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75.

 タクシーを拾ってもよかったのだが、須田はあえて歩いて病院に向かっていた。20分程度の時間ができるし、それが須田のスタイルだった。それに、木村はその程度の時間なら、楽に対象を確保しておけるはずだった。

 まず大事なことは2つ。前田の行動をしっかり把握しておくとこ。そして、奥を表に引きずり出すこと。そうすると余計なものまで色々出てきそうな気がしていたが、今回の件を片づけたいのなら、選択の余地はなさそうだった。

 もちろんそうするためには、三島の目的と知っていること。吉田がどう関わっているのかと、その知っていることも必要不可欠なはずで、須田一人ではどうにもできそうにないのも事実だった。

 しかし、前田を警察に渡したくはなかった。自由にさせておいてこそ意味がある。今まで事態を動かしてきたのは三島だったが、それを解決する鍵は前田だろうと、須田は考えていた。

 そうして考え事をしているうちに、須田は病院の前に到着していた。玄関の前には何人かの喫煙者と木村がいた。木村はすぐに須田に気づいた。

「ずいぶんと優雅な到着だったみたいだけど、そんなに余裕があったの」

「むしろ余裕がなかったんだ」

 木村のトゲのある言葉を、須田は無表情でかわした。

「そう。商売繁盛でけっこうだこと」木村はタバコを持った手で病院の中を指した。「あんたの依頼人なら中にいるから」

「予約はいつもの店で、来週の土曜日に2人で入れておくからな。連れてく奴を確保しといたほうがいいんじゃないか」

「ああ、今回はあんたでいいから。それより早いとこ行って、話しのタネを作ってきてもらえる?」

「そうできるといいな」須田は玄関の扉に手をかけてから振り返った。「すっきりしたシンプルな話にはなりそうにない」

 木村は須田が病院の中に入っていくのを見送ると、地面でタバコをもみ消した。隣でタバコを吸っていた入院患者が携帯灰皿を差し出した。

「なんか難しいことを話してたみたいだけどよ、あれ旦那かい?」

「元ね。腐れ縁でつきあいがあるけど、まあそれだけ」

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