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100-1=99 話が進んでいない謎について

皆様こんにちは。ミリーことメレディス・エマニュエルと申します。


先日は情けない場面をお見せしまして、本当にお恥ずかしく思っておりますの。


え、もう何年も前のこと?

確かにおっしゃるとおりですわ。

それでも、一度申し上げなくては、わたくしにだって羞恥心くらいありますもの。


まあ、でも、確かに何年も前の事ですわね・・・。

問題なのは、この何年間というもの、ヒロインへの対処法がまったく思いつかなかったことなのですわ。

ええ。まったく何にも対処できておりませんの。


だって、わたくしの年齢も考えてもくださいませ。

対処のしようがございませんわ。



一応、物語のプロローグは存じて居りますのよ。


ヒロインは両親とともに、帝都から離れた山村・・・のはずれに家族3人で暮らしていました。

かつて王宮警護師だった父と、一流の薬師であった母とともに。

父には山での生活のアレコレを施され、母からは薬草の知識をつめこまれる毎日でした。


そんな充実した日々を送っていたのですが・・・。

ある日、ヒロインが両親をバカにされて言ってしまうのです。

「おとうさまとおかあさまは王宮に勤めていた師長様だったんだから!」



師長・・・つまり各分野の長たちは、情報の機密保持のため、一生王宮から出ることはかなわないと決められています。それが嫌なら長にならなければよい、ということですわ。


それなのに、ヒロインは自分の両親が師長であると、見栄をきってしまったのです。

・・・子供の口げんかでは終わりませんでした。


勿論、最初は誰も信じませんでした。

けれど念のためと問い合わせた州師には、かれらの手配書が回っていました。

もう10年も前の手配書です。

顔も体型も違っているでしょう。

それが本当に本人なのか、違うのか? 文面だけでは確認できませんでした。


そこで、州師は王都の人事士に連絡をしました。

2人が本物なのかどうか、確かめる人材を派遣してほしいと。


選ばれたのは2人の友人だったという、わたくしの叔母です。

叔母は王都で王宮にお使えする薬師として働いていました。

叔母は問題の山村に行き、2人を確認しました。


そこにいたのは確かに叔母の友人たちでした。


2人は捕えられ、王都で処刑されることとなりました。

ヒロインは無関係と捨てられましたが、両親を追いかけ、兵士たちの警備の目をかいくぐり、2人と再会をはたします。

・・・ヒロインはチートだったのかもしれません。


しかしヒロインの両親は、自分たちは罪を償わなくてはいけないと、ヒロインを残して去ります。

そして、ヒロインは山村でたった1人質素な生活をおくることとなります。

わたくしの叔母様を両親の敵と憎み、その友情のはかないことに苦しむことになる・・・のでした。



わけがわかりませんわ。


え、何ですの?

叔母様が何か悪いことしまして??


ヒロインが余計なことを言わなければ良いのではありませんの。

どうして叔母が憎まれるのか・・・まったく理解できませんわ。


主人公の両親だってわかりませんわ。

大切な秘密を、どうして子供に教えてしまいますの?

教えなければよかったのです。


どうして名前を変えていませんの?

手配書が回っているくらいですのよ。

名前を変え、整形するなんて基本中の基本ではありませんか。


加えて、叔母が確認に行った時、叔母の名前を呼んではいけません。

「たのむ、アラナ。見逃してくれ!」

だなんて、自分たちは顔見知りだと言っているようなものでしょうに。


山村の暮らしは大変だったでしょう。

女の子がたった1人で数年も暮らせるわけが・・・と。

失礼、チートでしたわね。これは可能ですか。



ともかく。

ヒロインの生い立ちの不幸は、かなり自業自得ではありません?

これで、いわれのない悪意にさらされて、ヒロインちゃんチョーかわいそう。(by友人)

だなんて思えませんわ。


ああ、くりかえしますわ。

本当にわけがわかりません。


叔母様、アラナ様。ヒロインという変質者に恨まれる前に、どうぞ逃げ切ってくださいませね。

それがわたくしたち一族にとっての、最高のストーリになるはずです。



の、はずなのですけれど。


いっこうに叔母様が出立される様子がありません。

おかしいですわ?

そのヒロインの両親が捕われるのは、学園に入学する数年前のことです。

時期的にはそろそろのはずです。

いえ、わたくしとしてはありがたい事なのですが、一体どうなっているのでしょう。

このままヒロインが登場せずに終わってしまうのでしょうか?


なにがどうなっているのかと頭を悩ませていたら、その叔母様がいきなり宅にいらっしゃいました。

どうりで、今日はお父様もお母様も御在宅なわけですわ。

叔母様を待っていらしたのね。



「フォレスター侯爵ご夫妻には、ずいぶんご無沙汰しております。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

「いいのよ、こちらが望んだことですもの。本当にお久しぶりですね。・・・ミリーの誕生日以来ですね」

「まったくごぶさただね。もう数ヶ月も前の事じゃないかい? ここは君の家族の家なのだから、もっと気軽に来てくれていいんだよ」


両親の声に、叔母は困った顔をされました。

良く見ると顔色も悪く、あれ・・・やつれt、お痩せになったかしら?


「叔母様、どうかなさったの?」

「あぁ、ミリーにまで心配かけるなんて、だめね。ちょっと・・・仕事が忙しくてね」

「そう、ですの? あの、」

「おやめなさい。アラナの仕事といえば王宮のことですよ。聞いてはなりません」

「・・・ごめんなさい、叔母様、お母様」



根掘り葉掘りヒロインの事を聞こうと思ったら、お母様に叱られてしまいました。

確かに守秘義務があるから、話をふったところで答えてはくださらないと思うけど・・・時期的にヒロインの何かじゃないかなと、わたくしは疑ってるのです。


質問の隙をうかがおうと叔母様を凝視していたら、わたくしの目の前に両手で抱えるくらいの可愛い箱が現れました。白い箱がかわいいリボンでラッピングされています。


ん~。ん?

目の前のこの箱は・・・?


「ミリーにプレゼントを持ってきましたよ。王宮侍女のスイーツランキング1位。三番路のクイーンズベリーのタルトとロイヤルストロベリーのミルフィーユよ。さ、受け取りなさい」

「叔母様大好き~。ミルフィーユ大好きです~」


あらあらあらあら。

叔母様から手渡された箱をしっかりと受け取り、丁寧にささげ持ちました。

甘いものに目がない女性の中でも高級取りの王宮侍女、その人気ナンバーワンのスイーツであるならば、形を崩さないようにテーブルに出さなくては失礼というものです。


そろそろと、箱を揺らさないように慎重に運ぶわたくしの頭の上で、叔母様とお母様がどんな顔をなさっていたのか。

肩をおとして小さくかすかな音のみをさせて溜息を落とした叔母様を、お母様とお父様が心配そうに見ていらしたなんて、プレゼントに集中していたわたくしはまったく気が付いておりませんでした。


なぜって、この果物たちは本当に特別なのです。

つい最近出回り始めたばかりの、生きた宝石と絶賛された最高の果物なのです。


ロイヤルストロベリーは大きくて甘~いのです。

そのサイズは大人の親指ほどもあり、つやっつやの赤い色がゆえにルビーと表されます。かぶりつくと、口の中いっぱいにじゅわ~っと甘みが広がるのです。

あああ~、甘いもの大好き。


比べて、クイーンズベリーは大人の味。

甘さだけではなく酸味が効いているので、かぶりつくにはちょっと躊躇います。

でも、その酸味がジュースとか、ジャムにはうってつけです。

こちらのサイズは小さめで青~紺色をしているので、サファイアと呼ばれます。


非常においしいのですが、その分お値段が・・・けふん。

侯爵家である我が家の食卓でも頻繁には並ばない果物です。

それが! その超高級食材を使用したケーキが! いま、わたくしの目の前に!



・・・1箱全部独り占めできないでしょうか。

想像するだけで、よだれが。


わたくしはずいぶんだらしのない顔をしていたのでしょうか、お母様に頭をたたかれてしまいました。

タルトやミルフィーユには影響なさそうなので、お母様もケーキを楽しみにしておいでなのですね。


やっぱり独り占めはやめます。あきらめます。

みなでいただいたほうが、きっと美味しいに違いありませんもの。


お菓子につられて邪念に囚われてしまうなんて、我がことながら本当に残念すぎましたわ。

それにしても、どんな味がするのでしょう。

ああ、楽しみです。


主人公の名前は、メレディス・エマニュエル、フォレスター侯爵令嬢

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