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40.

 前田が喫茶店に入ってから1時間ほどが経過していた。これまでのところ、何も大したことはなかった。前田も筋肉男もお互いにはぐらかしているばかりだった。

「いいかげん、本題に入ってもらいたいな。聞かせたいのはそんな雑談じゃないだろ」

 前田の唐突な言葉に、筋肉男はニヤリと笑った。

「そうだな、俺もこういうおしゃべりは苦手なんだ」筋肉男は身を乗り出した。「お前、あの探偵の邪魔をしてやれよ」

「理由は」

「俺は知らねえよ。ただのメッセンジャーだからな」

「なるほどな」

 あの探偵は案外いいところを探り当てているのかもしれない。それならこいつらと目的は違っても当面の間は同じ行動をしたほうがいいかもしれない。前田は瞬時にそう考えてうなずいた。

「あんたのボスはだいぶ追い込まれてるみたいだな」

「用心深いんだよ俺のボスは」

「それで、具体的には何をして欲しいんだ?」

「勘違いすんなよ。お前が手を引くのが本当は一番いいんだ。ただ、手を引きたくないようだから、妥協してやってんだよ」

「ありがたい話だな」

「そうだよ。まあ、あることないこと吹き込んで、あの探偵を混乱させりゃそれでいいそうだ。せいぜい時間を稼げよ」

 筋肉男は前田の返事を聞かずに立ち上がった。

「それじゃあな、うまくやってくれ」

 前田は黙って筋肉男の後姿を見送った。あの連中は何も起きないのが望みのようだが、そううまくはいかない。すでにあいつらは一線を越えている。前田は筋肉男の言うことに従う気はなかった。それに、今さら須田のことを止めるのは無理なように思えた。期待以上の働きをしてくれていた。


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