35.
須田は石村が帰った後も店に居座っていた。石村には言わなかったことだが、昔の依頼人というのは、須田にとってはかつての上得意で、県議会議員もやっていたことがある名士といえる人物だった。裏がありそうなことはわかっていたのだが、その名士からきつく止められたので、決着がつけられなかったのだった。
須田は携帯電話を取り出して、その名士の秘書をやっていた人物に電話をかけた。
「もしもし、大平です」
「どうも、ご無沙汰です」
「あ、ああ、須田君か、ずいぶん久しぶりじゃないか。どうしたんだい突然」
「単刀直入に言いますと、5年前の件についてお話を伺いたいんです」
しばらくの間、沈黙があった。
「電話で話すのは無理だよ、須田君。君にも事情があるんだろうが、そう簡単に話せることではないんだよ」
「それはわかっています」そう言って、須田もしばらくの間沈黙した。「では私がそちらに伺います。明日会って頂けますか?」
「午前中なら空いてる。ホテルを教えてくれれば、私のほうから行くことにしよう」
「ありがとうございます。今晩遅くに着くと思うので、連絡は明日の朝にさせて頂きます」
「そうか、私もあの件はあまり思い出したくないんだが、君のことだ、何か事情があるんだろう。できる限り協力はさせてもらうよ。正直なところ、肩の荷を降ろしたいとも思うんだよ」
「では明日、よろしくお願いします」
須田は電話を切った。空振りにならないことを祈った。




