33.
須田は前田からの電話を切って、腰を上げた。前田のことは色々気になるし、重要なことであるはずだが、目の前の問題は吉田と奥、それにあの筋肉男だ。須田は再び机の上のファイルとの格闘を再開した。
丁寧に整理をしていないので、手間がかかる作業だった。しかし、なんとかドラッグが絡んでいた事件を抜き出すのだけは終わっていた。雑にファイルを作っていた自分を責めながら、須田は一つ一つ、ファイルされた事件をじっくりと調べた。
そうして調べていくうちに、4年前のファイルに気になる事件を見つけた。珍しく少々遠くに出張した件だった。その時は、ヒモとくっついていた女を連れ戻すという依頼だったのだが、ヒモが殺されてややこしい事態になった。女が異常におびえて、警察に保護を要求したおかげで、動きづらくなってしまったのだった。細部はかなり違うが、大筋としては今回の件と非常に似ている事件だった。女にヒモ以外の男が居た点や、ドラッグ絡みであることも同じだった。
そこまで思い出してから、須田は給湯室に行ってコーヒーを入れた。結局あの時は、ドラッグに関しても、女のヒモ以外の男に関しても、ほとんど何もわからなかった。須田はコーヒーを一口飲んで、少し想像力を飛躍させてみた。
もしかすると、今回の件はこの4年前の件と関係があるのかもしれない。ドラッグは奥が絡んでいて、男は前田なのかもしれない。そして、この依頼は5年前に受けたのだが、4年前のファイルに納めてある。ファイルは依頼の完了日ベースで作っているからだ。この線で考えると、侵入者は須田のことを良く知っているというわけではないが、5年前の件を知っている、あるいは知った人間、という可能性がでてくる。
うまくいかなかった依頼を掘り返すのは気が進まなかったが、どうしてもやらなければいけないことのようだった。




