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63.

 事務所に入った須田が最初に目にしたのは、虚ろな表情をして立ちすくんでいる三島だった。

「三島さん」

 須田の声に三島はゆっくりと顔の向きを変えて、須田の顔をぼんやりと見た。しばらくの間そのままの状態が続いた。三山がそれを破った。

「おいおい、あんまり時間がないかもしれないんだから、ぼけっとしてんなよ2人とも」

 三島はその声に我に返って、須田にたいして遠慮がちに口を開いた。

「あの、その人は」

「こういった状況では、このあたりで一番頼りになる人間ですよ。安心してください。ここにこれだけ早く来ることができたのも、こいつのおかげです」

「そうなんですか」三島はそうつぶやいて、三山の顔をまっすぐ見て頭を下げた。「ありがとうございました」

「礼を言うのはまだ早いぜ、お嬢さん。これからどうするかが微妙で大きな問題なんだからな」

 三山は須田に問いかけるような視線を投げかけた。須田はそれにうなずいた。

「まず三島さんには安全な場所に移ってもらいます。状況を考えれば警察も喜んで保護するでしょうから、安心してください」須田は一呼吸おいてから、厳しい表情で続けた。「三島さん、あなたがどんな理由でこの件に関わったのかは知りません。しかし、今あなたが危険な状況なのは間違いありません」

 三島は黙ってうなずいた。それと同時に、事務所のドアが勢いよく開いた。

「警察だ」

 石村が踏み込んできたが、室内の様子を見ると、拍子抜けしたように溜息をついた。

「もうちょっと緊迫した雰囲気を想像してたんだけどな」

「大丈夫、警察ですよ」須田は驚いて腰が引けている三島に優しく声をかけてから、石村に向き直った。「ちょうどいいところに来てくれたな、彼女の保護を頼む」

「ああ、わかったよ。それで、またここに戻ってこいって言うんだろ」

「さすが刑事さん、よくわかってらっしゃる」三山は笑いながら、石村の肩を叩いた。「警察が居ると誰でも口が重くなるからな。まあ、おいしい場面に戻ってこられるようにしといてくれよ」

「そういうことだ」

 三山と須田の言葉に石村はまた溜息をついて、あきらめたような表情を浮かべた。

「後は頼んだ」石村は三島に一歩歩み寄った。「それじゃ、三島さん行きましょうか。この2人にまかせておけば安心ですよ」

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