56.
須田はとにかく、三島の家ということになっていたところに向かっていた。この街で三島が立ち寄る可能性が高い場所といったら、まずあそこだった。
家の前にはすでに石村が来ていた。須田に気づくと、首を横に振った。
「ここには誰もいないぜ。とっくに立ち去ったのか、そもそも戻ってないのかはわからないな」
「家の中の状況はどうなんだ」
「特におかしなところはない、というのがおかしいな。キチンと整理されていて、慌てて出て行ったような痕跡はない。それならなんで誰も家にいないんだ?」
「慌てて出て行ったのかもな」
「ああ、それも考えられるけどな。何かの事情で単に帰ってきてないだけという可能性もある」
石村と須田はしばらくの間、無言で無人の家を見つめた。石村がその沈黙を破った。
「三島が行きそうなところに、目星はついてるのか?」
「見当がつかないから、とりあえずここに来たんだ」
「そうだよな。それにしても、狙われて人間が好き勝手に行動するのは参るな。動き回ってたほうが安全だとでも思ってんのかね。じっとしてくれてないと効率のいい警護なんてできやしないってのによ」
「いつだって、そういった苦労は理解されないもんだ」
「わかってるわかってる」石村は大きな溜息をついた。「理解してもらうためにも、さっさと三島をみつけないとな。俺のほうは組織力、お前はコネと勘だ」
それだけ言うと、石村は車に乗り込んだ。須田は黙ってそれを見送ると、事務所に足を向けた。三島と前田がつながってるのなら、自分と接触する可能性がある。そのためには動くのを我慢して、確実に接触できると思われているところに居る必要があった。




