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51.

「三島が今回の件に関わった動機は、個人的な恨みだろう。だがそれは一人で無謀なことをしようとするほどのものでもないはずだ」

「それはどうだろうな」

「その筋以外では知名度がないに等しい個人営業の探偵を訪ねてくる時点で、衝動的にヤケを起こしたとは思えないだろう。もっとわかりやすいところはいくらでもある。それに、本人としては準備万端で乗り込んできたんだろうから、ますますやけを起こしたとは考えられない」

「最初からお前と接触するつもりだったと、そう考えられそうか。で、問題はそれを考えた人間が別にいるってことだな」石村はボールペンを手にとって回し始めた。「例えばお前の依頼人とか」

「確証はない。それに直接に接触をしてるかどうかはわからない。しかし、その可能性は十分ある」

「結ぶ線はドラッグ、だな。それで、お前の依頼人はどうつながってくるんだ?」

「それなりに壮大な話だ」

 須田は目を逸らして溜息をついた。

「なるほど、例の5年前の話か」

「そうだ。こんなところじゃ話すわけにはいかない事情があるんだが、まあ簡単に言うと、肉親の仇討ちだろう」

「なるほどな、あのクソッタレの奥がクソを撒き散らしてたわけだ。しかし、直接突っ込んでいかないで、つながりのありそうなヒモをマークしようとしたわけか。その上、奥のことも探り出してたとすると、なかなか大した依頼人だな」

「そうだな、いいセンスをしてる」

「雇いたいくらいか?」

「いや、秘密が多い人間は駄目だ。ある程度は信頼してもらわないと、できることもできなくなる」

「ああ、それはわかる。で、具体的には何を隠してるんだ?」

「まずはさっきの話せない事情だ。それから三島のことと、奥のことだ」

「その話せない事情とやらはどうにかなんないのか? 昔の担当、山崎だったか、あれも同じこと言って、ほとんど内容ゼロだったんだぞ」

「それは仕方がない。相手は政治家だ」須田はすぐに顔の前で手を振った。「今、何も言わなかったよな」

「ああ、何も聞いてない」

「それで、政治家といったら、古いタイプは妾なんかいたりするわけだ」

「まあ、何にもなけりゃ、公には認知しないよな。当事者は知ってるだろうが。きっと我々一般大衆には計り知れない事情がおありなんだろうな」

「そうだな」須田は窓の外の夜の街を見つめた。「例えばという話だけでも、けっこうなものだ」

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