5、あれはチートだろ?by勇者
それはもはや地獄絵図の様な光景だった。最初に行われたのは3機のアパッチロングボウから放たれた3発のAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルによる正確無比で無慈悲な攻撃だった。
初期型と違い、ミリ波による攻撃が可能なため、撃ちっ放しができるようになった。これにより、誘導する初期型のヘルファイアよりも、自機に対する被弾率が格段に下がった。
レーダーでロックオンされたのは5組あったグループの内、魔物や亜人の群れの中でも特に大型の地竜やトロールが固まっていた3つのグループだった。
ヘルファイアミサイルは目標まで発射位置の水平線上を飛行する。そして、ミサイルの先端に備えられているミリ波シーカーが目標を探知し、目標へ進路を変える。数匹の魔物がミサイルに気が付き逃げ始めるが、それもすでに遅し。ヘルファイアは見事に群れの中央に命中し、主力戦車(MBT)を行動不能にする威力を持った爆薬が炸裂し、魔物を豪快に吹き飛ばす。
「こちらロストナンバー1、敵の残存は西へ逃亡せり、これより追撃に入る」
「よし、2.3.4を連れて行け、間違ってもギルドに弾丸撃ち込むな」
魔物も本能的に危機を感じたのか、主力であるトロールの軍団が全滅すると、西へ向かって逃げ始めた。しかし、航空部隊は逃がそうとしない。ブラックホーク4機は胴体の左を中央に向け、逃走を図った群れを囲みこむ。
「射撃準備…準備…準備……撃て!」
キャビンから突き出たミニガンを握る指に力が入る。回転する4つの銃身からは、7.62mmNATO弾が、毎分6000発という驚異的な連射速度で発射される。痛みを感じる間に死んでるという無痛ガンと皮肉られているミニガンの四方向同時攻撃にさらされた魔物たちは、肉片すら無くなるほどの弾丸を浴び、この世から消え去った。
「すげぇ!ジエータイは鉄の飛竜まで配備してるのか!?」
「あれはヘリコプターという乗り物だよ。」
「じゃ、じゃあ、あの攻撃は何なんですか!?」
「武装のM134ミニガンによる同時飽和攻撃だ。しっかしまぁ、えげつない事考えるぜ…味方で良かったよ」
「お、俺たちの出番ないじゃないか」
「あはは、そうですね」と失笑するティア。
「わ、笑うなよ!くっそー!俺だって!俺だって!勇者なんだ!」
勢い良くギルドの2Fから飛び降りる勇者、それを見ていた不知火や賢者達はため息をついていた。
「あいつプライド高いな」
「はぁ……小ちゃい時からあんなんですよ」
「無鉄砲だナ」
「戦士、そのナ喋りはやめなさい」
「わぁったよ賢者」
「しっかし、いくらあの勇者でも、何も考えずに出て行くわけないだろ?」
不知火が賢者に問いかける。すると、先ほどまで唸っていた騎士が近づいてくる。
「確かあいつ……「あんなに大量な魔物を従えるには、何らかのアクションが必要。よって、アクションを起こす絶対能力者がいる」……とか言ってたな」
「「「何故それを早く言わない!?」」」
「えっ?えぇっ?だって、割り込んで話せる雰囲気じゃなかったし、今さっき聞いたとこだし」
不知火はクエストボード横の地図を見に行く。カハール村を中心とした低範囲の地図が細かく描かれていた。
「総勢800匹程の魔物達を従えるには、それほど強力な統制力を持った存在が必要。なら、魔王軍の士官級の魔物か悪魔が何処かにいるはずか」
「となると、考えられるのはこの丘ですね」
栗良はギルドの西にある小高い丘を指差す。
「吉岡さんに連絡しましょうか?」
栗良が89式を撃ちながら提案する。
「あぁ、このままじゃ弾薬が尽きてしまう。頭領をブチ殺してしまえば、亜人や魔物なんて烏合の衆だ」
「坪井〜、周波数合わせてアパッチリーダーに西の丘へ向かえと連絡しておいてくれ」
「分かりました!」
その頃外では、アパッチの3機がとある場所に向かっていた。そこは勇者が1人向かったと言われる丘。
丘では魔物の士官クラスと言われている悪魔が、前線の異常な敗退に業を煮やしていた。
「☆◇≒$○*!」
悪魔が現地語で部下を怒鳴りつける。しかし悪魔は、突如聞こえてきた声に咄嗟に反応する。
「死ねぇ!」
勇者は両手剣を悪魔に叩きつけるが、悪魔は難なくそれを振り払う。すかさず攻撃を繰り出すが、なかなかダメージを与えられない。
「☆$△◎〒!」
悪魔の両手から紫の気弾が発射され、2発のうち1発が勇者に激突する。勇者は右肩に致命傷を負い、悪魔の取り巻きに囲まれてしまう。
「くそっ!ここまでか!?」
「☆○%……〒$!?」
悪魔が突然空を見上げる、そこには、持ちいる全ての戦闘能力を全面に出した無骨な形をした戦闘ヘリコプターがホバリングしていた。AH-64Dロングボウアパッチ。前世界では湾岸戦争でイラク軍機甲師団を壊滅させ、最強のヘリコプターと呼ばれた兵器が、今まさに、眼前の魔王軍に向けて牙を向けていた。
「魔物のみなさんこんにちわ。毎度おなじみの宅急便です。30mm機関砲の威力をとくとご覧あれ」
アパッチの機首に吊り下げられるように取り付けられた30mm機関砲の銃身が悪魔達に向けられ。その銃身から無慈悲に銃弾が撃ち込まれた。
「任務完了、帰投する」
肉片になった魔物達に背を向け、空域を飛び去るアパッチの後ろ姿を勇者はずっと見つめていた。
「ありゃ俺じゃあ勝てんわ」
勇者はとぼとぼギルドに帰り始めた。