59.
「協力してもらえて助かりましたよ。手荒なことはしたくないものでしてね」
吉田は気味が悪いほどににこやかに笑いながら、椅子に沈み込んでいる三島に語りかけていた。車に乗せられて、目隠しをされていた三島は、とにかくここがどこかということを考えていた。どこにでもあるようなちいさな雑居ビルの一室ということと、さっきのファミレスからはそれほど遠くない場所らしい。カーテンで外が見えない状況ではそれくらいしかわからなかった。
「ここがどこかなんていうことは、考えても無駄なことですよ。わかったところで状況が変わる要素にはなりません」吉田は三島の向かいのソファーに勢いよく腰を下ろして足を組んだ。「助けなんて期待しないことですな。3回も偶然はありませんよ」
三島はそれでも口を開かず、吉田の話をまともに聞いている様子もなかった。吉田はそんなことは全くかまわないようだった。
「それにしても病院から抜け出してくれて助かりましたよ。あそこは色々と目をつけられてますからね、こうやってゆっくりと話すことも出来ません。いやいや、重ねてお礼を申し上げますよ」
「なんなんですか」
饒舌な吉田に対して、三島は一言だけつぶやいた。効果はあったようで、吉田は口を動かすのをやめた。
「やりたいことがあるんですよね? だったらさっさと済ましたらどうなんですか?」
「おや、何をですか?」
三島の絞り出すような言葉にも動じずに、吉田は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「別に私のクライアントはあなたの想像されているような解決法は特に望んでいませんよ。まあそれも否定はしませんが」吉田は足を組み直した。「もっとも、私はそんなことはやりませんよ。警察やら探偵やらに餌を投げてやる趣味はありませんから」
三島は黙って吉田を睨みつけた。吉田はそれを無視してソファーから立ち上がった。
「まあそういうわけですので、思う存分ゆっくりしていってかまいませんよ」
吉田はドアを開けて外に出て行った。ドアの向こうには監視役らしい屈強な男が立っていた。屈強な男にうなずく吉田を見ながら、三島の頭の中ではとりとめのない考えが渦巻いていた。




