137.
奥との対決を済ませた須田の行動は早かった。まずは大平に連絡をした。
「須田です」
「ああ、須田君か。何か進展があったのかね?」
「これから進展させます。太平さんには地元に戻って準備をしておいてもらいたいんです」
「準備?」
「はい、奥のことで騒がしくなると思うので、その準備です」
「そうか」大平はどことなくうれしそうな声になった。「それはしっかりと準備をしておかないといけないね」
「奥がそちらに行く可能性もあるので、それに対する対策も必要になるかもしれません」
「腕が鳴るよ」電話の向こうで、大平は笑っているようだった。「ありがとう須田君」
「まだ決まったわけではありませんよ」
「期待しているよ」
「わかりました」
須田は電話を切ると、すぐに前田の番号をダイヤルした。
「須田です」
「はい、なんですか?」
「少々予定が変わりました。これから奥に圧力をかけます。何か行動を起こすか、それとも自分の本拠地に逃げ込むかもしれません」
「どういうことなんですか」
「賭けですね。うまくいけば奥を自分の巣に追い詰めることができるでしょう」
「うまくいかなかったら?」
「反撃されるかもしれませんが、それはそれでいいでしょう。あちらから表に出てきてくれるのなら都合がいいと言えます。ほとんどその可能性はないでしょうが」
「自分の巣ということは」
「あなたがよく知っている場所です。5年前の決着をつけるには都合がいいでしょう」
「話が違いますね」前田はいらついているようだった。「ここで終わらせるつもりじゃなかったんですか?」
「望んでいる結果を追うより、最悪の結果を選択しないことのほうが重要です。それにあそこでなら大平さんの協力も得られます」
「それは確かですか」
前田は大平の協力という言葉に強く反応した。
「ええ、確かです」
しばらく間があった。
「わかりました」
「それでは、身の回りによく注意しておいてください。さしあたって、あなたに危険はないと思いますが何があるかわかりませんから。何か動きがあったらこちらから連絡します」
須田は電話を切った。そして、手帳を取り出してそれに何かを書き始めた。




