4、お馴染みの悪魔の宅急便でございます
カハール村掃討作戦で突入班と別行動をとっていた陽動班は、一通りの掃討と要救助者の少女を救助し、すでに突入班と生き残りが立てこもる冒険者ギルドへと向かった。
「隊長、着きました。敵はまだ来てないようです」
「中に入れてもらえ。ここで救援が来るまで待つ」
巨大な鉄の門、高い塀で囲まれたその中央にあるギルド正門をくぐり、有刺鉄線で囲まれている探検者ギルド本部にたどり着く。ギルドの正面では、MGバンカーから普通科隊員が手招きする。軽装甲機動車と89式装甲戦闘車は一列縦隊となり、ゆっくりと中庭に向かった。
その頃、ギルドの内部では甲冑を着けた老人が外に出ようとするのを、周囲にいる人間が必死に押しとどめていた。
「離せ!離すのじゃ!まだわしの孫娘が残っておるわい!冒険者なんぞに任せられるか!」
「感情を押し殺して下さい村長!あなたが出て行かれたら、せっかくの団結心も、頭領を失ってガタガタになります!娘さんはジエータイの連中が必ず助けると言ってます!どうか冷静に!」
「ならぬ!わしとて身内が魔物の軍団の中に捕らえられているのを座視するほど甘くないわ!」
「村長!ジエータイの増援が到着しました!」
カハール冒険者ギルド1Fにある集会場、不知火達は部屋に入ると、ヘルメットを脱ぎ、村長に敬礼する。ふと村長は、ジエータイの隊長格と思わしき人物の横に、自分の孫娘と瓜二つな少女を見つける。
「おじいちゃん!」
「ミュイ!?無事じゃったのか!?」
「うん!このおじさん達が助けてくれたんだ!」
村長は「何と……。」と言って深々と頭を下げる。
「本当に感謝するぞジエータイ!お主らのおかげで娘が無事だった」
「いえいえ、これも任務ですから」
不知火は突入班の隊員、勇者達、エルフを集会場に呼び集め、作戦会議を行った。
「とりあえず、拠点の確保には成功した訳だ」
「シラヌイ、ジエータイの援軍はいつ来るんだ?」
「CH-47JAが2機で155mm榴弾砲を吊り下げて一緒に飛んでくるまで20分、地上部隊の到着は30分でしょう」
「遅いな、それまで外の連中が待ってくれるか……」
「心配するな勇者、ならば本隊に連絡だ。AH-64DとUH-60JAの戦闘部隊を全力で向かわせろ。地上部隊は後で構わない」
「了解しました。」
「彼らはどんな連中だ?俺は初めて見るメンツだから分からない」
「とびきりイカれた連中と言ったほうがいいかと」
「……とりあえず我々は防衛戦に徹しよう。ここにいる冒険者や戦闘要員を全部集めてくれ」
「了解」
偵察部隊は、ギルドの2Fにある窓から、機銃や小銃を向け、迎撃体制をとった。
その頃、出動命令が下された残留組の航空部隊では歓喜が沸き起こっていた。カハール村に続く空には、輸送ヘリであるチヌークをほったらかしにした戦闘ヘリ、アパッチを先頭に鏃型の陣形でヘリ部隊が飛行していた。
「フンフンフンフフフフフーン……」
「隊長、何歌ってんすか?」
「赤貝音頭だよ」
「はは、なら我々は赤いベレー帽の傭兵っすね!」
アパッチのコックピットで、前席に座っている射撃者兼副操縦士である葛西1士が、上官であり操縦士である吉岡鉄心の鼻歌をケラケラ笑う。
「おい葛西、そろそろ火器管制ユニットに火ぃ付けとけ」
「了解、火器管制ユニット、作動開始」
「こちらジョーカーよりロストナンバーズへ、我々に殲滅命令が下された。全員股に力入れてろ!こっからの戦闘は最高に○起モンだぜ!」
「「「我ら無敵の騎兵隊!向かうところに敵なし!」」」
あるブラックホークの中では、キャビンに乗り込んでいる普通科の隊員が、ミニガンを構えている隊員にニヤリと笑うと、マガジンを叩きつけたヘルメットを股の下に敷き、89式の安全装置を外していた。ミニガン担当の隊員がわざと理由を聞く。
「なんでケツに敷いたんだ?」
「タマを守るためさ!」
「ヒャッハー!本当にもったいねぇ!これでワーグナーさえありゃ地獄の黙示録だぜ!」
「こちらジョーカー副機長より全機へ、ウチの隊長はキルゴア中将のように狂ってないからな!」
「目標到達まで残り3分!」
「斬り込むぞ野郎ども!」
吉岡の号令と共に、アパッチ3機、ブラックホーク4機は突撃する。魔物にとって悪魔のショータイムが始まるのだった。
航空部隊が突撃する前から、不知火達による防衛戦は幕を切っていた。魔物の中にはオークやセイレーンなどと言った知識が高い亜人が混ざっているらしく、これほどまでとは比べものにならないほど組織的な攻撃が繰り返されていた。
「11時方向にトロール!FVに火力支援を要請!」
トロールに向けて35mm機関砲が唸り、軽快なリズムでM2重機関銃が12.7mmNATO弾を発射する。
「た、隊長、この音って……」
遠くの空から悪魔の音が聞こえてきた。
「悪魔だ」