57.
朝の空いているファミレスで、多少緊張した表情の前田の前に、三島が座っていた。
「なぜこんな無茶をしたんですか? 病院のほうがずっと安全でしょうに」
「でも居場所が知られてるのは不安なんです」
「それは逆ですよ。誰もが知ってるからこそ安全なんです。現に一度助かってるでしょう」
「でも」コーヒーカップを持つ三島の手は震えていた。「3度目はダメかもしれません」
「確かに危険ですよ、でもそれはあいつが追い詰められてるということなんです。そこまでしないと駄目なんですよ」
三島の震えはおさまらなかった。前田はそれに大した反応を見せずに、朝食セットのスクランブルエッグをつついていた。
「とにかく病院に戻るのが最善です。それでしばらく時間は稼げるでしょうから、そこが勝負ですよ」
前田の言葉は三島には届いてないようだったが、前田は特に気にする様子もなく、朝食を消化していった。全て食べ終わると、前田は静かに立ち上がった。
「支払いは済ませておきますから、とにかく病院にもどってください」
三島は前田が立ち去った後も、じっとして動かなかった。
どれくらい時間が経ったのかわからなかったが、三島は意を決して立ち上がると、須田の名刺を取り出して、店内の電話に向かった。
「はい、須田探偵事務所です」
須田の声に三島は言いようのない安堵を感じた。
「あの、三島です。三島理恵です」
「ああ、連絡をお待ちしてましたよ」
須田の声には、ホッとした雰囲気があった。三島は多少気分がほぐれるのを感じた。
「今はどちらにいるんでしょうか」
「3丁目のファミレスにいます、店名は」
そこで誰かの手で電話が強制的に切られた。三島は振り返ることもできずに固まった。
「探しましたよ三島さん。色々聞きたいことはありますが、とりあえず私と一緒に来てもらいましょうか」




