2.
前田は汗を拭きながら空を見上げた。今日は暑い。涼をとるために、ファミリーレストランに入って、アイスコーヒーを注文した。上着を脱いで、煙草を取り出して火をつけようとした。
「よお、兄ちゃん。火遊びはよした方がいいぜ」
前田は突然の声に顔を上げた。いつの間にか、向側に小柄で筋肉質な男が座っていた。危ない、前田はそう感じて立ち上がろうとした。
「そうあせんなよ。まだ注文したもんもきてねえしな」
男の言葉で、前田は席に押さえつけられた。アイスコーヒーが運ばれてくると、男はビールを注文した。前田はアイスコーヒーに手をつけずに、男をよく観察しようとした。
「まあ遠慮するなよ。それとも、俺の顔に何かついてるのか?」
再び男の言葉で前田の行動は押さえつけられた。男は一段低い声で無表情にしゃべり始めた。
「貴様は何も知る必要はない。探偵を雇ったようだが、無駄なことだ。貴様は何も知ることはできないし、そうする意味もない。わかるよな、俺が何を言いたいかは?」
「いったい、何の話だ?」
「わかってんだろ」男は運ばれてきたビールを一口飲んだ。「例の女の話だ。さっさと忘れちまえよ」
「何を言ってるのかわからないな」
「しらばっくれんなよ」男は芝居がかった口調でそう言った。前田は完全に気圧されていた。男の言葉にではなく、その凶暴な冷たい目に。しばらくして、男は口を開いた。
「もう行ってもいいぜ、勘定は俺が払っといてやるからよ」
前田は男の雰囲気に押されるようにして、店から出た。




