39.
ちょうど前田と筋肉男が会っている時に、須田は新幹線に乗っていた。5年前の事件をできるかぎり思い出そうと、カバンに入れてきた資料を改めてじっくりと読み始めた。
事件に関わることになったのは、大平からの連絡が最初だった。当時は例の名士の秘書をやっていた大平は、できるかぎり極秘で、という条件で、ある人物の依頼を引き受けて欲しいということを須田に言ってきた。上客の頼みだったので、とりあえずその依頼人に会うことを承諾した須田は、今と同じように新幹線に乗り込んだのだった。
現地に到着して依頼人に会ってみると、案外くだらない話で、ある女にヒモがついてるので、それをなんとかして欲しいというものだった。
しかし、調査を始めてみると、それほど簡単な話ではないのがわかってきた。まずはヒモがドラッグの売買に関わっている様子があること。女もそれに加担しているようだったこと。警察が動き出すべく準備をしているようだったこと。どうにもきな臭い感じだった。
地元ではなかったので、使える人脈に不自由したこともあり、もたもたしているうちにヒモが殺されてしまい、女が警察に駆け込んだ。そして、警察が渡りに船と動き出したので、できるかぎり極秘、という条件ではほとんど動けなくなってしまった。
もちろん須田としてはできるだけのことはやろうとしたのだが、それは大平を通じて、例の名士から強く止められてしまった。なんとも消化不良な依頼だった。
結局その時はそれで終わってしまったのだったが、帰ってから多少調べてみると、依頼人として会った人物はただの代理で、本当の依頼人は名士の後援者で女の母親だったこと、結局警察は大した収穫をあげられなかったこと、女にはヒモ以外の男がいたらしいことがわかったのだった。ドラッグの元締めに関しては、はっきりしたことはまるでわからなかった。
依頼はキャンセルされていたし、女も家に戻ったようだったので、この件は自然に解決してしまったということで、須田はそれ以上調べることはしなかった。警察も重要なことは何もつかめなかったようだった。
一言で言えば、ただの失敗ケースだった。




