6.
「いるんでしょ? さっさと出てきなさい」
木村は返事を待たずにドアを開けた。須田の顔をよく見ると、うなずいて口を開いた。
「景気悪そうね、あんた」
木村はバックから煙草を取り出した。
「俺は嫌煙派なんだがな」
須田の言葉を無視して、木村は煙草を口にくわえた。しばらくバックをあさっていたが、溜息をついて顔を上げた。
「火、貸してくんない?」
「ガスコンロでも使ってくれよ」
須田は面倒くさそうに給湯室を指差した。木村は何かつぶやきながら、給湯室に入っていった。煙草に火をつけると、盛大にふかしながら戻ってきて、椅子に座った。須田はいつの間にかウイスキーのビンを机の上に出していた。
「昼から飲もうなんて、いいご身分だこと」
「飲まないとやってられない時もあると思うけどな」
「ああ、そう」木村はタバコの煙を須田に吹きかけた。「くだらないおしゃべりをしにきたんじゃないのよ」
机の上に資料が投げ出された。須田はそれを手にとってざっと目を通した。木村はその間、コンパクトを取り出して化粧を直していた。
「なるほどね、確かにつまらん野郎だな」
「誰が?」
「このファイルの野郎のことだよ」
木村はタバコを机でもみ消すと、コンパクトをしまって立ち上がった。
「それじゃ、約束の件よろしくね」
「帰るのか?」
「用は終わったでしょ」
そう言って、木村はさっさと出て行った。須田はウイスキーのビンを手にとって、軽く振ってから机の中に戻した。




