82.
須田と石村は、1時間も立っているだけというのは無駄だということで、石村の課に移動していた。清水は気になることがあったようで、部屋に残った。
「似顔絵ってあんな面倒なもんだったんだな」
「現役が知ってなくてどうする」
「そりゃそうだが、いつもは丸投げして終わりなんだよ。頼んでおくと、いつの間にかできてる。大体なんでお前は知ってるんだよ」
「私的に頼みごとをすることがある」
「ああ、副業かよ」
「違うな、あの男の本業は絵を描くことだ」
「ならなんで、こんなところに居るんだろうな?」
「一番人間を描けるのがここなんだそうだ。それに、聞いた情報だけで描くとういうのも好きらしい」
「なるほどねえ」石村はマグカップからコーヒーを一口飲んだ。「まあ、それはそうと、どんな似顔絵ができるんだろうな。目星はつくか?」
「いや、わからないな。初老の男なんて、今まで影も形もなかった」
「そうだよな。なんなんだろうなそのクソッタレ爺は?」
「意外な大物かもしれないな」
「それなら、お前に活躍してもらわないとな。ろくに証拠もないのに動き出しちまったら、どう引っくり返されるかわかったもんじゃない。色々しがらみのある組織っていうのは、面倒が多いんだよな」
「確かにな。それくらいの覚悟はしておいたほうがいいのかもしれない」
石村は天井を見上げて、溜息をついた。
「めんどくせえなあ。お前みたいに1人でやってりゃ、こういうことはないんだよな」
「そうでもない。ただ、最終的な決定権が自分にあるというだけだ」
「いいじゃないかよ、その決定権とやらが、辞めなくちゃ手に入らないわけじゃないんだから」
「色々辞めたからこそ、それが手元にあるんだよ」
須田は微笑とも自虐ともとれないような顔をした。石村はそれを見て、多少気まずいような気分になった。
「そうだったな」
それだけ言った石村は、次の言葉に詰まった。須田はそれを特に気にするような様子はなかった。
「終わるまでは、まだ時間がありそうだな。ちょっと野暮用を済ませてくる」
「そうか。それなら、終わったら連絡する。すぐに戻って来られる範囲にしとけよ」
「心配するな」
須田は足早にその場をあとにした。




