61.
須田は吉田の事務所が入ってる雑居ビルの入り口に到着していた。事務所のある3階の窓を見上げると、明るい時間にもかかわらずカーテンがしっかりと閉まっていた。すぐに踏み込むことはせずに、向かい側の道から様子を見ることにした。
「なんかおもしろいものでも見えてるのか? 俺には趣味の悪いカーテンが閉まってる怪しい事務所しか見えんがね」
いつも通り気楽な服装の三山が声をかけてきた。
「これからおもしろくなるだろ」
須田の答えに三山は苦笑いともとれる表情を浮かべた。
「あんまり注目はされたくないんだけどな。まあ大立ち回りにならないことを祈ろうじゃないか」
三山は須田の肩を叩いて雑居ビルに向かった。須田は黙ってその後についていった。3階に到着すると、吉田の事務所の前には屈強そうな男が立っていた。三山はそれを見ると、鼻で笑って男に近づいていった。
「よう、元気にやってるかい?」
男は三山を認めると、気の毒なくらいにうろたえた。
「あの、いや、どうも、ええなんとかやってます」
「そうかそうか」三山は男の方を叩いた。「そりゃうれしいことだが、今日はどんな仕事をしてるんだ? まさか俺に言えないようなことはやってないよな」
「いえ、それは、その」
「やってないならよ」三山は笑顔で男にぐっと顔を近づけた。「さっさと失せろ」
男はあっという間に青ざめて、背中を向けた。三山はその背中にさっきまでよりも優しい声をかけることにした。
「やる気があるなら、後で俺のところに来いよ。堅気の仕事を世話してやるから」
男は返事をせずに階段に消えた。須田はそれを眺めながらつぶやいた。
「堅気のやりかたとは言えないな」
「平和的だろうが。いいから入るぞ」
三山はゆっくりと事務所のドアを開けた。




