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62.

 喫茶店に入った前田は明らかにいらついていた。基本的に思うように物事が進んでいない。関わる人間全てが、自分勝手に動いている。ついコーヒーカップを勢いよくテーブルに置いて、中身を飛び散らせた。

「いけませんね、そういう態度は」

 人を小馬鹿にしたような声に前田が振り返ると、サンドイッチとコーヒーを乗せたトレーを持った吉田が立っていた。

「少し、御一緒させてもらいますよ」

 吉田は前田の返事を聞かずに腰を下ろした。前田は吉田を睨みつけた。

「前の話なら、まだ返事をする気はありませんが」

「ああ、それなら少し状況が変わりましてね。まあ単刀直入に言いますと、犠牲を出したくないなら、色々自重していただいきたいということでして」

「何の話です」

「さてねえ。あなたは今まで、できるだけ周りの人間の安全を考えてきたんじゃありませんか? ここにきてそれがどうでもよくなった、というんでしょうかね?」

 前田は吉田の嫌な笑顔を見て、すぐに思い当たった。

「彼女をどうした」

「別に無事ですよ、今は。問題は深く関わりすぎてるということなんですよねえ」

「彼女は何も知らないぞ」前田は低く押さえつけた声を出した。「無理やり巻き込んだだけだ」

「なるほど」吉田はますます笑顔になっていった。「それなら、本人の前で確認しましょうか? 幸い時間はたっぷりありますからね」

 前田は黙って吉田を睨みつけながら立ち上がった。

「ふざけたことをやるのは、いい加減にしてもらおう。もう昔のようなことにはさせない」

「おもしろくなってきましたね」

 2人は一緒に店を出た。その表情は対照的だった。

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