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72.

 事務所の中では、三山が乱雑に家捜しをしていた。吉田はうつむいて、ひたすら小さくなっていた。須田は放り投げられた書類を適当に拾い上げた。

「こんなものを漁ってどうするんだ」

 ファイルキャビネットに収まっているものを漁っていた三山は、ファイルを2冊ほどわしづかみにしながら、振り返った。

「いや、この野郎が何もしゃべらないんでな。それなら部屋に聞いてみようってことだ」

 須田は特に何も言わずに、三山が散らかしたものをいくつか拾い読みした。

「どれもただの通常業務の書類だな」

「そりゃそうだろうよ。大事なものは隠してるんだ。そうじゃなきゃ探しがいがないもんな」

 そう言いながら、三山は手に取ったファイルを放り投げた。何かを探しているというより、単純に散らかして遊んでいるようにしか見えなかった。

「あんまり散らかしてると、見つかるものも見つからなくなるぞ」

「そうなったら知ってる奴が吐きたくなるようにするまでだ」三山は吉田に笑顔を向けた。「そういうことだから、その時は頼んだぜ」

「本当に、本当に勘弁してください」吉田はいきなり立ち上がると、三山に向かって頭を下げた。そして、須田の方にも頭を下げた。「須田さん、お願いします。知ってることは話しますから。だからなんとか、穏便に済ませてください」

 須田は困ったような表情を浮かながら、吉田の肩に手を置いた。

「わかりました。と言いたいところなんですが、あいにく状況が許してくれそうにありません。もちろん、努力はしてみますが」

「優しいことだ」三山は電話を机の上から叩き落した。「こいつはやりすぎたんだよ。あんまり調子に乗らなきゃよかったんだけどな。ここまでやったんなら、相応の代償は払うべきだろうが」

「それは今決めることじゃない。まあ、判断できる材料がないとどうにもならないのも確かだ」

「だとさ」

 三山は吉田の椅子に腰を下ろして、机の上に足を投げ出した。

「お前に選択肢なんてないんだよ。悪いことは早めに済ませたほうがいいぜ」チョコバーをポケットから取り出して一口かじった。「サツじゃ望めないような柔軟な対応とやらが期待できるかもしれないしな」

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