88.
すでに夕方といっていい時間になっていた。
山中からコピーを受け取った須田は、とりあえず知っている倉庫屋と運送屋をリストアップした。最近、絵に描かれているような荷物を預かっていたかどうか、まずはそれを確認することをしなければならなかった。
面倒な作業だが、1人でできる仕事なので、手と口を動かしていれば終わらせることができる。とりあえず工場地帯にある倉庫を中心に片っ端から電話をかけることにした。三島によると、男を見たのは2週間前。絵を見ると、置いてあった荷物は業務用のオーブンや冷蔵庫、イベント用だと思われるテーブルや椅子等が主要なものらしかった。
それからしばらくの間、須田は黙々と作業に没頭した。色々な物が集まる倉庫は須田のような探偵にとっては貴重な情報源なだけに、日頃の人脈が効いて、作業はスムーズに進んだ。
そして、倉庫は3つまで絞り込めた。須田は貰ってきた絵のコピー10部を鞄に突っ込んでから、タクシーを呼んだ。経費よりもスピードが大事な状況だった。
まず最初は、住宅地にある運送屋の倉庫だった。事務所に入ると、いかにもな雰囲気の社長がいた。
「どうも、さっき電話した件なんですが」
「ああ、あれね。そこにファイル出しといたから適当に見といてくれよ」
須田は言われるがままにファイルを手にとって、絵に描かれていた通りのものが2週間前に倉庫にあったかどうかを調べた。どうやら空振りのようだった。
社長は何か話したそうにしていたが、須田は礼を言って、待たせていたタクシーに戻った。残りの2つは工場地帯にあった。
そして、1つめが当たりだった。
「ああ、この絵はうちだね」その倉庫の専務は絵を見ながらうなずいた。「何か2週間前と、それから今日、変なおっさんが来たよ。ちょっと倉庫を貸してくれって、現金払いで」
「年齢はどれくらいでしたか」
「まあ60はいってたな。いきなり倉庫を貸せなんて怪しいとは思ったけどさ、まあ気前のいい現金払いだったし、うちも今苦しいから」
「その男の他には誰が来たかわかりますか?」
「いや、事務所にいたからなんともなあ。2週間前も今日も、誰かと会ってるようだったけど、詮索するなと言われてたし、わからないねそれは」
「そうですか」須田はそう言って立ち上がった。「あとで似顔絵を見てもらうことになると思います。もちろん専務の不利になるようなことにはしませんから、見ていただけますね?」
「ああ、いいよ」
「ご協力ありがとうございます」
須田は頭を下げてから、急いでタクシーに戻った。そして、三山のバーの名前を運転手に告げた。




