139.
須田は三山からの電話を受けていた。
「例のクソッタレが荷造りして出て行ったみたいだ」
「一人でか?」
「いや、例の探偵も一緒だとよ」
「そうか。助かった、もう見張りは必要ない」
「終わりか」
「こっちの手からは放れるんだよ」
「そりゃせいせいするな」
「同感だな」
須田はそう言って電話を切った。しかしすぐに石村から電話があった。
「お前ね、こういうことやるんじゃないよ」
須田は石村の愚痴に近い第一声を黙って聞いた。
「一応こっちでも動いてはいたんだぜ。それがこのスタンドプレーで吹っ飛んじまったよ」
「あっちの警察に活躍の機会を譲ってやればいいじゃないか。そのほうが何かと丸く収まるだろ」
「ああそうだよ。まったく、やってくれるな」
「問題ないよな」
「ああ、ない。ないってことにしておこう」
「それじゃあ、仕事に励めよ」
一方的に電話を切った須田は、前田の依頼の伝票を作り始めた。それから資料の整理等をしていたらあっという間に時間が経ったようで、気がついたら前田が来る予定の時刻になっていた。だが、鳴ったのは電話だった。
「はい、須田探偵事務所です」
「前田です。実はすぐにここを出ることにしたので、駅で会えませんか?」
「急な話ですね。どうしたんですか?」
「実はあれから太平さんから連絡があったんです。奥があの町に向かったらしいっていう話でした」
「そうですか。それは時間が惜しいでしょうね。では私が駅まで行きますよ」
「はい、ありがとうございます。では駅で待っています」
それから数十分後、須田と前田は駅のホームで向かい合って立っていた。すでに清算は済ませていた。
「これからが大変ですよ前田さん。奥の存在が公になって色々とやかましくなっていますから」
「それこそ望むところですよ」
「今度は大平さんの協力が得られるますから、2人で協力すればいい形で決着がつけられるでしょう」
「ええ、やってみます」
2人は握手をした。
「うまくいったら連絡をください」
須田はそう言って手を離した。前田がうなずくのを見ると、それに背を向けて駅のホームから去っていった。




