」

「ええ~。なんでそうなるのかなぁ。考えてみなよ。将来的にボク達は4系統にわかれるんだよ? なんでみんながみんな化学薬理系統(専門)候補と同じことしないといけないの? それに、化学薬理系統(専門)候補のみんなだって、その他(素人)と同じことはしたくないと思うんじゃないかな~」

「だから! 助けあうべきだと言っているのです!」

「え~。やだ。無理なものは無理だってば。ボクは専門外の事したくないもん。だから、ほかのみんなにも強制なんかできないよ」

「~~~~~~」

「わ、私も、専門知識が必要なことは、ちょっと嫌かな。簡単な薬草でいいなら、水やりくらいはできるケド・・・」

「え~、なんでよ。なんでも育ててOKなんじゃん。学園の設備があったら何でもできるんだって。だったらゲキムズなのに挑戦したくなんない? 折角なんだからさ~」


4人目の方には共感できます。

ええ、その通りですわ。この学園の設備は本当に素晴らしいと思います。倉庫の中には、最新の蒸留装置から、どのように使用するのかわからない備品Xまで、いろいろ揃っておりました。それを自由に使用しても良いというのなら、未知の世界に挑戦したいと思ってしまうのです。


「・・・わかる。できるなら水やりもしたくない…」

「え、えええええええ!?」


レティさん!? 何をおっしゃりやがりますか。水やりすら嫌って、それでどんな薬草を育てるおつもりですの?


「時間がもったいない。……三角比の証明、途中なのに…」


そういえば、レティさんは天文クラスへの進学を希望されているのでした。このクラスは天文数学系統なので、体力とも薬草園とも縁はなさそうですわね。ただ、頭の良さは必要になります。あと、数式をイメージできるだけの想像力と空間認識力が必須です。


それにしてもがっかりですわ。ええ、わたくしと180度違う意見でしたもの。


「メレディス様ぁ。何がどうなってるんです?」

「・・・つまり、栽培をしたいと思う人達としたくない人達で温度差があるってことだよね。ま、仕方ないと思うけど。あたしだって、めんどくさいことはしたくないしさ」


・・・・・・植物栽培の良さがわからないなんて、これだから脳筋は…!

ぎゅっとにぎりしめたこぶしが、力のいれすぎでぷるぷる震えだします。よくみると、1グループに1~2人は同じ状態の方がいるようです。

ああ、化学薬理系統の皆様。あなたたちだけがわたくしの真の友人ですわ。


「だから、さぁ。みんなで別々の植物を育てよって。それとも、なんなのさ? "皆で一緒に"っていうのは、自分ひとりじゃ何にも出来ないから、失敗した時のいいわけをしてるわけ? はぁ? ねえ、ちょっと。どうなの」

「ち、違いますわ! この授業は協調性を育むための…」

「え~。やだぁ」

「やる気ないメンバーと一緒になんてできないよ~。無理~」

「こっちこそ、やりたくないって。ぜーったい、無理」


"協調性"を押している方が押されぎみですわね。

彼女の敵は"やる気あり"と"やる気なし"の大多数のメンバーです。

おそらく勝ち目はないでしょうから、早めに撤回することをお勧めいたしますけれど。


「う、うるさいですわ! あなたたち、アンナ先生の言いつけをやぶるつもりですか!?」

「なにいってるの、アンナ先生はそんなこと一言も言わなかったよ」

「そうだそうだ~」

「アンナ先生の言いつけ、勝手に変えないでよ~」

「なっ。あなたたち、いいかげんに」


「おまえたち、いいかげんにしないか!」


どこまでもヒートアップしていく口喧嘩に、とうとう横からストップがかかりました。

テナーの耳に良い声なのですが、今までに聞いたことがありません。隣の薬草園エリアから聞こえてきたということは、高学年のどなたか。現在、横のスペースは3年生が使用しているはずですわね。と、いうことは声の主は3年生で間違いないでしょう。


「多数で1人に詰め寄るなど、淑女のすることではないだろう! …もっと落ち着いて話し合いたまえ」


そうして現れたのは、乙女の夢――王子様でした。

いえ、決して立場のことではありません。サラサラの銀の髪、透き通った新緑の瞳、雪のような肌…着ているのは騎士クラスの制服のようです。この美人騎士様を一言で表すなら、それが"王子様"という言葉なのです。


溜息がでます。この外見…おそらくは重要登場人物に違いありませんもの。


「きみたちには無限の可能性がある。それがなんなのかは己自身にしか分からないだろう。けれど、その可能性をこんな口喧嘩で狭めてしまってどうするんだ。もっと己の行いに関して思慮深くなることだな。…キミも、先生方の言われることは、確かに従うべきだ。彼らの知識と人生経験は非常に参考になるから、大いに吸収し己の糧とすることだ。けれど、その意見を一方的にありがたがるのではなく、自分なりに考えて吸収しなくては成長はしない。…もっと柔軟になりたまえ」


王子様はわたくしたちを見まわして、優しく微笑みました。


「これだけの仲間がいるのだ。協力し合えば良い経験ができるだろう。けれど、それは皆が同じことをしろということではない。その人にしかできないことも多くある。…協力というのはそういうことだよ。皆で仲良くね」


先ほどまで騒いでいた"協調性の少女"が、頷きます。よく見ると目がハートになっています。

彼女のグループの3人も、うるんだ目で何度も首を上下させていました。


「そう、よかった。…先輩からのちょっとしたアドバイスだよ。じゃぁ、がんばって」

「「「「はい、ありがとうございます!」」」」


うわ、4人がすごい勢いで直角にお辞儀しましたよ。気持ちはわかりますが、やりすぎではありませんか?


「すごい。かっこいいです」

「そっかな。自分の外見を有効活用している美形って、始末が悪いと思うんだけど」

「…今のは誰…?」


皆は手を胸の前で組んで、心ここにあらずという風情です。わたくしもできるならうっとりしたいと思うのですが、いけませんわ。彼は確かにカッコイイと思いますが、残念ながらわたくしのタイプではありません。

それにしても、王子様は名乗らずに行ってしまいましたわね。本当にどなただったのでしょうか。


「レオン様・・・」


ああ、そうですの。王子様のお名前はレオン様ですか。


ん? 誰ですの、名前を呼んだヒロイン様は。

そして。レオン様……ヒーローのお名前ですわねぇ。

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