28.
前田は須田の事務所を出た後、てきとうなラブホテルに入って、かばんの中の資料をベットに広げて、にらめっこをしていた。
噂通り、須田という探偵はなかなか鋭い男だったようで、これまでのところは期待以上の働きをしているようだった。安田が死んだのは、おそらく殺されたのは誤算だったが、それはつまり、相手もあせってきてるということだ。
前田はにやりと笑った。しかし、すぐに顔をしかめると、財布から一枚の紙を取り出した。さっきのビジネスホテルで、聞き覚えのある声の男が置いていった連絡先だった。いくらかためらいながら、前田は携帯電話を取り出して、その番号に電話をかけた。
「おや、前田さんですか? 思ったよりお早い連絡をありがとうございます」
「私のことをずいぶんとご存知のようですね。この電話も私の名義ではないんですけど、まあ、そんなことはどうでもいいんですけど。ホテルでの話の続きを聞かせてもらえますかね?」
「そうあせらないで。お互い協力できると思ったから、あなたに接触したんですよ」
多少いらついた感じの前田に、電話の向こうの男は、含み笑いを浮かべたような雰囲気を漂わせていた。
「まあ、あなたの気持ちもわかりますから、単刀直入に言わせてもらいますが、事態はあなたが考えているよりも切迫しているようですよ」
「どういうことです」
「ある女性が狙われたんですよ。あやういところだったようですけどね、大事にはならなかったようです。誰だかは言う必要はありませんよね」
前田は黙って唇を噛んだ。
「とりあえずはそういうことです。それでは、何かあったら連絡を入れてくださいよ」
「ちょっと待て」前田は電話を切ろうとした男を制止した。「彼女の安全は?」
「それは大丈夫でしょう。あの男がそこまでマヌケだということもないでしょうしね。それでは、健闘を祈ってますよ」
電話は一方的に切られた。前田は乱暴にベットの上に携帯電話を放り出した。




