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135.

 須田と奥は雑居ビルの一室で初めて顔を合わせていた。椅子に座った須田は無表情で、特に力の入っていない様子だった。向かい側の奥は警戒と軽いいらつきが混ざったような表情を浮かべていた。

「それで、探偵? わざわざ俺を呼び出した言い訳でも聞かせてもらおうか」

「呼び出した覚えはありませんね。我々は偶然同じ場所に居合わせただけですよ」

 須田は白々しくそう言った。奥は軽く舌打ちをした。

「ああ、そうだな。それじゃ立話でも始めるか」

「いいや」須田はゆっくりと首を横に振った。「話合いなんてしませんよ。とにかく私の話を聞いてもらいましょう」

 奥は黙って須田をにらみつけた。須田は表情も声の調子も変えずに話を始めた。

「まず最初に確認しておきましょうか。私はできるだけこの件は表に出したくないと思っています。利害関係が込み入ってますからね、うまく処理するためには、そのほうが都合がいい。もちろん、それは何も追求しないということではありませんし、何も明らかにしないということでもない」

 須田はそこで一度言葉を切って、奥の目をじっと見た。

「叩けばほこりがたっぷり出てくるような人間にとっては、都合がいい解決の仕方になるでしょう。最善ではないのは当然ですが、こうせざるを得ない状況というのもある。そして、こういったことをスムーズに進めるためには、関係者の協力と妥協が必要になってきます」

「俺に協力しろっていうのか」

「まあ、協力や妥協がなくてもそれなりのことはできます。幸いにも私は、それほど利害関係に縛られているわけではないので。ただし、あなたにも考慮すべき利害関係者というものになってもらえれば、そんなことはしなくてすむでしょうね」

 奥は怒りやいらつきではなく、笑った。

「ずいぶん言ってくれるな。まるでお前が全部仕切ってみたいじゃないか」

「仕切ってなどいませんよ。今このことをうまく治められる立場が私に巡ってきたというだけです。偶然、いいタイミングでね」

「わかった、乗ってやってもいいぜ。内容次第ではな」

「それなら、早速始めましょうか」

 須田がそう言うと、ドアが勢いよく開き、三山が入ってきた。須田は振り返りもせずに無表情のままだった。三山は入ってきた時と同じようにドアを勢いよく閉めて、大股で奥の前まで来て、見下ろした。

「よおクズ野郎。お前の息の根を止めてやれないのが残念だよ」

 奥は三山の顔を見上げてにやりと笑った。

「あんたはここらへんで顔がきくっていう奴だったか。今更何の用だ?」

「いらないことは言わないほうが利口だぞ。俺はそこの探偵ほど優しくも慎重でもないからな。それに俺はこの街のことを愛してる。お前なんぞに荒らされて黙っているわけにはいかないんだよ」

「なら、好きにしたらどうだ」

「ああ、好きにやるさ。だがそれは今じゃあない」

 三山はそう言うと、須田の後ろにまわって、その肩に手を置いた。

「とりあえずこいつに任せてからだ」

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