136.
「それではまず、あなたの手に入れたいものを聞かせてもらいましょう」
須田の言葉に奥はその背後の三山をちらっと見て笑みを浮かべた。
「ここで商売するのだって、それなりに手をかけてるんだぜ。そう簡単に手放すのはごめんだ」
「危なくなったら立ち去る。それがあなたのやりかただと思いましたが」
「まあな、別に商売できるのはここだけってわけじゃない。しかしなあ、もう一度言うが、それなりに手も金もかけてるんだよ。だから俺は商売を続けたい。わかるな? 探偵」
「それはわかりますが、それなら私としてはそうできないようにするしかありません。この街だけでとどめる気もありませんね」
「大きくでるじゃないか」
「そうすることもできるというだけですよ。くどくなりますが、そうしたいわけではありません」
「つまりこのクソッタレな街から撤退するのが最低条件かよ」
「そういうことになりますね。もちろんそれはあなたの意思で決めればいいことです」
「大した野郎だ」奥は笑いながら首を横に振った。「探偵ってやつは強請屋と区別がつかないな」
「たまに言われているようですね。それで、どうしますか? おとなしくこの街から出て行くか、それとも、出て行かされるか。決まりましたか」
須田の言葉と態度に奥は舌打ちをした。それを聞いても須田は全く表情を変えずに、奥の答えを待った。
「帰れ」
奥はつぶやくように言った。
「よく聞こえませんね」
「帰れと言ったんだ。貴様みたいな犬が俺をどうこうできると思うなよ」
「そうですか。それは残念です」
須田は立ち上がった。
「おい、いいのか」
三山は須田を止めるように声をかけたが、須田はそれを無視してドアに向かった。そして、ドアノブに手をかけてから振り返った。
「気が変わったら早めに言ってください。動き出したら止められませんから」
奥は何も答えなかった。三山は黙って須田の後を追って部屋を出た。須田はドアの横で三山を待っていた。
「あれでいいのか?」
「いいんだ」須田はうなずいた。「焦って下手をうってくれれば最高だ」
「スタンドプレーは控えろよ。長生きできないぞ」
「それが出来るのが自営業のいいところなんだよ」




