55.
須田は激しいノックの音で目を覚ました。昨晩と同じ格好のまま多少うんざりしたような顔でドアを開けた。機嫌の悪そうな木村が立っていた。
「お客様を迎える状態には見えないんだけど」
「客っていうのは依頼人のことだ」
悪態をつきながらも、須田はドアを支えて木村を事務所の中に入れた。木村は煙草とライターを取り出して、早速煙を吐き出し始めた。
「それで、こんな朝早くから何の用なんだ」
「あんたに色々頼まれた例の三島って子なんだけどね。今朝になってみると病室から消えてんの」
須田は表情を変えることなく、黙って木村の言葉を受け入れた。
「病院の職員に聞いてみたけど、目撃者は無し。抜け出した経路は不明」
「深夜だったら、正面から出て行っても、誰にも見られないのは難しくないだろうな。思いつきで成功するもんじゃないだろうが」
「まあ、計画的なのは間違いないでしょうね」
「問題は誰が絡んでるのかだ」
木村は煙草を盛大にふかしてから、口を開いた。
「あんたの依頼人じゃないでしょうね?」
「ありそうなことではあるけどな」須田は厳しい顔で天井を見上げた。「そんなことより彼女の身柄を確保することが重要だ。何しろ命を狙われてる」
「それなら、警察にはもう情報がいってるから、街を出てなきゃ見つかるのは時間の問題と言えそうね」
「生きてればな」
須田はそれだけ言うと、すぐに受話器を取った。
「お前か、ああ俺だ。三島が病院から失踪した。なにか情報があったら頼む」慌しく電話を切って、また違うところに電話をかけた。「急ぎの用事だ。三島が病院から失踪した。警察も動き出してるだろうが、お前のほうでも動いてみてくれ。頼むぞ」
須田は電話を切ると、上着を手にとって立ち上がった。
「頼りになるお友達がいて安心だこと」
「だといいけどな。お前の方でも暇があるなら手を割いてくれ」
「はいはい。わかりましたよ」
木村の返事を聞きながら、須田は事務所の合鍵をそっちに放り投げた。
「鍵は閉めといてくれ」




