蟲の壺
理子さんはとても生き生きしながら歩を進めている。
一方、自分は足に鉄下駄を履かさせてるように足取りが重たい。
「なんでそんなにニコニコしてるの?」
理子さんはイキイキしながら答える。
「ずっと行ってみたかったんだー!私、骨董とかアンティーク物を見るのが結構好きでね!あと絵画とか!」
残念ですが理子さん。あなたは大きな勘違いをしていらっしゃる。あそこにはそんなものはないのだ。駄菓子とパチもんくさい文庫本、それに古びたツボしかないのだ。ついでに無愛想な店員。
「やっぱりやめようよ!あそこは絶対やばい!!自分だってこんな目にあってる原因かもだし!!」
「私はきっと大丈夫………いや、絶対…………」
微笑む理子さん。何を根拠にそんなことを言ってるんだこの天使は。なんてことを考えているとついてしまった。相変わらずボロい店である。
「ここでまってて!壺のこと謝ってくる。」
理子さんから不機嫌そうにいう。
「え~なんで!店の中を見に来たのに~」
「だめ!さっき話した得体のしれないのはここから俺についてきたかもしれない。理子さんにこんな目に合わせたくない!」
自分はすかさず男らしい言葉を口にし、理子さんを阻止。自分はガラガラとボロい扉を開け店内に入った。
「幽霊とか信じなさそうなのに………ふふ。待っててやるか」
相変わらずかび臭く、薄暗い店内。
「あの~すいませ~ん。」
とビクビクしながら挨拶する。さっきの男らしい言葉はどこにいった!!自分!。
「は~い。いらっしゃ…………あっ!昨日の糞ガキ!」
「すいませんでしたぁ!!」あゝなんて情けない。
自分が悪いことをしたとはいえ、頭を高速で90度、上下させ謝る自分。神様。なんとあなたは無慈悲なのでしょう。などとどこにも当たることのできない悔しさを存在しないもの当たってみる。
「まっ、そんなに怒ってはいないんだけどね~」
とにやにやする店主。無精ひげを生やしたその頬にエクボができる。なんと性格の悪い奴だ。骨董などにハマる人間は根暗でこんなやつばかりなのだろう。
理子さんを除いて。
「今日は謝罪に来ただけなので帰ります。なにかあるならここに電話してください。後日伺わせてもらいます」
とメモに携帯番号を書き、渡し帰ろうとすると
「待て待て。なにかあるのは君のほうじゃないのかい?」「え?」
ぎょっとした。
こいつはあの黒い何かについて知っている。
「なんで。わかるんですか?知ってるんですか!?あの黒いのについて!!!」
店主はタバコに火をつけ、一息吸った。
「そんなに焦らない。せっかちだな~君は。早漏になっちゃうよ?はははははは」
とエクボを作り笑う店主。
「ふざけたこと言ってる前に教えてください!!なんなんですか!?あれは!?」
自分の人生数少ない怒鳴り声。
はぐれメ〇ル並のレア度だ。そのまま、自分は店主を睨みつける。
「ははは、そんなに怖い顔しないでよ。外に人を待たせてるね。時間がかかる。その子に一言言ってから奥に来なさい」
「あ、はい」
なんだ以外にいい奴かもしれんと思いつつ、
理子さんに時間がかかると言うと理子さんは帰宅するということだった。にこやかに手を振ってくれた。あゝあの店主と2人きりかと少しため息を店の表に残し、自分は奥に入った。
奥は店主の居住空間らしい。
しかし、ここも変わっている。ずらりと本棚が並び、そこには多くの古書のようなものが並べてある。古い棚がまた並び、そこにも見たことのない器具や何かを入れた瓶が並んでいた。その瓶の中から店主はいくつかの粉や植物の乾燥させたもの、なにか干物のようなものを出し、それを薬用のすり鉢で粉にし始めた。
「君は¨こどく¨って知ってるかい?」
私は用意された座布団に正座し首を横に振った。
「まぁ~普通は知らないよね。虫、三つの蟲に毒で¨蠱毒¨っていうんだ。大昔の呪いの術のことをいうんだよ。君の体についてるのはそれ。」
自分は身を乗り出す。
「なんで自分が呪われなきゃいけないんですか!?なんも悪いことしてませんよ!!」
「なに!?壺を割ったじゃない。しかもその後まんまと逃走した。そうでしょ?」
店主はにやりとずるそうな顔して笑う。そのとおりでございます。
はい。
「でも、僕が呪いをかけた訳じゃない。壺に入ってたものが抜け出して君にくっついた。まぁ~君が割ったからなんだけどね~」
と笑う。
本当に性格悪いなこいつ。
店主はおもむろに立ち上がり、沸かした湯とすり鉢で作った粉とで溶いた。
「飲みさない。これで君の言う黒いのが体から抜け出す。苦いぞ~?」
こんなにイラつく笑顔が未だかつてあっただろうか。渡された湯呑を憂さ晴らしに一気に飲み干した。
「うげっ!!」
思わず声を上げた。
苦い。いや、痛い。史上最悪の味だ。
口に手を当てもがいていると。店主が自分の左肩のあたりの虚空をひょいとつまんだ。
「うわ!なんですか!?それ!!」
「なにって?¨蟲¨さ。」
真っ黒い人毛が生えたようなでかい蜘蛛が店主の指につままれ、蠢いている。タランチュラと言った方が分かり易いだろうか。そのタランチュラの足に当たる部分は人間の指。口は大きく頭の大半を占めており、しかも、人間の口だった。
「ジゅ………………サァ………つ」
呪殺?とつぶやいている。
それと一緒にキィキィと言う虫特有の鳴き声が副音声のように聞こえる。
「君ー……見えるの?こいつが?」
仰け反った体勢のままうなずく。
「もしかして噛まれた?」
また同じ体勢のまま頷く。
「はぁついてないねー。君。」
ため息をつく店主。
「こういう生きてないものやこの世のものじゃないものにつけられた傷は¨霊障¨って言ってね。取り憑かれて、しかも熱をだしたり、君みたいに傷をつけられたりするとね。たまあに見えるようにしちゃうんだよ。見えなかったものをね。」
「え!?嘘でしょ!?」
自分は身を乗り出す。
「はは、忙しいやつだね。きみも。嘘じゃない。現実、見えているだろ?」
うそだろ?
オカルトは否定してた自分が、霊感を手に入れてしまった。
「まぁ~気にすることないよー世の中のものが多く見えるだけさ。」
パンっ!と店主のは手のひらを合わせ、蠱毒をつぶした。「いやいや、また取り憑かれたらどうするんですか!?違うやつに!!てか潰して大丈夫何ですか?!」
もう自分でもなにに突っ込めばいいかわからない。
ご了承下さい。
「大丈夫さ。もともとただの虫だからね。蠱毒は。これで死んだ。」
「ただのむし?あれが?」
「そうだよ~。色々な毒を持った虫をひとつの皿の上において、その皿ごとツボの中に閉じ込める。その沢山の毒虫の中から殺し合い、食べて食べられ生き残ったやつが蠱毒になるんだ。だから元はただの虫。」
へーと関心の声を上げてしまった。
「でも、これは特別だった。何匹もの蠱毒を掛け合わせて呪いの塊みたいなものを作り上げちゃったんだ。大昔の人間がね。だから壺に閉じ込めた。それを君が割っちゃったわけさ。しかも、躓いたのもこいつのせいだろー。少し蓋がゆるくなっちゃってたみたいだからね~。壺から出るために君を利用した。そう言う事だ。」
「そうなんですか………」
言葉も出なかった。そんなものがこの世に本当にあったなんて今までの知識が全てぶっ壊された気分だ。
「今日は疲れただろ?かえって休みなさい。」
「あ、はい、ありがとうございました。」
棒読みである。頭が真っ白だった。何が起きたのか夢の続きなのか。そんなことばかりが頭の中を交錯していた。
「ちょい待ち。はい、これ。」
店主に止められ渡された。
一枚の封筒。なかを確認する。
¨領収書 壺97万円 お祓い料金3万円 合計100万円也¨
「なんすか?これ?」
店主が首を傾げる。
「いや、弁償代とさっきのお祓いの料金。格安にしといたから。」とにこり。
「じ、自分高校生ですよ?」
「それで?」と店主。
「100万なんか持ってるわけねーだろ!?このおっさん!!」
思わず怒鳴ってしまった。
「なら、ここでバイトしてもらおうかなー。100万円返してもらうまで。100万。」
とにこやか且つ冷静に返される。
「嘘だろぉーーーーーーーーー!?」
狼狽である。
「僕の名前は、清明アノベ(きよあき あのべ)きよさんでいいよー。よろしくね!君の名前は?」
「木村大治です。」
「そうか。大治くんかぁ~いい名前だー。明日からよろしくー」
あゝどこで間違ったのだろう。人生を。
これが自分、木村大治がここ、骨董屋でバイトするきっかけである。全く、人生とはどこで間違うかわからないものだ。おっと話が長くなりすぎてしまった。皆さん申し訳ない。また、つまらないか面白いかわからないが骨董屋の話をしようと思う。その時はまた、ご清聴、おねがいします。