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26.

 須田が事務所に戻ると、まだ時間には早かったが、前田が事務所の前で待ちかまえていた。今までの前田とは雰囲気が違った。

「早かったですね」

「ええ、どうしても話しておきたいことがあったので」

 須田は前田の目を見てから、事務所の鍵を取り出した。ドアを開けて前田を先に事務所に入れた。前田は依頼人用の椅子に座って、かばんを膝の上に大事そうに乗せた。須田は自分の椅子に腰掛けてから、おもむろに口を開いた。

「特別な話があるようですね」

「ええ、依頼した件の補足です」

「それはちょうどよかった。私のほうからも話しておきたいことがありますから」

「話しておきたいこと、ですか」前田は微笑を浮かべた。「見当はつきますね」

「あなたが調査依頼をされた男は死にました。自殺か他殺かはわかりません。警察は動きだしてますが、今はまだ本格的には捜査を開始していません。

「あなたは警察から連絡を受けたと言ってましたが、仮にそれが本当だとしても、少なくともこの件であることはありえません。だからといって、それ以外のことでそういった連絡があるというのも考えにくいことです。もし何かあるなら、直接あなたのところに行くでしょうからね」

「その通りです」

「なぜ私にかまをかけるようなことを聞いたんですか? どうしてかは知りませんが、あなたはすでに調査対象の男の死を知っていた。それだけの情報を得られるのなら、私があなたの知らない何かを知っていると考える理由は無いと思いますが」

 須田は前田を観察するように凝視した。前田は顔を床に向けて、目をそらした。

「もちろん、依頼人であるあなたがこんな質問に答える義務はありません。しかし、率直に申し上げますと、今回の件は妙なところがありますし、仮にあなたが依頼をキャンセルしたとしても、私は最後まで関わる気でいます。隠してることがあるなら、教えていただけるとありがたいですね」

「いや、参りましたね」前田は頭をかいてから、顔を上げた。「今は何も聞かずに最初に依頼した通りにしてもらえませんか?」

 少しの間、沈黙が流れた。須田はゆっくりとうなずいた。

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