65.
前田は吉田の後を歩いていた。吉田が向かっている先は街外れの工場地帯らしかった。普通に考えれば危険なのだが、前田は不思議と危険を感じていなかった。備えをしているからかもしれない。
「どこに向かってるのか、教えてもらいたいですね」
「あなたが今一番たどり着きたいところですよ。いや、一番会いたい人物のところでしょうか?」
憎たらしいほどの余裕を見せながら、吉田は笑った。
「あの女だったら、別に会いたくはないですよ」
前田はわざととぼけた。
「残念ですが違いますよ。彼女は別の場所に居ましてね。ああ、安全な場所ですから安心してください」
あまり信じられるものではないが、とりあえず、三島にはまだ危害が加えられていないようなので、前田は表情には出さずに安堵した。
「それなら、誰が待っているんでか?」
「着けばわかりますよ」
それから3分ほどの間、2人は黙って歩いた。そして、吉田は小規模な倉庫の前で立ち止まった。一見したところ、何の変哲もないただの2階建ての倉庫だった。
「着きましたよ。さあ、中にどうぞ」
吉田は脇によってそう言った。前田はそれを見て怪訝な顔をした。
「入らないんですか?」
「私はこれから他に用があるものでしてね。あなたにもそのほうが都合がいいと思いますが」
「お気遣いどうも」前田は吉田に蔑むような視線を向けると、倉庫を見上げた。「あんたの言う通り、大いに都合がいい」
「ご健闘をお祈りしてますよ」
吉田の嘲るような言葉を背中に受けながら、前田は倉庫のドアに手をかけた。




