8.
「私は、ある男と半年ほど前からつきあってたんです。最初はおかしいところは何もなかったし、うまくいってたんですけど、少し前から妙な感じがするようになったんです」
「何かあったんですか?」
「彼は私の家に来ると、何かを探しているような感じがしたんです。最初は気のせいだと思ってたんですけど、違いました。彼は確かに何かを探していました。それで、友達に相談したら、安田さんという人を紹介してくれたんです。しばらくの間は安田さんの言う通りにしていたんですけど、一昨日安田さんの所に行ったとき、机の上に私の名前といっしょに、ここの住所が書いてるメモが置いてあったんです」
「それで、ここにいらっしゃったんですか」
「なんというか、その、ここに来れば悪いことにはならないんじゃないかって、そう思ったんです」
三島の言葉に、須田は軽くうなずいて、三島の目を覗き込んだ。
「なるほど。本当にそれだけですか?」
「いえ、実は」三島はバックから封筒を取り出した。「今朝こんな手紙が家にきていたんです」
その封筒には、三島理恵様とボールペンで書かれているだけだった。切手は貼っていない。
「読んでもかまいませんか?」
「どうぞ」
須田は封筒の中から、切り取られて三つに折られた大学ノートの切れ端を取り出した。広げてみると、あまりきれいとはいえない字で紙が埋めつくされていた。
ざっと読んでみると、この手紙に書いてある重要なことは二つ。安田を信用するなということと、須田正人、つまりここを頼るようにということだった。須田は紙をたたんで封筒に戻して、三島に差し出した。
「不思議な手紙ですね」
「ええ。でも、なんとなく無視できないような気がしたんです」三島は封筒を受け取って、バックにしまった。「それで、もし、仕事として頼んだら、いくらくらいかかるんでしょうか?」
「残念ですが、今の状況では依頼をお受けしたとしても、何も出来ないと思います。それに、依頼を受けたとしても、あなたからではなく、その手紙の送り主から代金を受け取るべきだと思いますね」須田は少し身を乗り出した。「おそらくその男、あるいは女は、私の知っている人間でしょうからね。まあ、そういうことで納得していただけるのなら、この依頼、引き受けさせていただきます」
三島は驚いた顔で、しばらく黙っていた。気を取り直すと、頭を下げた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「契約完了ですね。それでは、連絡先を教えていただけますか。それから、このことは口外しないようお願いします」




